僕は妹を捜しに行きます

阿瀬ままれ

契機

 僕が今書いているこの手記が、誰かの手に渡ることはあるのでしょうか。

 きっと、僕のような人間の戯言など聞くに値しないと、世間はこの手記を抹消することでしょう。我が身を守るため、都合の悪いものから目を背けるのは、世間の常套手段ですから。

 僕は、胸中で渦巻くやり場のない怒りを打ちまけるために、この手記を書きます。もしかしたら、この手記が僕らとは無関係な誰かの目に留まり、善意であれ出来心であれ、世間に漏洩することがあるかもしれません。

 この手記を書き終えたら、僕はすぐにでも命を絶ち、この世から去ろうと思います。拘置所で裁判の判決を何年も待つ気はないし、妹がいなくなってしまった今、この世に留まる理由はありません。

 僕は、未成年の女を三人殺しました。そのほか、実の妹を強姦し、心を壊して自殺に追いやったとされています。

 裁判では、僕を死刑にするか否かで、今も審議が行われています。ですが、僕は死刑を受けようと、世間からどんなに非難されようと、もはやどうでもいいのです。腐りきった世の中から何と言われようと知ったことではないのです。

 ただただ、妹が不憫でなりません。

 僕の犯行が世間に知れ渡り、裁判で詳細が公になってもなお、妹の無念は闇に葬られたままでした。妹が受けた仕打ちについて知る者は多くとも、それを打ち明けようとする者はこの世で僕しかいないでしょう。

 利己心しかない連中にいいように振り回された妹を、僕は守り抜くことができなかった。これから書く手記は、見殺しにしてしまった妹に対する贖罪でもあります。

 妹の無念がたった一人にでも届いてくれたら、虫けらのように扱われた妹の魂も少しは浮かばれるかもしれません。それで妹に笑顔が戻ってくれたなら、これ以上の喜びはありません。

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