第9話 古城に巣食う悪霊
「明らかにおかしいな!」
今にも崩れ落ちそうな城門を目の前にして、ディールはいきなりそう言ちた。
「とっても不気味ですね! なんだかお化けでも出て来そうな雰囲気です!」
アルの感想に対して、ディールは端的にそれを肯定する。
「ああ、居るさ! ヤバいのがな!」
「そんな恐い冗談はやめてください!」
「冗談なんかじゃないぞ! 天の声に訊いてみろよ!」
ディールにそう言われ、天の声に交信を試みるアルテミス。しかし、どうやら今回は全く反応が無いようだ。
「いつも突然聞こえてくるだけで、私の方から語りかけた事なんて無かったから、ダメ元でやってみましたけど、やっぱり駄目みたいですね......常に私の事を見ているわけでもないみたいです......」
「そうか......まぁ、それは良いとして、この城の中に何かヤバめの奴が居るって言う事だけは間違いないぞ!」
そう聞いて、完全に怖じ気づくアル。しかし、ディールは、そんな彼女には構わずに何の躊躇もなく、朽ち果てた城門を潜った。
「ま、待ってくださいディール様~!」
置いていかれまいと、慌ててディールの後を付いていくアル。かつて、簡素な城下町が備えられていた城内には、無数の白骨化した遺体がそのまま放置され散乱していた。
城主の館が有る方に向かいながら、ディールは言う。
「怨霊が渦巻いてるな......たぶん、城主の館には、コイツらの親玉が巣食ってると思うぞ」
「怨霊の親玉って、ディール様はどうしてそんな事がわかるんですか?」
「感じるんだよ!『気』をな!」
「『気』って何ですか?」
「魔力なんかもそうだし、人の本来持ってる力なら、霊気なんてのも有るぞ! 今感じているのは、怨念だな!」
「なんか霊的なパワーと言ったところですかね? それを感じる力が、ディール様には有ると?」
「まぁ、そう言う事だな!」
そうこうしているうちに、かつて城主の館だったと思われる廃墟となった屋敷に到着する二人。
ディールが何の躊躇もなく、屋敷に入ろうと玄関のドアノブに手をかけた瞬間、おどろおどろしい声が二人の頭上から響く。
「怨めしい......生者が妬ましい......お前達の魂をここに置いて行け~!」
気づけば、二人の背後は、無数の人形をした黒い影で埋め尽くされていた。
それに気づいたアルは叫ぶ。
「イヤーーーッ! おば、お化けーーーっ!」
完全にパニックとなってしまった彼女に、ディールは一言「大丈夫だ! 安心しろ!」と声をかける。すると、何故か彼女の精神はすぐに安定しだしたのだ。
迫り来る黒い影を次々とケラウノスの弾丸で消し飛ばしていくディール。しかし、一度霧散した黒い影は、すぐに元の形状に戻ってしまい、ゆらゆらと歩きながら再び二人に向かって歩き出す。
「そ、そんな......ディール様の攻撃が全く効かないなんて......」
再びパニックを起こしかけるアルだったが、ディールは全く動じていない様子だった。
「心配するな! 問題ない!」
彼女の恐怖に怯える表情を見て、平然とそう言うディール。しかし、先程の様子を見た後だったアルは、今度ばかりはそう簡単に落ち着きを取り戻す事はできないようであった。
「でも、幽霊は普通の攻撃では倒せないみたいですよ? 神官とかが使うと言われている聖魔法でもなければ、浄化できないんじゃないですか?」
「こちらの物理攻撃が効かないなら、向こうも物理的に手出しはできないって事だ! ただ、心が弱い奴だと、精神的にはかなり削られるだろうがな」
「削りきられちゃったら、どうなっちゃうんですか?」
「まぁ、その時は死ぬだろうな」
ディールにあっさりと最悪の結論を言われ、目に涙を浮かべながら叫ぶアル。
「私、絶対に、取り殺されちゃいますぅ~っ!」
「五月蝿い奴だなアルは......俺が大丈夫だって言ってんだから、お前はただ信じていれば良いんだ」
「わかりました...それじゃ、絶対に私の事を守ってくださいね! 絶対ですよ!」
「ああ、任せろ......それにしても、コイツら一体一体を相手になんてしてられないな! 親玉に纏めてから殺るか......」
「纏める??」
アルの疑問には答えずに、屋敷玄関の扉を開くディール。中のフロアには、おびただしい数の赤い発光体が飛び交っていたが、彼はアルの手を引きながら全く気にする様子もなく先へと進んで行った。
無数の発光体を引き連れながら正面の階段を上り、二階の奥へと迷わず進み続けるディール。
途中、幾度となく、その発光体は二人に襲いかかろうと迫るが、何故かある一定の距離まで接近すると、見えない壁でも有るかのように、それ以上二人に近付いて来る事はなかった。
「あの扉の奥だな! いいか? 俺から絶対に離れるなよ、アル!」
「わかりましたディール様! 絶対に離れませんからね!」
アルはそう言うと、ギュウッとディールの背中に抱きつく。
「おい! それじゃ俺が動けないだろ!?」
「だって、とっても恐いんですぅ~っ!」
「いいから、俺の三歩後ろくらいに下がっていろ! そこなら余裕で神気の範囲内だ!」
そう言って少し考え込んだ後、再びアルに問いかけるディール。
「お前、全然平気なのか?」
「平気? 何がですか?」
「やっぱり全然平気そうだな? かなり弱めているとは言え、精神的なダメージは普通、悪霊なんかの比じゃないはずなんだけどな......」
「精神的なダメージって......」
「まぁ、良いさ! これからお前の周りに結界を張るけど、俺の見た目が変化したら、その時は絶対に俺に触れるんじゃないぞ!」
「よくわかりませんけど、とにかく三歩以上は近付く事も、離れる事もしません! それで良いですよね?」
「ああ、それで良いさ!」
二人の約束事が取り決められたところで、二人は問題の扉を開く。
そこは、かなり天井も高く広いフロアであった。
再び屋敷の玄関先で聞こえた物と同じ、不気味な声がフロア内に響き渡る。
「怨めしい......生者が妬ましい......お前達の魂も、我の一部となるがよい!」
声と共に突然フロア内に現れた、巨大な人の顔の形をした黒い影。
ディールは左手の甲に有る痣に視線を移し、呼吸を整える。
すると、彼の髪は銀色に輝き、その刹那、巨大な顔面は穴だらけとなっていたのだ。
「ギィャーーーッ! 何故だーーーっ! いっ、痛いーーーっ! 苦しいーーーっ!」
リロードを終え、その後も容赦なく弾丸を撃ち込み続けるディール。
「ほら、早くしないと、霊体が消滅しちまうぞ? 城中の悪霊達を集めた方が良いんじゃないのか?」
ディールのアドバイスに乗ったのかはわからないが、顔形の巨大な影は悪霊達を集め出したのか、開いていた穴が塞がって更に巨大化していく。
「それじゃ、浄化のお時間だな! あばよ悪霊! ここは俺の城だ!」
そう言うとディールは、アイギスも抜いて二丁拳銃の構えで、容赦なく悪霊の魂を蹂躙しまくる。
十数秒リロードを繰り返しながら、弾丸を撃ち込みまくったその場所は、完全に無と化していた。
再び左手の痣に目を向けたディールは言ちる。
「ヤバい! 少しやり過ぎたみたいだな......」
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