第6話 パワードスーツをもらおう

 レイと甘菜は番傘衆の基地へと出勤した。二人は広い敷地内の白い四角いの建物へと向かう。白い建物は番傘衆の武器開発部だ。本日の二人の勤務場所は事務所ではなくここになる。

 甘菜は一ヶ月前に訓練を終え特務第十小隊に配属になったばかりで、自身のマジカルフレーム2を与えられていない。開発部で甘菜用に作成されていたマジカルフレーム2の最終調整にやって来た。


「山神部長さんに会いに来ました。特務第十小隊です」

「はい。承ってます。エレベーターをお使いください」


 建物に入ってすぐにある受付に立つ女性に甘菜が声をかけ、一階のロビーから地下へのエレベーターで下りる。地下三階でエレベーターが止まり扉が開く。開いた扉には防弾チョッキを着こみ、アサルトライフルを持った警備の兵士が扉の左右に立って居た。

 二人はエレベーターを出た廊下を奥に進む。十メートルほど廊下を進むと突き当りに、部長室と上に看板を掲げた金属の扉が見えて来る。


「鍵がかかってるからそれを押して部長を呼んでくれ。俺と姉ちゃんが来るのは伝えてあるから」

「わかったー」


 レイが扉に甘菜が扉の横にあるインターホンを押す。レイは彼女の少し後ろに立って居る。インターホンが鳴るとすぐに返事がされる。


「はーい。どなた?」

「特務第十小隊です。マジックフレーム2の最終調整に来ましたー」

「はーい。いま開けるね」


 カチッと音がして扉が開く。甘菜はワクワクした様子で扉が開くと同時に中へと飛び込んだ。

 扉の中は広い部屋で、一番奥の壁に四角い金属のコンテナが置かれ、中央には机が左右に四つずつ並び、向かい合わせて置かれていた。机の上には大きなとても人が持てないような柄柄が二メートルはある巨大なハンマーと、一番奥の左手の机の上にパソコンが置かれていた。パソコンが置かれた机の前に椅子に座った少女が見えた。


「あっ!」


 甘菜が少女を見て声をあげた。少女は振り向いた。少女は下側だけピンク色で縁どられた眼鏡をかけ、丸いピンク色の瞳をしている。髪もピンク色で髪形はうなじの横あたりで左右に髪をまとめたツインテールのかわいらしい少女だ。甘菜を見た少女は、長い白衣袖のまくっている右腕をあげ、笑顔で彼女に向かって振る。


「いらっしゃーい。あなたが甘菜さんね。私は……」

「こら! 勝手に入ったらメッだよ」

「えぇ!?」


 少女に近づき甘菜は注意する。部屋にいる少女が勝手に部屋に入って、いたずらをしようとしていると甘菜は思ったのだ。


「レイ兄ちゃん! この人はなに! 失礼しちゃうわ!」


 眉間にシワを寄せ、部屋の外に居るレイに向かって叫ぶ少女だった。


「杏ちゃん。どうした?」


 まだ部屋の外に居たレイは慌てて入って来た。


「あっ! レイくーん。見て! この子が勝手に基地に入り込んでるのよ」

「勝手に入り込めるわけないでしょ。ここのセキュリティを見なかったの?」

「本当にねぇ。どうやって入ったの?」

「だから! 私は違うって言ってるの!!!!」


 レイに向かって眼鏡の女の子を指して困った顔する甘菜。少女は立ち上がり腕を組み、眉間にシワを寄せ甘菜を見ている。二人の様子を見てレイは首を横に振って甘菜に声をかける。


「姉ちゃん…… その子は山神杏やまがみあんずちゃん。俺達が会いに来た開発部の部長だよ」

「そうよ。ほら見て!!」


 杏はそういうと白衣の胸につけているIDカードを見せる。そこには杏の写真と名前と役職が記載され全てレイの言う通りだった。甘菜はIDカードを見て目を大きく見開いた。


「えええええええぇぇぇぇぇ!?!?!?!? そっそうなの!??!???」


 驚く甘菜にレイは気まずそうに頭をかく仕草をする。杏は口をとがらせて不満そうにし腕を組んでそっぽを向いた。杏はレイの言う通りわずか十歳の少女だが、番傘衆の武器開発部の部長を務めている。彼女は天才であり、わずか六歳で大学卒業程度の知識を有し、現在は番傘衆のパワードスーツと武器の開発を一手に引き受けている。


