Oreille absolue

 「七菜でございます。」

可愛らしいまだ若い女性の声がした。

 「どうぞ。」

レオは姿勢を正して答えた。

 「今日は箏の演奏をたいへん気に入っていただけたようで、本当にありがとうございます。」

七菜は丁寧にお辞儀をするとそう言った。レオはさっそく手元に置いていたヴァイオリンのケースを開けた。

 「七菜さん、ちょっと簡単な遊びをしたいと思います。これはヴァイオリンと言う楽器です。今からわたしがこの楽器で弾く音をそこにある箏で弾いてもらえますか。」

レオはヴァイオリンで数音ランダムに音を出した。七菜はそれを見事に弾いてみせた。

 「やっぱり、七菜さん、あなたにはOreille absolueがある。」

レオは納得した様子で言った。

 「なんですか、それは。」

七菜はきつねにつままれたような顔をした。

 「普通の人は音を聴いてもそれを完全に答えることは非常に難しいんです。しかし、あなたはそれを簡単にやった。それはOreille absolueがあるからです。」

レオは覚悟を決めた。

 「七菜さん、あなたがもしよろしければ、わたしにあなたを身請けさせてくれませんか。」

七菜はもう何が何なのかわからないと言う様子だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る