第2話 決意 後半
田村さんとの話が終わり、喫茶店を出て自宅へ向かった。
雨が止み、雲から太陽の光が差し込んで来る。腕時計を見てみると、時刻は17時半になろうとしている。
まだ明るい空を見上げると、夕日の光が雲にかかりグラデーションが綺麗なオレンジピンクの夕焼けとなっている。
「少し見て帰るか。」
綺麗な景色に見とれながら、近くにある広々とした公園に向かった。
18時になりチャイムが鳴なると、公園で遊んでいる地元の子供が帰っていく。
公園の丘の上に登り、綺麗な夕焼けを見ていると女性の叫び声が聞こえた。
「助けて。誰か助けてーーー。」
恐る恐る、丘から降りて叫んでいる所に向かったら女性が大きな赤ちゃんに襲われそうになっていた。
「マァ~~~マァ~~~。」
「私はあなたのママじゃないのよ。お願い、私はどうなってもいいからこの子だけは助けて・・・。」
女性は、泣きながら大きなお腹を守ろうとしている。きっと妊婦だろう。
咄嗟に女性の前に立ったが、規格外の大きさと見た目に驚愕する。
この大きな赤ちゃんは一体なんなんだ。
人間の赤ちゃんに似ているが、身長は3メートル位で体の横幅がかなりでかい。
見た目なんて、かなり歪だ。
両目は、飛び出てしまい右眼なんて筋肉が丸ごと飛び出ている。頭も形が変形して脳みそ丸ごとぐちゃぐちゃにされているんだろう。歯茎から血がにじみ出て、歯もガタガタで形がめちゃくちゃになって痛ましい・・・
右腕はミミズの様な生き物の形に変形しているし、左腕は皮膚の皮がドロドロに溶けている。首元に付いているのは、血痕が付いた衣類だろう。
この前のツリーマンと同じ宇宙人なのか分からないが、襲われそうになっている女性を助けなければ・・・
しかし、この前の様な武器がどうやって出て来るのかまだ分かっていない。不思議な生き物が俺の奥底に眠る力を引き起こしたみたいだが、自分では引き出す方法が分からない。助けたいって思いだけで、目の前に飛び込んでしまったがこうする以外に方法が思いつかなかった。
「良く守ってくれたね。」
空中から、おてんば娘が二刀流の剣を振りかざし斬撃を放った。大きな赤ちゃんの右腕に命中し、体制を崩す。
その隙を見て、妊婦の女性を抱きかかえて赤ちゃんから距離を取った。
「無事で良かった。」
不思議な生き物が目の前に現れた。
「ギリギリでごめんね。」
「助かったよ。それより、妊婦さんとお腹の中の赤ちゃんが・・・。」
「安心していいよ。破水もしていないしこの女性もお腹の中の赤ちゃんも無事だよ。今は、気絶しているだけ。」
不思議な生き物が、指で円形型のホールを酸素を使って作り出し女性を包み込む。指で、ホールを叩くと瞬時に公園の外に移動した。
「これでもう大丈夫。」
「さて、結界を張ろうかな。」
不思議な生き物が飛び上がると、近くの大きな滑り台の中央に立った。
次の瞬間、手のひらを胸の前にパンっと合わせると透明なオーラが現れ全身を包み込む。両腕を左右に解き放つと透明なオーラが公園全体を包み込んだ。
「今、何したんだよ。」
「いった通り結界を張ったのさ。これで、一般人には僕達や相手の姿は見れないし、この公園自体が外から見れば別の景色や工事現場に見えているだろうね。」
「なんで、そこのチョイスが工事現場なんだよ。」
「工事現場ならば基本的に危ないから近づこうともしないし、多少音が漏れることがあっても余り気にしないだろう。」
不思議な生き物が鼻高々とどや顔で語る。
戦っていたおてんば娘が、話を遮る様に上から飛んで来た。
「ちょっと、いつまで話しているのよ。あの宇宙人、いくら攻撃しても傷一つ付かないし、ずっとママって叫んでいるだけなんだけど。」
「あれは、きっと寄生型の宇宙人だろうね。元は人間の赤ん坊だったんだろうけど、何かが原因で赤ん坊の体内に入ってそのまま寄生したんだね。」
「そんな、まじかよ・・・ 食うだけじゃなくて寄生までするのか・・・。」
