第10話 辻に怯える毎日はつづくのか

 ひとまず、辻への恐怖に怯える日々は無くなった!


 と思っていたのだが、僕は何故か今日も朝っぱらから鞭で打たれた。


「おい!女神!どうなってんだ?!」

「と言われても、彼女の凶暴性は元に戻ったのは確かにそうなんだけど……」


 確かに凶暴性はのだ。

 つまりは、元々の凶暴性がアレなのである。


「というわけで、現状維持の体制というわけで」

「ざけんな!」


 少しでも希望を持った自分が馬鹿であった。


「よう!宗太!今日も羨ましい限りだな!」


 そんな元気な声で僕の名を呼んだのはいつも通りの連であった。


「入れ替わってみるか?」

「やらせてくれよ(笑)」


 くそう、本当に代わってやりたい。


*****


「じゃあ、見学させてみたら?」


 女神が見ている辻による僕への暴行の最中(昼休憩)女神が今朝、連が言ったことを辻に伝えると、辻は快くそう言った。


「ちなみに、この残虐なる暴行を僕から彼に代わってもらえるのは?」

「それは、無理。あなたじゃないとやってる気がしないのよ」

「死にたい」


 僕の希望はやはり打ち砕かれた。


*****


 そして、翌日の朝。


「何?黒峰さんに暴行を加えられる現場を見学させてやるだって?」

「ああ」

「いいよ、そんな幸せ空間を自慢される側にもなってくれ、不快感が極まりない」


 幸せ空間と言ったか?


 あの残虐に鞭が振り下ろされ、皮膚が破け、血が出て、壁や床が赤くなっていく、あの現場を幸せ空間と言ったか?正気かこいつ?


 いや、感性が違うのか?


「なぁ、連」

「ん?どした?」

「お前って……。Mってやつなのか?」

「失礼な!俺はただ、黒峰さんのような美女に関われるお前を憎んでるだけだよ」


 彼はそう言って、僕に向けて中指を立てた。

 その指を僕は思い切り掴んで手首をかえしてやった。


 そして、昼休み。


 案の定、僕は辻に腕を引かれた。

 その隙をついて、僕は連の裾を引き、強制的に連れて行った。


「ちょっ!離せ!昼飯食ってねえんだけど?!」

「関係ねぇ!僕も毎回食ってねぇんだよ!!弁当持ってけ!」


 是が非でも見せつけてやる。僕の苦痛を。


*****


 その後、僕はいつも通りボコボコにされた。

 そして、数十分後。


「どうだった……?」

「うん。普通」


 彼はそう言いながら、弁当を食べていた。


 それには、辻も女神も流石に少し引いたようだ。僕も少し引いた。


「こいつ、度肝座ってんなぁ……」

「流石に私も驚いたわ」


 彼はあくまで女と関わりたい。いわゆるヤリチン性格な男だ。できるだけ多くの女と関わりたい。ただ関われればそれでいい男なのである。


 僕は気づいた。彼はあの暴力を受けたいわけなのではなく、暴力を受けることでおんなと関わりたいだけなのだ。

 しかし、それ以外のことに関しては、だから今回のような僕が暴力を受ける残虐な現場など、あまり気にはしないため、こんな風に食事をする余裕すらあるみたい。


「こいつ、絶対女たらしになるよな……」

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