お茶会までのそれぞれの動き①329話

〈ポエムの場合〉


「黒猫甘味堂でお茶会できないかしら」


 レイシア様が唐突に言い出した。


「ほら、ポエムさんが言っていたお茶会の条件、『お客様を満足させる場所、食器、おもてなしによるサービスのクオリティ、それに人間関係を深めるメリット』のうち、場所とサービスとお菓子のクオリティは十分兼ね備えているわ。この際食器は目をつぶるとしても。どうかな? メイドなら従業員でまかなえるよね」


「どうかなと言われましても。そうですね、メイドに関してはもう少し鍛えれば法衣貴族への対応であればいけるかもしれませんが……。しかし場所が。平民街ですよね」


「平民街だとだめかな」


「法衣貴族の子女ですから、貴族街から出たことはないでしょう。彼女らにとっては平民街は異郷の地なのです。それにドレスを着た貴族の娘が平民街をうろつくのですか? まずいですよ。制服ならいざ知らずドレスでうろつくのはダメです。ターナー領とは感覚が違うのですよ、レイシア様。平民街と言っただけで参加する方はいないでしょうね」


 レイシア様は「そうですか」とつぶやきこうべを垂れましたが、次の瞬間こう言いました。


「じゃあ、場所を教えずに誘ったらどうでしょう」

「はあ?」

 いけません。つい素で反応してしまいました。


「学園で集合して頂き、馬車で送り迎えをするのです。どうかな?」

「どうかなと申されましても。そうですね。無理ではありませんか?」

「そこをなんとか!」


「……まあ、法衣貴族相手ですから、比較的立派な馬車での送迎であれば喜ばれるかも知れませんが……。馬車など用意できない方も多いでしょうから。そういった名目であれば場所を伏せるのも不自然ではなくなりますが……。可能かと言われれば可能ですが、失敗した時のリスクは跳ね上がりますね」


「じゃあ、満足させられればOKってこと?」

「そうですね。しかし、レイシア様にとっては初めてのホステス役。しかも手伝える方もいませんし、仲良くしている方もいない中のお茶会です。誰が行っても失敗する要素しかございません」


 そう。初めてのお茶会の主催なんて、周りの大人のおぜん立てで開かれ、それでもたどたどしくなる姿をほほ笑ましく見守るのが通例。オヤマー側の協力もなしに開いたところでどこまで出来るのか心配しかないのです。


「そこら辺りはお菓子で何とかならないかな? あとはゲストなんだけど……」


 名前を聞いて驚きました。そうですね。コンセプトは理解いたしました。


「ちなみにご予算はいかほどかけられるのでしょうか?」

「馬車はどのくらいで借りることができるかな?」

「そうですね。6人乗りの馬車でしたら金貨1枚まではかからないかと」

「20人でしたら4台、金貨4枚ですか。黒猫甘味堂の貸し切りだと1日の売り上げくらいは払わないといけないから、100万リーフ、金貨10枚は必要ね。まあ、なんだかんだで300万リーフもあれば足りるかしら? どうかな?」


 お茶会ですよ! 一桁間違っていませんか!


「でも、何もない所から始めるにはお金かかりますよね。他の貴族の方は必要なものは持っておられるのですし。これは授業の単位と私の経験というものに対しての投資です。お母様お帰りなさいパーティーでもこのくらいは当然のようにかかりました。著名な音楽家は呼ばなくても、バイオリンの演奏くらいは流れていた方がよいでしょうし」


 なんでしょうか、このレイシア様の金銭感覚は。さすがオズワルド様のお孫様です。普段はあれだけ質素なのに、ここぞという時のお金の使い方は豪胆というか的確というか。


「予算はオーバーしてもかまいません。最善を尽くしたいですので必要な物資や人員の手配、ポエムさんにお任せしてもいいでしょうか」

「かしこまりました。私の持つ人脈をフルに活用し、招待状の作成から当日の人員配備まで、最高の環境をご用意いたします」


 私は久しぶりにワクワクしながら、お茶会の計画についてレイシア様と意見を出し合った。


◇◇◇


〈メイの場合〉


「ということで、その日貸し切りでお茶会を開きたいの。いいかなメイさん」


 レイシア様が私に相談! いいに決まっているではないですか! このお店はレイシア様のお店ですよ! レイシア様がやりたいようにやって下さっていいに決まっているではないですか!


