Edit Jack!

はなみ 茉莉

Prologue 死がふたりを分つ時まで



自分にとって一番大切なものは何だろう?

もしかしたら、大人になれば分かるかもしれない。

一生かけても分からないかもしれない。


ゴーン、ゴーン、と鐘の音が鳴り響く中歩いた。

廊下も白、絨毯も白、壁も白、窓枠も白。

窓越しに見えたバサバサと飛び立つ鳩達も白。

圧倒的純白の世界で少女もまた真っ白のドレス姿だ。


ギ…と重苦しい扉が開かれ、その中で待つ人々も純白の装飾を身に纏っている。

一歩進む度に人の波が引き、道を作る。


中央でただ一人待つ人物の前で少女は足を止めた。


「何故、」

「…あたしの世界ではね、死がふたりを分つ時までって言うのよ」


そっと少年の手に小箱を乗せ言う。


「婚約してくれるんでしょ?あたしと」


小箱を開き、中の指輪を取り出すとひとつを少年の指に嵌める。

ん、と少女は左手を差し出す。

少年も少女の左手に指輪を嵌め、少女のベールを後ろに送った。


「…いいのか?」

「もう決めた」


少年は目を伏せ、少女の頭頂に口付けた。

ゴーン、ゴーンとなり続けていた鐘が止み、外から割れんばかりの歓声が聞こえる。



少年と少女の足元にある純白の扉は溶けるように消え去り───ふたりを奈落の底へ飲み込んだ。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る