誰のためのフェアリーテール

@pu-are

始まり

第1話 プロローグ


 

 2人は殺し合いました。


 それがもとから、運命づけられているとは知らずに。

 彼らはお互い憎しみをぶつけ合いました。

 長い長い戦いの末、勇者は勝ちました。魔王は死にました。どちらかが英雄になり、どちらかが悪者となりました。


 ……。

 ……本当は。

 本当は2人とも、何かを守りたかっただけなのに。




Both side

「あ~疲れた。でも、またまた俺の勝ちだな」

「……ずるい、絶対なんかズルしてるでしょ?」

 2人の少年が、青空がよく見える草原の中寝転がっていた。1人の少年はにやにや笑っていた。服がダボダボなのかわざとなのかは知らないが、右肩が服から露出して、中に着ている黒インナーが少し見えている。それ以外はどこかの村の人が着ているような粗末な格好。土で汚れている服を着ている。彼の名はショウト。黒髪短髪で、明るい性格をしている。

 もう1人、長袖・長ズボンの格好をしている少年がいる。が、むすっとしている少年の髪は少し長い。頭には白黒の幾何学模様が書かれたバンダナがまかれている。そして、その少年の右腕には包帯がまかれている。彼の名はリオン、顔立ちが少し女の子みたいだ。

 二人とも土まみれでボロボロ。手には木刀が握られている。剣のけいこでもしていたのだろうか。

「リオンが弱いんだよ。あ、俺が強すぎるのか?」

「うざいなぁ……。次は勝つし」

 むっと悔しそうな表情のリオンはプイッとそっぽを向いてしまった。

「つーか、ショウトは勇者になろうと思ってないんだろ? じゃあ、本気出さなくてもいいじゃん」

 リオンの言葉にニヤニヤしていたショウトが反応して起き上がる。

「そーだけど、なんか負けるのが癪。てか、それはお前もだろ」

「まーね」


 2人がいる世界には魔物が存在する。魔物は恐ろしく、人間よりも残虐。すでに世界の半分の都市を襲っているらしい。このままでは、世界は残虐な魔物によって支配されてしまう。そのためには、魔物を殺さなければいけない。

 それをするのが勇者だ。

 2人がいる村では昔から勇者の伝説がある。その伝説に従い、もし魔物が人間を襲うことがあった時、この村から「勇者」を選び、魔物を、そして魔王を倒させる。今、村人は「勇者」となる少年を選んでいるところ……みたいだ。

「勇者になって、なんでわざわざ旅までして、危ない目に合わなきゃいけないんだよ……。大体、俺たちで魔物に勝てるわけないよ」

 ショウトは木刀をブンブン振り回しながら言った。

「それな。勇者に選ばれてそんな危ないことしなきゃいけないんだったら、俺夜逃げするわ(笑)」

「笑顔で何言ってるんだよ(笑)」

 と、そこへ。

「あー、二人ともこんなとこにいた。今ね、勇者が決まったみたいだよー!!」

 村の幼い女の子が、黄色いスカートをなびかせながら走ってやってきた。急いで走ってきたのか、ハアハアと息が切れている。

「もう?」

 リオンがしゃがみ、女の子にやさしく尋ねた。

「うん。だから早く中央の広場にきてよ」

 そう言い残して、女の子は走り去った。

「……だって、行こ、ショウト」

「わかった」

 2人は立ち上がった。


 少し壊れかかっている家が立ち並ぶ道を抜ける。坂道を下り、噴水のある広場に2人はついた。まるで噴水を囲むように木々が立っている。その近くに50人ぐらいの人々も立っていた。

