落ちこぼれ空間魔導士の成り上がり

1. 落ちこぼれの長男

「あぁ…なんて事だ!!」

 僕は父親のこの悲痛な叫びを未だに忘れない。


 僕が5歳の誕生日を迎えた次の日、両親に魔法協会と呼ばれる場所に連れて行かれ適正魔法の診断を受けさせられた。


「修様の適正魔法属性は『空間魔法』です」

 僕の診断をした男が気まずそうに父親に伝える。数秒の沈黙。壁に掛けられた時計の針の音が脳に響く。


「……他には?」

「ありません…」

 父が恐る恐る口にした質問に男は即答する。

 父は絶望の表情を浮かべ叫喚した。


 -その時から父は変わってしまった


「修、お前は来年からデイヒル上級学園に通うことが決まった。私に恥をかかせるような真似はするなよ」

 家族の食卓で父に告げられる。

「父上、兄上に上級学園は厳しいのでは?」

 6歳下の弟、サイエンが僕を横目にそう言う。

「貴族の長男が上級学園以外に入ってもみろ、貴族として最大の恥だ」

 何でも貴族の長子はその家の顔とも言われるらしく、長子の出来がその家の階級に影響するらしい。


「修、わかったか?」

「…わかりました」

「なら精々落ちこぼれにならないように励め」

 終始父は僕に視線を向けることはなかった。


 僕は溜め息をつきながらベッドに横になる。

 コンと優しい3回のノック音が部屋に響く。

「修、少しだけいいかしら?」

「母上…?」

 母は静かに扉を開き、僕の隣に座る。こんな時間になんの話だろうか。

「今日はあなたの15歳の誕生日でしょう?」

 9年前から祝われていないためにすっかり忘れていた。

 母は僕の手を取り両手を重ねる。

「これは私からのプレゼントよ」

 母が手を離すとそこには青く輝くブローチがあった。僅かに魔力も感じる。

「以前屋敷に来た商人から買ったの。何でも身につけた者の魔法力を強めてくれるらしいわ」

「母上、どうして…?」


 あの時、父が変わってしまった時から母と会話をすることは極端に減った。てっきり母も僕に失望したのだと思っていた。

「私はあなたのことを落ちこぼれだなんて思っていないわ。今までちゃんと話してあげられなくてごめんなさい」

「……母上!そのっ…」

 言葉が詰まる。いろいろな感情が僕を戸惑わせる。


 コンッコンッ


「奥様、そろそろです」

 聞き馴染んだメイドの声だ。彼女は母の味方ということだろうか。

「ごめんなさい、お父さん達に怪しまれちゃうから行かないと」

 母は立ち上がり扉の方を向く。

「母上っ!」

 僕は焦って呼び止める。今この想いを伝えなければ一生後悔する気がした。そして伝えるべき言葉を口にする。

「母上、僕は…生まれてから今日が1番幸せでした!」

 母は振り向かない。

「わたしもよ」





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