chapter:6-9

 最初に自分を引き留めたナナに続いて、心多も玲の前に立ち、道を塞いだ。

 そのことに玲は怪訝な顔をする。

 彼の表情は相変わらず、こちらが落ち着くような優しげな微笑みが浮かべられていた。


 しかし、心多は玲に遠慮なく、心情を暴くように言葉を紡ぐ。


「……っ、そんなの分かってる。じゃあ、どうしたらいーんだよっ!回復しか取り柄のない私が、どうしたら……お前らに迷惑かけないですむんだよ!」


 後ろにいるナナ、目の前に立つ心多、隣に近づいてきた丈。三人の顔を見回し、玲は八つ当たりするような言葉を投げた。

 自分でも、どうすれば一番いいかわからない。否― ―わかってはいる。


 けれど、それを口にしたら、確実に巻き込み、大変な目に合わせてしまう。

 それが怖かった。自分のせいで、傷つけてしまうのが。“お前のせいだ”と、敵意を向けられるのが。


 こんな風に悩むのも面倒だったが、玲はいつものように強気にはなれない。燈弥が倒れたという事実が、これまでにない不安を増大させていたのだ。


「ハッキリ言えよ!お前のせいで燈弥は倒れたって!お前のせいだって!!私だってウジウジ悩みたくなんかないんだ!」


 “助けて”のその一言は喉まで出かかっているのに。玲は目の前に立つ心多を睨みつけた。


「 アハハハハッ!!そりゃァ無理だよ。それに、玲ちゃんが迷惑だと思ってても 、アイツはどう思ってるかな? 」


 玲の真剣な眼差しと、随分と長い間溜め込んだであろう悩みを真正面から受けて、それでも心多は笑い飛ばす。

 人が人である限り、誰かと寄り添って、迷惑をかけ合って生きていくものだ。

 それは月並みな言葉だからこそ、いや、月並みな言葉ゆえに普遍の事実なのだろう。


「どうしたら私らに迷惑かけずに済むかって?」


 心多の言葉に玲は何か言いたげで、今度はナナが話に入った。


「えー、それって私らや燈弥のことちょいみくびられてる?んー、私はやりたいようにやってるだけ。燈弥だって打算で玲ちゃん助けたわけじゃないの、あんな構われてわからない?マジ?」


 ナナは呑気に、んー?と本当にわからないというように口を開けた。

 自分はオクターボレクスで玲とは違う。

 強者が素人に手を貸すのはオンゲでも定石。

 持ちつ持たれつの世の中だ。

 だからこそ、玲のことが理解できない。


「激レア玲ちゃんを大事に思うから、でしょー?それを迷惑ってー……リセットボタン爆死レベルのゴミ発言」


 呑気なナナにしては珍しく不満をあらわにする。

 燈弥があんなに疲労するまでして助けようとしていたのだ。今現在彼がいない状態で玲を守るのは自分の役目だとナナは自覚している。

 それは王としてのプライド。


「もっかい言うね。迷惑じゃないから送っていく。これ強制イベ。拒否するなら力ずくで拒否しなよ。まあ、こっちも負ける気はないけど?」


 片や怒りも露わに睨むナナ。片や高らかに笑い飛ばす心多。玲はどうしたらいいかわからない。

 自分の悩みを疑問を二人は全く正反対の態度で、しかし結論は同じことを伝えてくれた。


“迷惑ではない”。二人の優しい言葉が、玲の胸に刺さる。


 そんな玲を見てニコニコと、やさしげで涼しげな笑顔を浮かべたまま、心多は優しく玲の頭を撫でる 。


「 抱えてる気持ち、燈弥に直接言ってご覧よ?まぁ、答えはわかりきってるけどね」


 そう言って、ひとしきり玲の頭を撫でた。


「〜っ」


 子ども扱いされた、そんな恥ずかしさから玲は顔を少しうつむかせる。だが、結局は子どもなのだ。一人で何もできない、弱い存在。


 撫で終わると心多は何も言わず前からどく。 開ける道。

 しかし、奈緒は一人で帰るのを許さない。彼女は力づくで拒否しろと言った 。それはつまり、一人で行かせるわけがないということ。


 どうしたものか……玲が考えてい ると、今まで玲の一歩後ろに寄り添うように待機して黙っていた丈が、玲の肩を持つ。


「 俺は玲ちゃんの気持ちも理解できるから。 一人で考える時間も、必要だと思うよ 」


 まるで呟くように、そう優しげな口調で告げる。そして――。


「 どうせだし、俺が玲ちゃんの“力”になるよ。玲ちゃんが一人で行くって言うんなら、俺はナナさんを力づくで止めようかな 」


 玲をかばうように、そしてナナを少し牽制けんせいするように告げた。

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