「わかった? だから私はここに居てもいいの!」


 両手を腰につけ甘菜に向かって胸を張る杏。彼女の白衣の中は白いシャツにピンクのひらひらのついたスカートを履き、足元につま先の丸いピンクの靴と白い靴下が見える。杏は白衣以外は普通の幼い女の子だった。

 甘菜はしょんぼりとうつむいて杏に謝る。


「うぅ…… ごめんなさい」

「まぁ。杏ちゃんは式典とか滅多にでないから知らないのはしょうがないけど……」

「だって面倒なんだもん。外に出るより私は研究をしていたいのよ」


 レイの言葉に口をとがらせ不満げに杏は、机に置かれたモニターに目を向ける。モニターを見ていた杏の顔が急に笑顔になってレイの方へ顔を向けた。


「ふふ。でも、やっぱり従妹だね。最初に私に会った時のレイ兄ちゃんと同じ反応するんだもん」

「それはいま言わなくてもいいだろ……」


 微笑む杏にレイは恥ずかしそうにする。彼女の言葉を聞いた甘菜は安心したのかレイの肩に手をかけた。


「なーんだぁ。レイ君も同じだったのか」

「そりゃあな。知らずに研究所にやってきて子供が居たら注意するよ」

「よかった。普通はそうだよねぇ?」


 顔を見合せて笑顔でうなずくレイと甘菜だった。二人の言葉に杏は眉間にシワを寄せる。


「よくないよ! 失礼だなもう! 二人とも今日は帰って!!!」

「えっ!?」

「ダメだ。それはまずい…… 隊長はどうでもいいけど…… ヤマさんと加菜さんが面倒だ」

「そうだよねぇ」


 扉を指さして二人に帰れと叫ぶ。マジカルフレーム2の調整を終わらせずに、手ぶらで帰るわけはいかない二人は必死に杏の機嫌を取る。


「杏ちゃん! 機嫌なおして…… ねぇ。なんでもするからさ」

「お願いします……」


 二人は杏に必死に頭を下げる。腕を組んだまま横目で、視線を二人に向けた杏の口元がわずかにニヤリと動く。彼女は二人に顔を半分だけむけ、いかにも傷ついてますというような小さな声でつぶやく。


「アイス…… 食べたいな。おごりで…… たくさん」

「いいよ! レイ君が買ってあげる」

「えっ!? ちょっ」

「わーい!」


 謝罪でアイスを強要する杏に、甘菜は胸を叩いてレイがおごると即答する。両手をあげ喜ぶ杏、あっという間にレイを置いてけぼりにして女子二人は盛り上がっていく。


「私の分も買っていい?」

「いいよー。一緒に食べようね。じゃあレイ兄ちゃん。アイス二人分! 上の売店ですぐ買って来て」


 笑顔で甘菜にうなずく杏。彼女はレイに向かって扉を指さし、売店でアイスを買って来いと命令する。杏の言い分に納得いかないレイが口を開く。


「なんで俺が!? しかも姉ちゃんもっておかしいだろ!」

「ふーん。やっぱり今日帰る? 隊長さんにはレイ兄ちゃんにいじめられたっていうからね」


 顎をあげ背の小さな杏は、必死に態度を大きくしてレイに勝ち誇る。甘菜はなぜか杏を応援するように拳を握ってレイに見せる。二人の様子にレイは抵抗を諦め、大きくため息をつくのだった。


