第3話

ある人、妹背いもせと頼みたるに、そむきつれば、詠みける


妹背山 後の世までの ちぎりにて 名をあやまつは 春霞ならむ


 ◇


「どしたの、あの人、めっちゃ荒れてんね」

「あー、なんかさぁ……男が名前間違って呼んだらしい」

「えぇー……っちの時に? ……サイアクだねぇ」

「やー、何とかならんもんかねぇ、仲良しカップルだったのに。あ、ほら、顔が見えなかったとか。最近、黄砂もひどいからさ、うん」

「いや、ムリがあるし、そもそも夜は顔見えんし」

「……うん。そもそも、見える見えんの話じゃなかったわ……」


 ◇


――――

妹背(山):夫婦のこと、川の両岸にある一対の山

背く:夫婦が別れる、離れる

後の世:後世、来世

ちぎり:約束、因縁

あやまつ:間違える

春霞:春時季の空がぼんやりと霞んでいる気象現象。昼夜の寒暖差により発生する大気中の水分や、黄砂などによって視界が悪くなる


✽近年の黄砂は本当に甚だしいですよね

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