第6話 破滅者 前半

どれ位眠っていただろう? 体全体が、重りがのしかかった様に重いし全身痛痒い。お腹減ったのに動けない。


意識不明の重体だった誠司が目を覚ます。辛うじて、首や手は曲げられるので掛け布団を外して全身を見て見ると、全身包帯だらけのミイラみたいになっていた。


「な、なんじゃこりゃ~~~。」


「つか、ここどこだよ。」


思わず、大声を出してしまった。それはそうだ。誰だって、目覚めて全身ミイラになっていたら思わず声を上げてしまう。


驚きながらも、ポカポカした温かい日差しと、外から吹く風が風鈴をならしながら部屋の中へはいる。


部屋を軽く見渡すと、6畳程の部屋で畳が引いてあって、木製の小さいテーブルに座布団もある。敷布団や掛け布団もふかふかだ。


部屋の襖を誰かが開ける。


「おぉー、やっと起きた。おはようさん。」


誠司の様子を見に来たのは、達滉だ。


ミョッチと美月も、先程の大声で気付いたのか慌ててドタバタと走って来て、泣きながら誠司に飛びついた。


「誠司、無事でよかった・・・ 本当に、今回は危なかったんだよ。体中傷だらけで出血もかなり多かったんだよ。」


「心配かけるんじゃないよ。ばか。本当に本当に、毎日生きた心地しなかった・・・。」


誠司の左腕にしがみついて鼻水を垂らしながら、大声で泣いている。ここまで泣くって事は、本当に危なかったんだろう。美月も、誠司が着ている羽織を強く掴みながら、下を向いて大粒の涙を流している。左腕にはミョッチの鼻水が付いていたり、羽織には美月の涙が大量について濡れてしまっている。


二人共、それ程心配してくれていたって事か・・・


「目を開いてくれて、良かった・・・。」


美月が、泣きながら上を向いて誠司の顔を見る。すると、美月は涙を流しながらも微笑んだ。


誠司は、少しドキッとしてしまう。女性の涙に男は弱いって本当なのかもしれない・・・


「おいおい。青年、顔が赤くなってんぞ。」


達滉が、誠司の頭を鷲掴みしながら撫でる。


「わしゃわしゃしないで下さいよ。痛いんですから・・・。」


「痛いのは、生きてる証拠だ!!!」


誠司を、笑いながらからかい続ける達滉。


「そういえば、ここどこなんですか?」


「俺の道場だ。好きに使ってくれ。」


「それより、起きたんなら栄養をつけないとな。あの傷だったんだ。相当、カロリーが消費されているはずだ。」


「そうですね。よいしょっとっとっと。」


誠司が起き上がろうとするが、脚がふらついて上手く動けない。


「ずっと寝込んでいた上に、ミョッチの治療でカロリーもかなり消費してるんだから無理もないわよ。」


達滉に担がれながらリビングへ向かった。





 メシアとの戦いから2週間が過ぎていた。


立川駅周辺は、立ち入り禁止となっていた。ミョッチが迅速に対応してくれたのか、地下のガス管が漏れ出し大爆発が起きたと報道が流れていた。メシアに気絶させられた警察官や公園の近所の住民にも気を利かせてくれたのか、念のため別の記憶に書き換えてくてた。ミョッチの能力って、使い方次第ではかなりチートになるんだよな。


リビングに着くと、不思議なロボットが出迎えてくれた。食卓に座ると、次々と出前で頼んで来たであろう食事が並べられる。


「全部誠司君のだから、遠慮しないで好きなだけ食べてくれ。足りなかったら、このタッチパネルロボを使ってくれ。宅配業者が店まで来て、この家まで届けてくれる。」


「いったっだきまーーーす。」


美月もミョッチも食卓に座って、ちゃっかり食べ始めた。


テーブルには、ピザ、ハンバーガー、フライドチキン、焼き肉弁当など茶色い食べ物がぎっしり置いてある。


もちろん、隣には瓶コーラが置かれている。ミョッチの為に、オレンジジュースも置かれている。


いくら、カロリーを取らなきゃいけないからって、栄養のバランスが悪過ぎる。せめて、コールスロー位は食べようよ。


しかも3人共、俺の食う飯を自分の物の様に食べているし・・・


「誠司、早く食べなよ。コーラと一緒に、私達の胃袋に流し込んじゃうよ。」


「分かってるよ。」


起きたばかりだったので消化に良い物を食べたかった誠司だが、フライドチキンを一口口の中に入れる。次の瞬間、あまりの美味しさに感動してしまい手が止まらなくなった。次々と、食べ物を口に入れながらコーラで流すのを繰り返す。


消化に悪いって分かっているのに辞められない・・・


「相当、カロリーを消費していたんだね。多分、自力で立てなかったのもそのせいだ。」


「怪我の範囲が広かったとはいえ、これ程とはな。追加注文しておくか。ついでに、天ぷら蕎麦もっと。」


「こんなにがっつく誠司見たことないもん。動画撮っておこうっと。」


美月が動画を撮ると、誠司の食事シーンを撮影した。誠司は、動画に気付いていない。


美月達は、クスクス笑いながら撮影を続けた。





 食事が終わり、全員一息ついた。


誠司だけで、8人前近くの食事をした。普段からの食生活では、考えられない位だ。


美月がコーラを飲んでいると、ずっと思っていた疑問を達滉に尋ねる。


「達滉さん。ずっと思っていたけど、その出前ロボットいる?」


「当り前だ。食べたい物をタッチして確定を押せば、注文完了なんだぞ。しかも、冷蔵庫にある食材から献立を考えてくれたり洗い物までしてくれる優れもの。名を、おっ母さんと名付けた。」