「それだけじゃない。この宇宙人は寄生した人間の脳内に入って、意志とは関係なく自由自在に操る事が出来るんだ。しかも、他の人間を食べる事によって栄養を蓄えて体内で繁殖してしまう。膨張した体と変形した頭と腕は、もう既に繁殖が始まっている証拠なんだ。」
「つまり、寄生虫みたいな物ね。それを赤ちゃんにするなんて許せない。核は、どこにあるか見当つく?」
「おそらくだけど、人間の構造は変わっていないから心臓に本体は寄生している可能性が高いね。」
「それじゃあ、早く助けてあげないとね。」
おてんば娘が、双剣を強く握りしめながら再び赤ちゃんの所に向かった。
「マァ~~~~~~マァ~~~~~~」
ミミズの様な赤ちゃんの腕が鞭の様に襲って来る。公園の地面に叩き付け、衝撃で地面が割れるのを避けながら華麗に宙を舞う。
赤ちゃんの心臓付近に近づいた。2本の双剣の柄頭を合体させて槍の様になった。黄色い光が稲妻の様に光り、赤ちゃんの心臓に寄生している宇宙人に目掛けて投げた。
「双剣槍(ソウケンランス)」
赤ちゃんの心臓に見事命中した。赤ちゃんは、倒れ込み悶え苦しむが何だか様子がおかしい。
心臓に命中したって事は、核に命中したってことになるはず。それなのに、どうして寄生している宇宙人は消滅しないし、赤ちゃんも元に戻らないのだろう。
双剣がおてんば娘の元に戻る。
赤ちゃんの傷口が徐々に塞がる。
次の瞬間、赤ちゃんが奇声を上げながら起き上がり、おてんば娘に襲い掛かって来た。
「ママママママママママァァァァァァァァァァァァァァァァママママママママママママママママァァァァァァァァァ」
奇声が、どこか苦しくて悲しそうに聞こえて来る。
耳をふさいでも鼓膜が破れそうになる位、泣き声が公園全体に響き渡る。
おてんば娘は、体制を崩さず赤ちゃんの右腕を中心的に攻撃しているが、かなりのダメージを負っている。
「俺も行かないと。どうすれば、この前の武器が出る様になるんだ?」
脚が震えて手汗も凄い。正直、かなり怖い。
「その感じだと、まだ正式に契約していないんだね。」
「契約?」
「君の心の奥底に眠る力があると言っただろう。正式に契約したら何かしらの装飾品になって契約の証になるんだ。でも、君にそれがないって事はまだ正式に契約していないってことになるんだ。」
「どうすればいい?」
「戦う恐怖と友の死を乗り越えば、自ずと答えてくれていつでも力を貸してくれるよ。」
確かに、震えと恐怖は止まらない。弦貴の両親や田村さんにも勇気づけられたが、完全に乗り越えられたかと言うと難しい。
「僕も今すぐ克服して戦ってくれとは言わない。大切な人を失う気持ちは僕も知っているから気持ちは凄い分かる。しかし、そこの赤ちゃんを宇宙人の苦しみから解放してあげたいのなら、今すぐ正式な契約を交わして欲しい。」
ボロボロになったおてんば娘がこちらに来た。
激しい息切れをしている。
「その傷、大丈夫なのか?」
「やっぱこの手のタイプの相手は苦手・・・」
ふとおてんば娘の顔を見て見ると、目から大粒の涙が出ていて悔しそうに歯を噛んでいる。
腕で、涙を拭く。
「どうゆうこと?」
「だって、昨日までお母さんと一緒にこの公園で笑いながら遊んでいたのよ。それなのに、ちょっと転んだだけで宇宙人に寄生されて可哀想な姿にされて・・・ 気付かないうちにお母さんを食べてしまって・・・」
「お母さんの気持ちを考えて見て。痛い思いをして産んだ我が子が、どれだけ可愛くて可愛くてたまらないか。世のお母さんが産んだ子どもに最初、なんて声を掛けると思う?」
『私達の元へ産まれて来てくれてありがとう。』
「こう思いながら産まれた子どもと初めて対面するのよ。それなのに、あいつらは少しの幸せも奪っていく。戦っていると、赤ちゃんの記憶が伝わって来るのよ。あの赤ちゃんの記憶が流れながら、戦うのは酷だわ。」
おてんば娘の涙がいくら拭いても止まらない。声が段々と高くなり、少し感情的になってしまっている。
きっと、根っからの子ども好きなのだろう。そうじゃないと、この状況でこんな言葉が出ないはずだ。