「はぁぁぁ…… わかったよ。買って来てやるから…… さっさと進めててくれ」

「「わーい!!」」


 不機嫌そうに右手をあげレイは、素直にアイスを買いに扉を出て廊下へ戻る。両手をあげて喜びながら二人は礼を見送るのだった。

 扉が閉められると杏はパソコンが置かれた机の椅子に座り甘菜に声をかける。


「甘菜お姉ちゃん。適当に椅子をだして隣に座って始めるから」

「はーい」


 近くの机の前に置かれた椅子を引っ張りだし、甘菜は杏の前に椅子を持って来て座る。杏は机の上に置いてあった彼女のタブレットとペンを持って左腕に縦に持った。


「それじゃあ。最終適正試験をするよ」

「えっ!? 試験!? どうしよ」

「はははっ。心配しないで簡単な質問をするだけの形式的なものだから」


 不安そうする甘菜に杏は笑顔で声をかけ、タブレットのホルダーにペンをさし白衣のポケットに手を突っ込む。白衣から青い粉が入った小さな瓶を取り出し緊張した様子の甘菜に見せる。


「これがマジックフレームを動かすための燃料…… 知ってるよね?」

「えっ!? えっと…… エーテルだよね」

「正解。マジックフレームの出力をあげ超人的な可能にし、武器や銃弾にコーティングすることで通常兵器が効かないレインデビルズに対抗できる。まぁ魔法の粉ね」


 瓶を左右に振りながら、杏は嬉しそうに笑う。彼女が持つ瓶に入っているのはエーテルという。


「じゃあ。左手を出して」


 杏の要求通りに甘菜は左手を彼女の前に差し出す。瓶を開けた杏は甘菜の左手にエーテルをかける。少しざらざらとして、塩をもっと細かくしたような感触が手に伝わり、甘菜はむずがゆくなってくる。


「ちょっとくすぐったいね」

「ふふ。我慢してね」


 微笑みさらにエーテルをかけ続ける。左手に青い粉の小さな小さな山が、できたのを確認すると杏は甘菜に顔を向けた。


「意識を左手に集中して…… 光れって念じてくれる?」


 言われた通りに甘菜は意識を集中し念を左手に送る。すぐにエーテルが青白い光を放つ。


「うわぁ。やっぱ速いね。動かないでね」


 杏は感心しながらタブレットを、光り出したエーテルにかざす。

 エーテルツマサキ市を作ったライザー財閥傘下の製薬企業、山城ケミカルの研究員が発見し製品化した。人間の意思に反応しエネルギーを発すると魔法のような物質だ。その特性を利用しレッドデビルズ用の武器やパワードスーツの燃料に使用される。

 パワードスーツの通称がマジックフレームなのも、魔法のようなエーテルの効果を例えたものだ。


「反応強度98。本当にレイ兄ちゃんよりも高いんだ…… 甘菜お姉ちゃんがどこの部隊に配属されるか注目されるわけだね」

「えへへ」


 タブレットを見ながら感心したように小さくうなずき杏は甘菜を褒める。

 反応強度とはエーテルが発揮するエネルギーを、どれだけ高めることができるかの数値である。最大は百で数値が高ければ高いほど、パワードスーツの出力が上がり武器の威力も高くなる。数字が高ければそれだけパワードスーツの能力が上がる。ただし、パワードスーツでの戦闘には、身体能力や戦闘経験も加味されるため、一概に反応強度の数値が高いから最強というわけでもない。レイの反応強度が九十五で、ツマサキ市の番傘衆で一番高かった。甘菜はレイを上回っているため、彼女がどこに配属されるかは注目されていた。


「これで…… 後は…… 甘菜お姉ちゃんの特殊能力は…… プラズマシールド展開だね」

「うん」


 エーテルに触れた者の中で、反応強度が八十を超える者は超能力を持つようになる。人間の意思に反応するエーテルが脳に干渉していると考えられるが、反応強度が八十を超える者が少なく研究より戦闘が優先されるため詳しくは解明されていない。甘菜は空気中にプラズマを発生され一時的に電磁シールドを展開し敵の攻撃を防ぐことができる。ちなみにレイの特殊能力は瞬間移動で、彼は視界に見える先に瞬時に移動できる。


