夕暮れの白鳥 ―最強兵器の生体ユニットは、人としての道へ羽ばたく―

幸さん

本編

プロローグ

0話 手記:フォーキンシリーズ11号機


 人類はある意味、最も優れた生物だろう。

その発達した脳によって、他の生物とは一線を画す高度なコミュニケーション能力と知能を有しているからだ。巨大な群れを形成し、協力する。時には様々な道具を発明し、過酷な環境にも適応してみせた。

そうして人類は発展し、いつしか地球における生態系の頂点に立った――傲慢な見方だと思う者も居るだろうが、大体は事実の筈だ。


 ただ、やはり人類は傲慢過ぎた。

人間の身体は弱く、同種と協力しなければ生きられない。社会性を持てなかった者は進化の過程で淘汰されたのだろう。

とは言え、結果的に残った社会性という生存戦略も、「最も優れた生物」を支えるには酷く不完全なものだった。

人類が発展するにつれ、集団は大きくなる。人間が十分な社会性を発揮できる環境の上限を超えてなお、集団が成長し続けると、自然に分断が起こるのだ。

国と国、主義と主義、持つものと持たざるもの……例を挙げれば切りが無い。

皆で手に入れ、共有する筈だった利益は一部の者が独占し、格差と軋轢が生まれた。



 そうして、戦争は始まる。

「人類はある意味、最も優れた生物」などと述べたが、「最も同族を殺戮している生物」であることも忘れてはならない。人類史は「争い」と「反省」、「平和の希求」を幾度と無く繰り返して来たわけだが、結局、根本的な解決が為されるより先に地球に限界が訪れてしまった。


人類は存亡の危機を回避する為、恒星間移住とテラフォーミングを実行した。そこに何重もの障害があったのは確かだが、やがて荒廃していく母星を後にし、新天地たる惑星【ドナート】に足を踏み入れたのである。

 

母星を荒らし尽くす愚かを経験した人類は、強烈な反省を胸に、新たな生き方へ乗り出した。

【統一連合政府】……争いの火種となる「国家」という名の隔たりを取り払えば、平和が訪れると考えたのだ。


当然、これに賛同しない者も居る。彼らは【独立国:テレストリス】を結成し、武力衝突は避けられないものとなった。


連合側は物量や経済力で言えば圧倒的であるにも拘わらず、テレストリスを全く降伏させることができずにいた。

それは、惑星資源の大部分が眠る地域をテレストリスが押さえ、高性能な兵器の生産ラインを独占しているからだ。


ただ、根本的な原因は統一連合内部にある……いわゆる「覚悟」と呼べるものが足りていないのだ。

自称「平和主義者」が議会の中で無駄に幅を利かせ、この期に及んで政治による解決を求めている。

そのせいで連合軍は武力行使を渋って後手に回り、結果的に敗北を重ねて来た。


 だが、近頃あった選挙で戦争推進派が議会の主導権を握った。

今まで認可されることのなかった兵器の使用・開発が確かなものとなったのだ。


 何事にも犠牲は付きものだ。それは大きな目標を掲げ、実現せんとする者にとっては尚のことであろう。

私は同盟者として、ようやく決意を固めた統一連合を歓迎する。我々の仕事はそういった犠牲に価値を与える事だ。



 連合軍からの要請を受け、我ら【中央技術管理局:CTMB】が開発した最新鋭の人型ロボット兵器【アセラント・フォーキンシリーズ】。

今回、ようやく一応の完成を見た11号機は、人類の飽く無き力の探求において、一つの到達点となるだろう。

あぁ、明日の実戦テストが楽しみで仕方がない。


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