「多分、あの赤ちゃんはお母さんが食べられてしまっていることに気付いていない。どこかに行ってしまったと勘違いしてしまっているんだろうね。だから、赤ちゃんがいるお母さんや妊婦さんを襲っていたに違いない。」
不思議な生き物が冷静に分析をしている。
どうにかして赤ちゃんを救う方法がないだろうか。
「ねぇ、あんたの気持ち痛い程分かるよ。ずっと仲良しだった親友だけじゃなく、ゼミのメンバーや先生まで一度に失った悲しみはきっと私達の想像以上に違いない。」
「私ね、昔の記憶が一切ないから家族との思い出も記憶もないんだ。記憶も無いし側にもいないけど、家に合った家族写真見た時感じたの。絶対、私愛されていたんだなって。パパ、ママ、お姉ちゃんがどこにいようと命を繋いで産んでくれたのは違いないから、私はこの命と力で出来るだけ多くの人を救いたい。その為なら、何も怖くはないし恐れもしないよ。」
「あんたも自分の夢を壊そうとする悪い奴ら、ぶっ飛ばしちゃいなよ。そんで、夢叶えて墓の前で笑って酒でも飲めばいいんだよ。」
おてんば娘の言葉が心に響く。
弦貴やゼミの皆も俺の夢を応援してくれていた。俺の周りの人達だけじゃない。周りの人達も応援してくれている。そして、父さんも。
そういえば、父さんと最後に交わした会話も『宇宙飛行士になる』だったな。父さん、俺の頭を撫でながら『父さんの新しい夢だ』って笑っていたな。
俺の夢は、自分1人の夢じゃない。応援してくれている人達の夢でもあるんだ。
その夢の邪魔をする奴らは、誰であろうと許さない。
「誰が住んでいるか分からないけど、そこにいるなら俺に力を貸せ。」
手を心臓付近に当てると、光輝き出す。
次の瞬間、左腕に銀色に輝いている弓が現れた。
弓の先端は、刃になっていて短距離戦にも応用出来そうだ。矢先は3つ付いている為、矢を1度に3つ同時に放てる様になっている。
弓の模様は、宝石の様な小さい粒が星座の様に繋がり輝いている。
「おめでとう!!! 正式に契約したみたいだね。」
「射手座の星座人」
不思議な生き物が、輝かしい目で弓を見ている。
思ってたよりかなりかっこいい武器だったので感動に浸っていたら、おてんば娘が誠司の肩を軽く叩いた。
「武器に浸るのは後にしましょう。それより、あの赤ちゃんをどうにかしないと。」
涙を出し切って落ち着いたのか、おてんば娘も再び立ち上がる。
赤ちゃんは、暴れ狂う様に公園の遊具を破壊している。
ふと、顔を見て見ると赤ちゃんの目から涙が出ていることに気付いた。目を支える筋肉が目から飛び出しているが、隙間から涙も流れている。涙線が崩壊しているのだろう。
「ママと言いながら叫んでいるということは、まだ完全に寄生仕切っていないって事はないのか?」
「確かに。その辺どうなのよ。」
「あくまでも推測になるけど、その可能性はあるかもしれない。でも、お母さんが亡くなっているのを知ったら完全に寄生されるだろうし、持って後2分で完全に寄生されるだろうね。」
つまり、お母さんがいる前提で救ってあげないといけないと言う訳だ。
しかし、あの赤ちゃんのお母さんは既に亡くなっている。何か突破口はないのか。
再び、誠司が赤ちゃんの上を見上げていると、大量の血痕が付いた桜色のワンピースが赤ちゃんの首元にぶら下がっている事に目を向ける。
「赤ちゃんって、お母さんの着ている服に温もりを感じたりする?」
「まぁ、温もりや匂いでぐっすり眠る子もいるわよね。」
「って事は、お母さんの温もりが分かる私物をぶつければ、突破口が開かれるかもしれないよな。」
「確かに可能性としてはありだけど、そんなもん今から用意出来ないわよ。」
「一か八かの賭けになるけど、首元にあるワンピースを核にぶつけて見るのはどう? そのワンピースがお母さんの物じゃないかもしれないけど、俺はこれに掛けるしかない無いと思う。」
「なるほど。お母さんの温もりや匂いが特効薬になるってことね。時間もないしそれに掛けましょう。」
二人は、武器を構える。