「もちろんです! なんでしたら一ヶ月お休みにしてリハーサルをしましょうか!」


「だめですよメイさん。店長がそんな事軽々しく言っては。従業員にもお客様にも迷惑がかかります。それで貸し切りの料金なのですが」

「もちろん無料で! レイシア様のためでしたらいくらでも」

「だから駄目です。私もこのお店に投資しているのです。利益無視な行動は控えて下さい」

「はい」


「一日の売り上げ、特に休日ですので最低金貨10枚は必要だと思っておりますがいかがでしょうか」


 私は売り上げの台帳を見た。うん。金貨10枚なら土曜日の売り上げとしては文句ない金額。


「もちろん、出された食費は別に払いますが」

「いえ、食事代込みでいいです。オーナー割引をしても十分なくらいなのですが、変な前例を作るのはよくないのですよね。ですが、貸し切り料で売り上げは確保できていますので、普段の材料費と光熱費の分を考えますと100人分の料理を出しても余るほどです。ここのキャパシティーを考えても30人程ですよね。それであれば料理はサービスで出させて頂いても全く問題はございません」


「素晴らしい! 成長しましたね、メイさん」


 レイシア様が私を褒めて下さった! 生きていてよかった!


「それから、お客様は学園のお嬢様たちですので、いつもとは違った対応が必要になります。こちらのポエムさんから指導を受けてもらえるメイドさんを5~6人選定して貰えないかしら。もちろん手当ははずむわ」


「分かりました。手当などなくともやりたがる子はいるでしょうからお任せください」


「ありがとう。詳しいことはポエムさんと詰めて下さい。よろしくお願いしますね」


「レイシア様のお茶会、成功させるためでしたらどこまでも頑張ります!」


それからお店の状況を報告したり、学園でのレイシア様のお話を聞いたりしながら月一の楽しい報告会をすごした。



 結局、従業員一同ポエム様の特訓に参加した。お手当はいらないからと懇願されポエム様も折れてくれた。姉猫様の指導を受けていない去年の秋以降に入ってきた人たちは、本当に楽しみにしていたようだ。本職のメイドから習える幸運なんて二度と来ないかもしれないから。


 ……舐めていました。サチ様がお優しかったこともあるのかもしれません。お店が終わってからの毎日の一時間の指導。いえ指導というより特訓。いえ、騎士団の新人訓練ですかこれ? 誰かお店を辞めてしまわないかはらはらしました。それでも、レイシア様のために! という結束感は誰一人脱落者を出す事もなく全員のメイドとしての振る舞いを上げることに成功しました。5~6人と言われましたが、全員参加でお茶会を成功させますわ。レイシア様!



 当日、朝早くスタッフ及びレイシア様一同が黒猫甘味堂に集合した。

 メイド20名。調理人5名。レイシア様、サチ様、ポエム様。それにイリア・ノベライツ様! レイシア様と仲良しということで何度かお会いしたことはありますが、やはりファンとしてはテンションがあがります。ラフなワンピースで来られてもステキな方です。おっと、レイシア様からお話があるようです。


「皆さん。今日は朝早くからお集まりいただきありがとうございます。この度は私の我がままでこの黒猫甘味堂を貸し切りお茶会を開くというミッションに協力頂き誠に感謝いたします。知っての通り、この黒猫甘味堂はスタッフもお客様も全員女性。女性が輝ける女性のためのお店です。ここで本物の貴族のお茶会が開かれることは、皆さんにとっても意味深いものだと思います。いままで準備、特訓大変でした。その結果を今日遺憾なく発揮し、お茶会を成功させましょう。終了後、こちらで簡単な打ち上げを用意しています。私の手料理で申し訳ないのですが、ぜひご参加ください」


 会場内から嬌声が上がった。レイシア様の手作り料理の打ち上げ会! 


「では、本日はよろしくお願いいたします。各班に分かれ最終の確認を行ってください。イリアさんは着替えを」

「え? なに? わ~!」


 イリア様がサチ様とポエム様から連れていかれた。

 私はレイシア様と共に各パートの動きをチェックしに動いた。

 レイシア様と楽しく打ち上げするため、どんなことをしてもこのお茶会成功させますわ! 皆、気を引き締めて頑張るのよ!

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