第29話 試練

「何故こんなことに……? 指揮官、どうなっている!?」


「考えるのは後だゼクス。今は問題の対処が先だ。──全員に通達! プランAは失敗だ! アイン、フュンフを連れて俺たちの隊に合流しろ。Dの2地点で迎え撃つ。フュンフはスコープを低倍率にしておけ。ドライとフィーアは俺の合図に合わせて敵の部隊長らしき人物を射殺しろ」


『了解!』


「よし、俺たちも移動するぞ。ツヴァイ、今回は前回の戦争のような混戦と違って敵の意識が完全にこちらへ向いている。人数不利の中、警戒されている相手に油断は禁物だ。いいな」


「ああ……」


 ツヴァイはマガジンを交換し、単発に入れていたセレクターをフルオートに切り替えた。


「ゼクスはやや後ろからの火力支援だ。弾は遠慮せず使っていいが射線管理には気を配れ。向こうは俺たちを取り囲むように展開するだろう。闇雲に狙いを変えると俺たちが危ない」


「肝に銘じます、指揮官」


 戦場での死因の一から二割は味方によるフレンドリーファイア、つまりは誤射であると言われている。

 ジェイにとっての気がかりは敵の数よりもむしろ不慣れな味方だった。







「ただいま到着しました、ジェイ様」


「よく来たアイン。……敵は警備兵が見当たらない様子に勘づいて散開しているようだ。さっきのようにまとめて仕留めるのは難しい。お互い離れず、カバーし合うぞ」


「はい」


 ジェイたちは今一度武器の状態、残弾数、敵の位置を入念に確認する。


「準備はいいな? よし行くぞ! ──ドライ!」


『はい……』


 フィーアの正確なスポットの元、木々の隙間を縫うように放たれた弾丸は若干逸れて一人の兵士の肩に命中した。

 しかし大口径12.7mmの弾丸はほんのわずかに掠っただけで、その回転ライフリングにより人体を巻き込み抉り取っていった。


「あが……!?」


「よくやった! アイン! ツヴァイ!」


 アインとツヴァイは草むらから飛び出し、それぞれ両翼の敵に向けて射撃を開始する。


「こっちだ! 居たぞ!」

「お前たちが……!」


「フュンフ、ゼクス、援護しろ!」


 ジェイは自ら敵が一番固まっている正面へ吶喊し次々と敵兵を薙ぎ払う。


「運の悪い奴らだ……! 余計なことをしなければ死なずに済んだものを……!」


「ぐはぁッ!」


 突然の強襲に混乱状態に陥ったノーシスの兵士たちは為す術なく地面へ転がる肉塊と化していく。


「うおぉぉぉ!!!」


「おっと! そうはさせないぜ!」


「ひぃぃ!」


「戦場で背を向けるか……。ならば死ね!」


 決死の抵抗を見せようと果敢に挑んできた兵士はフュンフに狙撃され、逃げ出す者はゼクスの弾幕を背中に浴び天へ召された。







「──射撃中止!」


 ジェイがその号令を出した時には、重傷の敵兵一人を除いて五十余名のノーシス警備兵は皆絶命していた。


「……こんなもんか。負傷者はいるか!」


「全員無事です」


「よし。アイン、フュンフ、お前たちは交易路をノーシス側れ進み新手が来ないか警戒に当たれ。ツヴァイ、ゼクスは周囲の掃討を、ドライとフィーアも近辺の索敵だ」


「はい。行ってまいります」


 難なく自分たちの数倍の敵を全滅させたヴァルカンメンバーたちは淡々と次の行動に取り掛かる。


「──さて、お前は俺と話をしようか」


「うう……」


 ゼクスの弾幕を脇腹と太腿に受けた兵士は体力の血を流しており、助からないのは明白だった。


「どうしてこの人数の増援が来た? 調査では普段ノーシスの警備兵は十人前後だったはずだ」


「お前らに……話すかよ……」


 若い兵士は最期の矜恃とでも言わんばかりにギラついた目をジェイに向ける。


「やれやれ……」


 ジェイはそんな彼の様子を見てポケットから小型の注射薬を取り出し兵士の首に刺した。


「な、何をする……! やめろ……!」


「動くな。危ないぞ」


「殺すなら一思いに──あれ……?」


「鎮痛剤だ。我が社のは効果抜群だろう? 痛みほど無慈悲な暴君はいない、とは誰の言葉だったか……。話せば残りも注射してやる。すぐに楽になるぞ」


「…………」


 痛みと恐怖、そして薬剤の影響で兵士の思考はもはや正常ではなかった。そこへ囁かれる甘い悪魔の取り引き。

 この若い兵士にはそれを断るだけの愛国心も、精神的な訓練も足りていなかった。


「そっちの……、エスマタイルの役人から通報があった……。今日の昼頃に盗賊の集団がやって来るから警戒するようにと……」


「エスマタイルの役人だと……!?」


「何故そんなことを言われるのか疑問には思った……。だがいつものように面倒事をこっちに押し付けたいだけだと自分の中で納得させてしまった……」


「…………」


「俺の知っていることはそれだけだ……。さあ、早くその薬を……」


 若い兵士は血塗れの手を弱々しくジェイの方へ伸ばす。


「ああ。契約は守る。それが民間軍事会社ヴァルカンの鉄の掟だ」


「はは……。何が盗賊だよ……。得体の知れないもん押し付けやがってよ……」


 彼はそう言って苦い笑みを浮かべながら事切れた。


「終わったのかジェイ……」


「早いなツヴァイ……。ああ……」


「こっちはクリアだ……」


「こちらもクリアです指揮官」


『こちらフィーア。敵は居ないよ。もう誰も居ないみたい』


『ジェイ様、アインです。ノーシス方面からの敵影はありません。しかしかなり遠くから商人の一行が来ているようなので早くした方がいいかと』


 考え込むジェイの元には続々と報告が集まっていた。


「そうだな、考えるのは後だ……。──ズィーベン、エスマタイルの兵士たちに前進するように伝えろ」


『は、はい……。あ、あの、見間違えかもしれないんですが、この人たち、何だか人の死体? らしきものを大量に運んでいるんですが……。そちらで何かありましたか……?』


「死体だと……? ────! そういう事かオフィジェン……!!!」






◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み下さりありがとうございます!

次話2024/05/03 07:30頃更新予定!

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