キランっとした笑顔で、親指を立てる達滉。


それに、幻滅してしまう誠司達。思わず、小言をボソッと呟いてしまう。


「うわーーー、流石に引くわ。」


「マザコンっぽいネーミングセンス・・・。」


「これが、人気女優の恋人・・・。」


「これが、現代最強の剣術使いで道場の師範代・・・。」


その場にいた、全員がため息を吐いてしまう。





 誠司は、食後の運動を兼ねて外の空気を吸いに美月と共に外に出る。


「今日の夜、皆で今後の話をするから昴のお店に集合ね。」


「はいよ。」


誠司と美月を玄関で見送ったミョッチは、再びリビングに戻る。


おっ母さんが洗った食器を、鼻歌を歌いながら片付けている達滉に、ミョッチがさり気なく問いかける。


「そういえば、晴香さんの様態はどう?」


「相変わらず、ストレートに聞いて来るな・・・ 今も、実家で療養中だ。芸能界もずっと自粛中だ・・・」


自分の拳を握りしめながら、溢れ出す怒りの感情を抑える。


何に対して怒っているか分からないが、先程の表情とは正反対だった。


「もうすぐ、2年が経とうとしているんだね。


何度も言うけど、達滉は悪くないから気に病まないでね。」


「なぁに、大丈夫さ。芸能界に復帰しようが辞めようが、俺はあいつの笑っている笑顔を隣で見れればそれでいい。」


「逃亡犯、まだ捕まっていないみたいだけど、もし最悪の事が起こったらどうするつもり?」


「その時は、法律でも裁けないだろうから俺がどうにかするさ。」


「それに、あいつは誰よりも強い女性だ。卑怯な真似しか出来ないくず男になんか負けないし、自分を殺めたりはしないさ。」


「そうだね。」


前向きになって進んでいる達滉の姿を見て、ホッとするミョッチ。


食器を棚に戻し終えた達滉は、椅子に座りミョッチに問いかける。


「それより、ミョッチ。お前は、大丈夫なのか? 空元気なの、皆分かってるぞ。」


「正直、しんどい。メシアのあの姿を見て、余計に重りが掛かっている感じだよ・・・。」


時計の針がチクタクと静かに進む音だけが聞こえてる。





 夜になり、昴のBARに誠司達は集まった。


BARに入ると、VIPルームに案内され高そうなソファーに座る。


「誠司、もう大丈夫なのか?」


「うん。おかげさまで。」


流馬も壮也も怪我が治っていた。二人共、大怪我してたから心配だったけど大丈夫そうだ。


でも、壮也の様子がおかしい・・・ 口をポカンっと開けながら、瞬きもせずに一定の方向を向いて固まっている。


誠司は、壮也の方向を向く・・・


次の瞬間、誠司に眩い光とイナズマの様な電撃が全身に走る。


そこには、天使・・・ いや、女神がいた・・・


なんだ、このエッチなお姉さんは・・・ 可愛い、綺麗、エロイの3拍子が揃った様な人だ。スタイル抜群な上に、男が喜びそうな兵器を両サイドに兼ね備えているに加えて、綺麗なくびれと白い肌・・・ そして、ゼラチンの様なプルンとした厚みがある唇は・・・ 生まれて来る次元間違えていないか・・・


誠司も思わず、美来の美貌や抜群なスタイルに見とれてしまう。


「誠司、気持ち悪い。私の美来さんをジロジロ見るんじゃないわよ。」


「そこの、童貞も。鼻血出しながら、鼻の下伸ばしてんじゃないわよ。」


誠司は、目の前に美月の顔が現れて驚いてしまった。辺りを見て見ると、壮也も美来に見とれてしまって鼻血を出しながら昇天してしまっている。


確かにこの人は、その辺の雑誌に載っているモデルやグラビアアイドル以上に魅力的だから、壮也がそうなってしまうのも分からなくはない・・・。


美来本人は、腹を抱えながらケラケラ大笑いをしながら机を叩く。


「なに、この子。本当に、面白い子が入って来たね。見とれて、お湯をこぼして大やけどを負った人は何人かいたけど、鼻血出して昇天しているのは初めてだわ。」


「試しに、からかってみよっと。」


「美来さん、勘違いするからダメ!!!」


「大丈夫。大丈夫。」


美月が止めるも、美来は壮也が座っているソファーに座り、軽く色時掛けをする。胸を軽く腕に当てて、「これからよろしくね♡」と耳元で囁いた。


壮也がチラッと、首を右側に動かして美来の顔を見る。美来のニコッと微笑む顔を見ると、大量の鼻血を天井に向かって吹いて再び昇天してしまう。


哀れみの目で見る、達滉と誠司。


人ではない何かを軽蔑した目で見る、美月と流馬。


ケラケラ大笑いしながら涙が出る、美来。


呆れる、ミョッチ。


「おやおや、壮也君には刺激が強すぎたみたいだ。」


全員のドリンクを持って来た昴は、クスクスと笑っている。


ドリンクを席に置くと、昴も席に着いた。


「それじゃあ、そろそろ始めようか。」


「今回は、これで全員か。」


「そうだね。激紀や天音も呼んだんだけどね・・・ 他二人は、調査や仕事だからいいんだけど。」


「また、パチンコでしょ。天音ちゃんはともかく、ギャンブラーは放置していてもどうにかなるでしょ。」


「無駄に強いからな。あいつ。」


誠司と壮也以外、全員が頷いた。

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