「遅かったな、ショウト、リオン」

 村の長である老人が口を開いた。長老は足が悪く、木の杖で体を支えていた。唇も震えていて、立っているのが辛そうだ。

 しわくちゃな顔が、真剣な表情に変わる。長老の汚れているローブが風になびいている。

「皆も知っている通り、魔物どもは近くの町を襲い、そこに住む人間を殺しまわっている。そのために我々はこの地に伝わる伝説に従い、勇者となる若者を決めた」

 長老の傍に立っていた屈強そうな男が大きな声で言った。

 大きな剣を持っている者や、筋肉ムキムキの者、さらには目を布で隠している胡散臭そうな(自称)魔法使いまでもがドキドキと緊張している様子だった。


 当たり前だ。勇者となって魔王を倒せたら英雄になれるのだから。


 その代わり危険な旅をしなければならない。そのため勇者になりたくはないリオンとショウトはあまり緊張しなかった。

「なあなあリオン。誰になると思う?」

「さあ? 予想もつかないよ」

「さて、勇者になるものを発表する」





 少し間が置かれたのち。





「ショウト、お前だ」

 長老がショウトの肩をポンッと叩く。 

「はい?」

 ショウトは驚く。まさか自分が選ばれるとは思ってもいなかったからだ。

「お前は一番剣が強く、正義感がある。お前には勇者としての資質がある」

 ほかの人たちは嬉しそうに拍手をしている。一部の男たちはがっくりと肩を落とし「残念」といった表情をしていた。

 しかし、当の本人は……。



「えー。俺、勇者じゃなくていいよ。行きたくない」

 


 ショウトはけだるそうに言った。その瞬間、村の人は一斉にショウトの方を向いた。

「は、はぁ⁉」

「ちょ、ちょっと。何を言ってるんだ⁉」

「マジでお前しかいないんだって」

「俺はそんな人間じゃねえよ。みんなが思っているほど俺は正義感とかなんてないし。てか、危ない目にあいたくないし」

「そういうなよ……」

 人々が必死にショウトを説得している間にリオンはそっと抜け出した。

  



「……別に期待していたわけではないのに……な……」

 リオンは1人、近くの森の中を歩いていた。森の中はうっすらと霧がかかっている。少し薄暗い。どんよりとしている。今のリオンの気持ちを表しているようだ。

「……俺もショウトが一番勇者に近いと思っているし、俺が勇者になる気はない。……けど」


 認められなかった。


 その思いがリオンの気持ちをどこか暗くさせている。

「はあ、何やってんだろ。頭も冷めたし、ショウトのほうに行ってからかいに行こうかな」

 後ろに振り向いた時だった。

 ガサガサッとリオンの横の方向から音が聞こえた。

「……。ここに向かってくる?」

 リオンはとっさに腰に掛けていた剣に手を伸ばす。

 そして。

 ガサッ。

「‼」

 木々の隙間から出てきたのは1人の長身の男と数匹の魔物。巨大な蜘蛛の形のもの、蛇のもの、顔が潰れたみかんのように醜い、小鬼型の魔物であるゴブリンもいる。真っ黒なローブを着た男はそいつらを引き連れているようだ。男の顔はよく見えない。目のあたりはヒラヒラした布で隠れている。

「魔物が……! それに魔物を引き連れているって……まさかこの男、魔王……⁉」

 リオンの心に緊張が走る。すぐさまリオンが剣を引き抜こうと動いた瞬間。

「ガ……!」

 男はリオンの首元をつかんだ。その腕は上に上がる。リオンの足も地面から離れていく。

「は……なせ」

 バタバタとリオンは暴れるが、男は手を離さない。

 男は手に力を込めた。ググッと、リオンの首が圧迫される。

「っ!? や、はな、せ!! く、そぉ!!」

「人間?」

 男は口を開く。意外にも若い声だった。

「はい。どうやら勇者になった者の友人のようですね。どうします?」

 男の近くにいるゴブリンが尋ねている。その間にも首を絞め上げる力はどんどん強くなっていく。意識も朦朧として、木々の輪郭もあいまいになっていく。

 このままでは……。リオンは覚悟を決めた。


 リオンは知っていた。魔王という奴は、時々人間を洗脳することを。人間を自分の味方にして、同志討ちさせることを。


『くそっ! そ、それだけは嫌だ!!』

 ショウトに、迷惑をかけるくらいなら。



「……殺せ」



 リオンは暴れるのをやめた。迷惑をかけるくらいなら、死んだ方がましだ。 

 そう思い、リオンは静かに目を瞑った。

 その時に男は笑みを浮かべた。

 新しいおもちゃを手にした子供のような。何か楽しいことを思い浮かべているかのように。

 にやりと、男の口角が上がる。

 そして、男は一言。




「いいこと思いつーいた」


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