guardian of gate

宇奈月希月

第1話 時の運命・1

『古より、門の守護者が出会った時、世界に災厄が訪れる』




「砂川さん、おはよう。悪いけど、教室にこのプリントを持って行ってくれる?」

 担任に呼び止められた少女は、「おはようございます」と挨拶すると共に、快くプリントを受け取った。

「あ、そうだ。あと、今日転校生が来るから、困っていたら助けてあげてね」

「はい、わかりました」

 彼女、砂川七恵は学級委員として、快く返事をすると、担任は「よろしくね」と去って行った。

 教室に入った七恵に、クラスメイトたちが「おはよう」と声をかけ、彼女は穏やかに挨拶を返しながら、プリントを教卓へと置いた。

 そこに、クラスメイトたちがわっと集まる。

「ねえ、七恵。今日の放課後空いてる?」

 と、一人の女子が声をかけるが、慌ててその隣の女子が止めた。

「ちょっと!七恵は忙しいから無理だってば!ね?」

 その言葉に、七恵は申し訳なさそうに眉を下げた。

「ごめんなさい。今日もお手伝いをしなくてはいけなくて」

「えー、そっかー。七恵、いつも忙しそうだよね?大丈夫?」

 その言葉に、七恵は軽く微笑むと「心配してくれてありがとう」と述べ、自分の席へと向かってしまった。

 別の女子が誘った女子を小突きながら、そっと耳元で囁いた。

「もう!七恵はさ、施設育ちで放課後はアルバイトで忙しいって言ったでしょ?」

「でも、働きすぎじゃない?休みないんだよ?」

「まあね。育った施設の手伝いをしてるって聞いたけど……」

 そう話しながら、彼女たちは心配そうに七恵を見つめた。


「おはようございます。まずは、今日から転校生が来るので紹介します。新川有絵さんです」

 担任の言葉に続くように、隣に立っていた少女が軽く頭を下げた。

「新川有絵です。よろしくお願いします」

 ややぶっきら棒に答える少女だが、それよりも彼女の外見でクラスはざわっとしていた。

「え?なんか、七恵に似てない?」

 隣の席の女子が七恵に耳打ちするが、七恵自身も驚いたような表情をしている。

「う、うん。世界には三人似てる人がいるって言うけど……ほんとにいるんだね」

「生き別れの兄弟とか?」

「まさか。兄弟いるなんて聞いたことないんだけど」

 そんな話をこそこそとしていると、担任に「砂川さん」と声をかけられ、七恵は慌てたように「は、はい!」と立ち上がった。が、担任は慌てた七恵に気付く様子もなく、有絵に視線を向けた。

「新川さん、彼女が砂川さん。学級委員だから、困ったら彼女に聞いてちょうだいね」

 有絵はそれに「はい」と小さく答えると、自分にそっくりな七恵をじっと見つめた。

 七恵も困ったような表情を浮かべたが、すぐに「よろしくね」と伝えると、有絵は「ええ」とだけ返した。


 放課後、七恵はいつも通りさっさと帰宅すると、そのまま瞳を閉じた。

 暗闇の中で精神を研ぎ澄ませば、周りの雰囲気が変わったのを感じ、ゆっくりと目を開けた。

 そこは今までいた部屋の中でなく、光に包まれた場所だった。

「エルエちゃん、おかえりー!」

 背中から羽の生えた少女が笑顔で七恵に飛び込んだ。

「リナ、ただいま」

 砂川七恵―本来の名はエルエ。天界の門を守る守護者である。

 一方、一緒に話している天使は、リナ・カルミ。エルエの親友である。

「今日も学校だったんでしょ?忙しくない?」

 リナの言葉に、エルエは苦笑いを零した。

「確かに大変だけど、ライカ様からの任務だし、大丈夫だよ」

「ライカ様もライカ様だよね。人間界のことも知っておきなさい。だっけ?」

 リナが物まねをしながら言うが、それと同時にエルエが「あ」と声を上げた。

「まあ、リナ。あなたの目に、私はそう映っているのね」

「えっ!!?ライカ様!?ああああああごめんなさいいいいいいっ!!!」

 リナはそう叫ぶと、全速力で駆け抜けていった。

 それを無言で見送ったエルエだったが、すぐにライカへと視線を向けた。

 ライカ・タガリヌ。この天界の最高権力者である“神”に次ぐ地位を持つ、云わば神の補佐役である。エルエにとっては、親代わりの保護者であり、頭の上がらない存在だ。

「エルエ、学校はどうです?人間界なので不便なこともあるでしょう?」

「特に不便なことはありません。みんな、仲良くしてくれるし」

 そこまで言ったエルエはふと、有絵のことを思い出した。ライカに相談しようか迷ったが、馬鹿馬鹿しい内容かも、と思い飲み込んでしまった。

「エルエ?」

「何でもありません。疲れはないので、ちゃんと門を守ります」

 エルエの言葉に、ライカは不思議そうな目で見つめたが、すぐに「お願いします」と去って行った。


 一方、魔界の門にも守護者が存在する。

「あら?ナルハさん、もうお帰りになっていたの?あ、やだ。もしかして、有絵さんって呼んだ方がよかったかしら?」

 少女の言葉に、ナルハは面倒そうに視線を向けた。

「カネア、また嫌味を言いに来たのか?……暇な奴」

 新川有絵―本来の名はナルハ。魔界の門の守護者である。

 その門を通ろうとして嫌味を言い放つのがカネア。ナルハを目の敵にしており、事あるごとに嫌味を言い放っていくのが定番だ。

「暇じゃないわよ!魔王様に言われて、天界の偵察に行くのよ!あなたと違って、信頼されてるのよ!」

「はいはい、いってらっしゃい」

「ほんっっっとにむかつくわねぇっ!!!」

 カネアがそう叫びながら門を通りすぎるが、その直後に少年がやって来た。

「カネアさん、また絡んできたんですか?」

「うん、そう。イートはどうしたの?」

“イート”と呼ばれた少年は、ポリポリと頭を掻いた後、面倒そうに答えた。

「カネアさんと一緒に天界まで行って来ます。魔王様の命令とは言え、カネアさんと一緒とかマジで嫌なんだけどな。ナルハ様と留守番していたい」

「何言ってるの。魔王様からなんでしょ?行っておいで」

「ナルハ様がいないとやる気出ない。無理。でも、ナルハ様も人間界行ってたから疲れてるんですよね?」

 ぐだぐだ言いながら、門の前で立ち止まるイートだったが、とんでもなく大きな溜め息を零した後、嫌そうに「いってきます」とぼやいて出て行った。

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