第11章
てっぺんまで昇る太陽とは反対に、あなたになかなか会えない退屈で沈んでいた夏休みの終わり頃。
やっと菫と透空と藍と私で海へ行く予定が立った。
集合まではあと三分。最後の角を曲がったら集合場所の交差点で待つあなたが見えた。学校以外であなたに会うのは初めて。暑苦しい夏とは真逆の真っ白な涼やかなTシャツを着たあなたはいつもの制服姿よりちょっぴりかっこよく思えた。
授業でもたまに行くぐらいに海は身近で、私たちにとってはなんの特別感もない場所なのだけど、今日は一味違う。
波は水しぶきを上げて、寄せては引いてを繰り返していた。
ジーパンの裾を膝上まで捲ってもなおびしょ濡れなあなたは笑顔いっぱいでこちらに手を振っている。
「今行くから待っててー!」
ほんのりと笑みを浮かべた菫も軽やかな足取りで藍のもとへと歩み寄る。
好きという感情を抱えた私とは違う。菫はまっすぐに藍と向き合っているように見えた。
「友達っていいな。」
とちょっぴり嫉妬した。
その時だった。
「珈那ってさ、藍のこと好きなの?」
透き通った声。私のすぐそばにいて私に声を掛けられるのはそう、透空だけだ。
見上げるとやはりそこに居たのはいつもより少し顔を強ばらせた透空。
今、透空はなんて言ったっけ。
好きなの?
誰を?
藍を?
「藍のこと好きなの?」
ぶれることなく真っ直ぐに私を見つめながらもう一度問う透空を前に、やっと我に返る。
「えっと、うーんと、」
まだこの事態を飲み込めない。
「焦ってる笑やっぱり好きなんだな。」
好きな演技をしているだけだよ。
とでも言ってしまえば良かったのだろうか。
「そんなことないよ!うん、絶対ない。」
必死に否定を繰り返すしかなかった。
「好きなんだろ?笑見てたら分かるって笑」
私の心を見透かすように途端に波が落ち着く。
その時だった。
静寂の中、遥か遠くでピアノの音色が響いているようだ。
それは私の心を鷲掴みにしたあの感じに似ていて。
思わず藍がここにいるか確認する。
「おーーーい!珈那もこっち来いよー。」
菫と水を掛け合いながら笑顔で私を呼ぶ声。
なんだ、空耳か。
波のように次から次へと変わるテンポ、音量。芯のあるメロディー。
いや、違う。
私の脳内に藍の音楽が再生されていたんだ。
目を瞑ると安心する。藍の音楽に満たされてゆく。
あぁこの響き、やっぱり美しい。
あの日、藍が奏でた音は藍だけの音だった。私には奏でられない音だった。
「私が藍を好きなわけ笑」
見て見ぬふりをして、ひとつ嘘を吐いた。
海を照らし続けていた太陽が予告なしにどんどん沈んでゆく。
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