「だからC型指定だったのか…… 了解。ありがとう」


 甘菜に礼を言った杏はタブレットを、持ったまま立ち上がり奥にあるコンテナの前へと向かう。


「こっちに来て!」

「はーい」

「じゃあごたいめーん!!」


 返事をして甘菜が杏の近くにまでやってきた。杏子は彼女が近づくとタブレットに手をかざした。直後に警告音がなって部屋の壁に置かれた赤色灯が光りだした。自動でコンテナの前面が倒れて開いていく。

 開いた扉の中にはスタンドにパワードスーツが保管されていた。スタンドは鉄筋で四角く組まれた脚から、パワードスーツを吊るす太い柱が横に伸びている。パワードスーツはレイの違い装甲が厚く全体的に丸いフォルムとなっている。肩の装甲は横に四角く突き出て武器を乗せられるようになっていた。


「これが特務第十小隊から注文をもらったマジカルフレーム2一式C型ね」


 杏は扉の中のパワードスーツを指して話を笑顔で弾んだ声で話す。甘菜は


「C型は重装甲で高出力の近接集団戦闘に特化したパワードスーツね。相手の攻撃を多少受けてもへっちゃらな防御力があって、高出力のジェネレーターである程度の素軽さもあるの。さらに右腕と左腕に五十連発の小型ガドリング砲まで搭載されているわ。また近接型なんだけど未結さんみたいなマークスマンとして運用もできるわ。それには頭部に狙撃用スコープを装備して……」


 得意げに話をする杏、自分が開発したパワードスーツを説明するのが楽しいようだ。

 ちなみにレイのパワードスーツは一式D型、未結のパワードスーツは三式特殊兵装用。一式D型は軽装高機動タイプで、三式は大型のスナイパーライフルや機関砲などを遠距離射撃に特化している。また、一式と三式の間の二式というタイプがある。


「うん!?」


 杏が首をかしげた。甘菜はパワードスーツの知識はあるので、杏の言葉にあまり興味がない様子だった。彼女はパワードスーツが保管されいた、コンテナを触ってまじまじと見つめている。不思議に思った杏が彼女に声をかける。


「ちゃんと話を聞いてよー!」

「ごめんなさーい。こんな大きなコンテナ…… どうやってこの部屋に持って来たのかなって気になって」


 甘菜を注意した杏の顔が急にほころんだ。


「あぁ! それね! 上からね飛行機で下したの。ここは建物敷地から少し離れてて天井が開くようになってるんだ」

「へぇ。そうなんだ」


 天井を指してまた得意げに話を始める杏だった。この部屋を設計したのも杏で彼女は自分が作った物に他人が興味を持つのがうれしいようだ。

 二人の会話をしているとレイが戻って来た。杏が扉を操作して開けた。


「おぉ。やっぱC型はでかいなぁ……」


 レイはカップの丸いアイスを、三つ重ねて持って歩きながら部屋の中へ進む。彼は部屋の奥に置かれた甘菜のパワードスーツを見て声をあげる。


「お帰りー! アイスーーー」

「わーい」


 嬉しそうに駆け寄る杏と甘菜、レイは二人に向けて手を出して制止する。


「ダメだ。仕事が終わってからだ。二人とも」

「べー!」

「ケチ!!」


 杏は舌を出し、甘菜はレイに言葉を浴びせる。不満げな二人の視線を浴びながらレイは、アイスを持って杏が座っていた席へと向かう。机の下には小型の冷凍庫があり、慣れた感じでレイはそこにアイスを保管した。


「じゃあ…… 駆け足で手続きを進めるわ。さっきの甘菜お姉ちゃんの最新の生体情報をインストールすれば完成だから」

「えっ!? そうなの。じゃあ急ごう」

「うん。ほら手伝って」


 真剣な表情で作業を始めた杏、彼女の横で甘菜も真面目な顔でキビキビと動いてフォローするのだった。甘菜をみながら普段の時も、あれくらいきびきびしてくれないかと思うレイだった。


