第7話 佐久間 新の試練④

次の日の放課後、湊はいつも通り部活へ行き、部活を終えると家路に着く。ただし、帰る家は自分の家ではなく、先輩の家である。しかも女子。湊は新から課された課題をこなすことができていなかった。そこで、乙葉が湊を助けてくれることになったのだ。乙葉の家に着くとすぐに練習が始まった。

「湊君、まずはボールを1つだけ持ってやってみよう。」

「1つだけですか?それくらいなら僕にもできますよ。」

湊は乙葉からボールを1つ受け取り、上へ投げた。しっかり見て、自分の手元に戻るタイミングをに合わせて回転する。そのまま、空に浮いているボールを脇の上でキャッチした。

「これくらいならできますよ。乙葉先輩。」

湊は少しドヤってしまったが、乙葉からお褒めの言葉は出てこなかった。

「ボール見過ぎだよ。今は1つだけだからできてるけど2つ、3つになったら絶対崩れるよ。試しに2つでやってみて。」

湊はそう言われて、一瞬、しゅんとしてしまったが、すぐに切り替え、乙葉の指示に従う。湊はボールを2つにして挑戦した。しかし、先ほどの動きが嘘であるかのような汚い動きをしてしまった。

「あ、あれ?」

「でしょ?だからボールを見るのはもちろんだけど自分で推測するの。どのタイミングで落ちてくるのか、どの角度で投げれば自分の元へしっかり帰ってくるか、とか。」

「はい…。」

「私がいいって言うまで湊君は目を瞑りながらボール1つを掴む練習をして。」

通常なら、「そんな練習意味ない。」や、「これが何につながるんだよ。」などと考えてしまう。しかし、湊は違った。乙葉を信頼していた。それもそのはず、湊自身が乙葉の実力を身を持って感じていたからである。


次の日もその次の日も乙葉から許可は出なかった。しかし、テストの前日となった時、乙葉から許可出た。

「湊君、いい感じだね。じゃあそろそろ3つでやってみよっか。」

「えっ、まだ1、2回しか成功してませんよ?」

始めた時から今、この時まで湊はほとんど失敗してきた。許可が出たのが不思議でならないのだ。

「いいからさ、1回やってみよ。」

乙葉は不思議がる湊を少し急かした。湊はボールを3つ持ち、課題にチャレンジしてみた。すると、完璧。とはいえないが一通りの動きを成功させたのだ。

「で、できました!先輩!」

湊から喜びが溢れ出てしまった。

「すごいよ!湊!」

乙葉は自分のことのように喜んだ。

「先輩のおかげです。ありがとうございます。」

「いいんだよ。湊の力になれたなら…。じゃあ、今日は終わろっか。」


玄関にて乙葉は湊に別れの挨拶をした。

「じゃあね、湊。明日は頑張ってね。」

「はい。頑張ります!」

湊はそのまま歩き出した。しかし、歩いていると、乙葉の言葉を思い出した。

(「じゃあね、湊。…」)

「あ、呼び捨てだ…。」

………………

湊はそのまま帰路に着いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る