chapter:1-6

「アホか!?減るとかじゃないんだよっ、恥ずかしいんだ!このバカ!変態!」


 逆ギレ並に怒鳴る燈弥に玲は驚愕しながらも負けじと返す。端から見たら異様な風景だ が、仲はよろしいようにとられるだろう。


 だが、ハッキリ言うが、この二人は決して親 しい間柄ではない。片や研究者、片やモルモット。お互い、それ以上は思ってないだろ う。

 まぁ玲も仲良くなりたいなどとは微塵みじんも思ってないので、全然構わないのだが。


 そんな玲の心情など知る由もなく、燈弥は廊下をまっすぐに歩いていく。本気でこのまま、担いだまま!?それは困る、まずい。

 この男は何も気にしないのか、スカートの丈 についての文句をいう始末だ。既にこの担ぎ運びに慣れたのだろうか。


 とにかく、さっ さとこの現状を打破せねば明日の学園の噂になってしまう。


「わかった、わかったから!ついてくから……とにかく降ろせ」


 ため息混じりに嫌そうに吐き捨てて告げる言葉は嘘ではない。

 どっちにしろ、この男に解放されるわけがないのだ。ならば、素直に従う方がいい。これ以上、喚いても面倒なだけだ。


 そう考えてたら、燈弥が斜め上を見上げたので玲もそちらに顔を向ける。だが、何があるのかは……よく見えない。人?だろうか……。


「おい、ほら……人がいるじゃんか。早く降ろさないと変な噂が立つぞ」


 玲はヒステリックに叫ぶのではなく、気怠い感を全面に出して呟いた。あー……買い物したかったなぁ、なんて今日やりたかった事を頭に浮かべ、もう一度ため息を吐いた。


 燈弥が屋上の視線に気がつき、少しだけ神経を尖らせれば、今は一般的な生徒が机に向かって教師の話を聞いている時間だというのに、いくつかの気配が感じ取れた。


 ――やはり、こんな時間帯にうろちょろしているのは「王」クラスの人間か、はたまたそれに準ずる何者かか。

 そう予想はしていたが、自分の他に王であろう人間の気配は全部で3つ感知できる。あまりにも多い。半分の「王」がここに居合わせているわけだ。


 周りの視線が気になる。というわけではないが、中にはgrade:1レベルで熱血漢のような奴もいる。

 そんな奴がこの状況を見て、肩に担ぐこいつの言葉を聞いて喧嘩を売ってきたらシャレにならない。モルモットも自分についてくると言っているわけだし。


 そんなことを考えれば、ひとつため息を吐いて、燈弥は膝をかすかに折ると前かがみになって、肩に担いでいた玲を


「しっかし、女のくせに重いやつだぜ」


 腰に少なからず負担がかかっていたのか、そんなことを言い放ちながら、腰に手を当てて上体を後ろに反らす。


 ポキポキッという小気味のいい音が鳴ると、息を吐きながら前に向き直り、先程の気配の一つを辿る。

 そして廊下の先にいる奇妙なものを見るような目つきの少女に行き着いた。彼女に対し持ち前の三白眼でもって見返す。


 正直人の名前と顔を覚えるのは不得意な燈弥なのだが、それでも記憶している「八人 」正確には「七人」のうちの一人。


 その顔が視界の中央にある。少し離れてはいるが、 この距離なら会話をすることも可能だろう。


「 そういえば、王ってのの実験はしたことなかったな。 アンタ、誰か固定の研究者についてんのか? 」


 そんな風に、今まで玲に見せていた笑みとは違う、目つきの悪さは隠れないが、それでも少しはとっつきづらい雰囲気を払拭した笑顔を向ける。


 オクターボレクスの一人、地樹属性最強の能力者。樹教皇じゅきょこうの少女に。


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