「終わった! アイスー!!!」

「わーい」


 作業を素早く終わらせ杏と甘菜はすごい勢いで戻って来た。二人は冷蔵庫からアイスを勢いよく取り出す。三人は並んで座ってアイスを頬張った。アイスを食べながらも仕事をしているのかパソコンの画面を見ていた杏がふと甘菜に尋ねる。


「そういえば…… 甘菜お姉ちゃんは内蔵してあるガドリング砲以外に射撃武器を装備しないんだね」

「うっ……」

「何で? レイお兄ちゃんだってサブマシンガンを持ってるのに?」


 レイと甘菜が使うパワードスーツは近接戦闘型だが、敵から距離を取って安全に戦える射撃武器は必須と言っていい。しかし、特務第十小隊からのオーダーで射撃武器は内臓のガドリング砲以外ないのだ。

 答えづらそうにする甘菜、首をかしげる杏を見たレイが口を挟む。


「何でって…… 姉ちゃんの射撃成績を見たら分かるよ」

「えぇ!?」


 パソコンを操作して杏は、甘菜の射撃訓練成績を開いた。成績を見た杏の顔が固まって眉を引きつらせる。


「あぁ…… これじゃあ近くで発砲された味方の背中に穴が開くわね」

「だろ?」


 訓練時に記録された甘菜の射撃成績を見た杏は納得したようにうなずく。甘菜は射撃が下手でろくに的に当たらないのだ。エーテルの反応強度がいくら強くても、補正する特殊能力でもない限り射撃の精度は上げられない。


「でも…… いいもん。近接型ならレイ君の近くにいれるから……」

「そばにって…… 俺の背中を撃つつもりかよ?」

「ぶぅ! レイ君のこと嫌いだよ!」


 アイスをスプーンを口にくわえて甘菜はそっぽを向くのだった。杏は二人の様子を見て笑っていた。

 おやつが終わり席を立った甘菜はレイを連れ、自分のパワードスーツの前へと向かった。レイを自分の横に立たせ彼女はこれから相棒となるパワードスーツを見つめ腕の辺りをそっと触った。エーテルが塗られているパワードスーツの装甲は、彼女の手に反応しわずかに光りだす。


「エーテルって不思議……」


 青白い光を見てボソッとつぶやく甘菜の後ろで、後ろで杏が立って居る。彼女のつぶやきが聞こえた杏が口を開く。


「元々、エーテルは私のお祖父ちゃんが研究してたの。神経麻痺とかの再生医療に使うためにね……」


 パワードスーツを見つめながら少し寂しそうにする杏だった。


「だから、甘菜お姉ちゃん、レイお兄ちゃん…… レインデビルズを倒して!」


 杏はレイと甘菜の顔を交互に見て、叫ぶように大きな声で懇願した。


「お祖父ちゃんの研究は生き物を殺すためにあるんじゃないの…… みんなを守れるのはうれしいけど…… やっぱり私はエーテルを本来の使い方に……」


 拳を握って声が少し震える杏、笑顔で甘菜は彼女に近づき肩に手を置いた。


「大丈夫よ。任せておいて! 私たちがレインデビルズを全部倒してあげるわ。ねぇ? レイ君」

「全部って…… まぁでもそうだな。どうせなら全部倒して地球を解放してやるか」


 振り向いてレイに微笑む甘菜に、彼は小さくうなずき力強く胸を叩く。


「ふふふ…… ありがとう。期待せずに待ってるわ」

「解放したら…… 俺にアイスをおごってくれよ」

「わたしにもー!」

「ずいぶん安い報酬でいいのね…… わかった。約束する」

「じゃあ約束!」


 甘菜は微笑み右手に小指を立てて差し出した。杏は右手の小指を立て、甘菜の小指とからめ指切りして約束するのだった。地球を覆いつくすレインデビルズを滅ぼした報酬はアイスクリームと決まった。

 パワードスーツは再梱包され特務第十小隊に届けられる。今日の甘菜とレイの仕事は終わりだ。二人は開発部を出て家へ帰る。二人が基地を出るころには日はだいぶ傾き夜が間近に迫っていた。

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