「俺が引き付けるから、隙を見てワンピースを首から切り離してくれ。」
「OK。ついでに、核を剥き出しにしておいてあげる。」
誠司は、赤ちゃんの方向に矢を放った。
矢の音に気付いたのか、赤ちゃんが誠司の方向に体を向けて突進して来た。
それを避けながら、何度も矢を放っていく。しかし、矢は全て弾かれる。
「もう、40秒を切った。2人とも急いで。」
「大丈夫。準備は整った。」
誠司が右指で指パッチンをした瞬間、地面に落ちた矢から電撃が放たれ赤ちゃんの行動を鈍らせる。
その隙を見て、上からおてんば娘が赤ちゃんの首元にぶら下がっているワンピースを切り離す。
そして、もう一度赤ちゃんの心臓付近に近づき『双剣槍(ソウケンランス)』を放つ。
左胸が開くと、心臓に寄生している宇宙人が確認される。
間違いない。心臓が宇宙人の核となってしまっている。
「後は頼んだよ。」
「後、10秒だ。」
ワンピースを誠司がキャッチして、ワンピースの袖の部分を矢の先に絡めた。
「頼む。この子を救ってくれ。」
強く思いを込めながら、矢が赤ちゃんの心臓を目掛けて放たれた。矢が放つ周辺のエネルギーが、桜の花びらの様に見える。
次の瞬間、矢が核となった心臓に突き刺さる。
「うぎゃやわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
心臓に寄生している宇宙人の断末魔が響き渡り、消滅して行く。
赤ちゃんも光に包まれながら肉体共に、徐々に浄化されている。
突如、光の中から女性と赤ちゃんが現れる。
女性は、頭を下げた。
この人は、寄生された赤ちゃんの母親だろう。
お母さんがぼろぼろと大粒の涙を流しながら、誠司にお辞儀をする。
「娘を・・・ 桜を・・・ すぐっでぐれて・・・ ありがどう・・・」
溢れ出る感情の全てが、伝わって来る。
桜ちゃんは、少し涎を垂らしながら笑顔で手を振ってくれた。
肉体が完全に消滅すると共に、お母さんと桜ちゃんも光と共に消えていった。
これは、幻覚なのかそれともこの力の一つなのか分からない。
しかし、完全に寄生される前に救ってあげられたのは間違いないだろう。
「救えたみたいね。」
「肉体は、元に戻らず消滅してしまった。だけど、最後にお母さんと一緒にお礼を言ってくれたよ。なんで、現れたのかわからないけど。」
「それは、本当に奇跡としか言い様がない。僕も分からないけど、君の思いが武器に伝わって奇跡を起こしてくれたのかもね。もしかしたら、君の力は奇跡を起こす物で、一時的に親子の魂が具現化したのかもしれないね。」
「俺の力がそんな奇跡をね。」
弓が光となって消えていく。光が、左腕に集まると銀色のブレスレットになった。
ブレスレットの中心には、射手座の星座のマークがオレンジ色で描かれている。
おてんば娘の双剣も同様に消えて、銀のピアスとなって両耳に付いた。
ピアスには、ふたご座のマークが水色で描かれていた。
結界が消えて空を見上げると、月が黄色く光って星々が綺麗に輝く。
おてんば娘と不思議な生き物が、誠司の後ろから横に立つ。
「そういえば、まだ名前教えていなかったよね。」
「私は、姫島美月。」
「ふたご座の星座人よ。」
「よろしくね。」
「僕は、ミョッチ。」
「星宮誠司。こちらこそよろしく。」
1人と1匹?と握手をした。
春らしい心地いい風が吹いて、髪がなびく。
夜道を歩いていると、美月が星空を見ながら言った。
「最後に、親友に言われた言葉覚えてる? 親友やゼミの友達は亡くなったけど、その意志や夢は必ず誰かが繋いでくれている。だから、あんたも自分の夢を追いかけ続けなよ。それが夢を応援してくれた人達の願いなんだからね。」
「あぁ、もちろん覚えてる。頑張るよ。」
近くの電信柱の上から誠司を見ている影が1つ。
「あれが新しい星座人・・・ 私好みかも♡」
「早く血を飲ませてね♡ せ・い・じ・君♡」
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