第23話 ブルマをかけた戦い
Bクラスの女教師の合図で、ゲームはスタートする。
スタートの合図とともにAクラスの女子生徒たちの大半がホウキにまたがり、一斉に空へと飛び立つ。中心でひときわ華麗に飛んでいるのはシャルだった。彼女の飛行技術は群を抜いて高く、Aクラスのオフェンス陣のリーダーのようだ。シャルに指揮されたAクラスのオフェンス陣は、三日月の陣形でBクラスの陣地に迫る。
対するBクラスの生徒達の半数が、ホウキで垂直に上昇する。自陣の上空に展開し、迎撃の構えだ。
Bクラスの陣の上空で、戦闘は開始された。
「ファイアー・ボール!」
「アイス・ボウ!」
魔法学校だけあって、彼女たちが生み出した魔法の火炎玉や氷の矢が飛び交う。威力は見るからに低めだが、その代わりに呪いは無さそうだった。加えて体育館に施された術式の影響で、被弾しても障壁のおかげでケガすることはなく、撃墜された生徒達は陣地や場外のクッションの上に落ちていく。
サーシャの見るところ、ホウキの飛行技術はAクラスの生徒の方が上だ。したがって上空での戦闘で落とされる生徒はBクラスの方が多い。しかし戦場はBクラスの陣地の上空。地面に落ちてしまっても、自陣なら失格にはならない。自陣に墜落した生徒は、再び舞い上がって上空での戦闘に参入している。
つまり自陣の上空で戦うディフェンス側の方が有利だ。逆にAクラス側は三日月型の陣形を狭めて包囲しようとするも数で足らず、しだいに左右に分断され、中央が手薄になってきている。
このままでは負ける。サーシャはそう感じた。しかし──
「今よ、放てー」
Aクラスの自陣に待機していたディフェンスの生徒たちが、声を合わせて魔法を放つ。複数人で放つ長射程の合同魔法。巨大な炎の柱が水平に伸び、自陣上空に密集していたBクラスの生徒たちを襲う。
「あ、あつ……」
炎の柱に巻き込まれ黒焦げになった生徒たちが墜落する。障壁のおかげで危険はないが、熱いことは熱いらしい。
戦況は一気にAクラスが優位となる。自陣上空に密集していた生徒の半数を失い、Bクラスの上空が一気に手薄になったのだ。
「突撃!」
シャルの合図でAクラスの生徒が一気に高度を落とし、Bクラスの旗を狙う。
しかし悲鳴をあげたのは、勝利を確信したはずのAクラスの生徒だった。
「きゃああああ!」
突如Bクラスの陣地から、巨大な植物が生え、そのツルが次々とAクラスの生徒を拘束していく。魔法植物のトラップを仕掛けていたようだ。
「あれは、魔法具の魔獣!?」
Bクラスのガードの少女が抱えている鉢植え。それが植物型の魔獣を使い魔として召喚する魔法具のようだった。魔法具の使用は許可されているものの、まさか魔獣まで持ち出してくるとは、サーシャも予想外だった。
「あれだけの魔力、どうやって供給しているんだろう?」
『どうやら、秘訣はあのダンスみたいですね』
イエローストーンが指摘したとおり、Bクラスの生徒の一部がチアの様なダンスを踊っている。それが魔力の供給源らしく、ダンスに合わせて植物が動いているようだった。
「あんなオモチャあったなあ」
『のんなこと言ってる場合じゃないですよ、このままじゃ負けちゃいますぅ』
イエローストーンの言う通り、拘束されていたAクラスの生徒たちは次々と地面に放り出され、場外の判定を受けていく。
「た、退却~!」
シャルの退却の声と共に、一斉に逃げ出すAクラスの生徒達。
だが体制の立て直す時間など、Bクラスは与えなかった。
ガードを除くBクラスのほぼ全員がホウキに乗ると、追撃の体制に移る。そして無防備なAクラスの生徒の背中に魔法をぶつけ、次から次へと落としていく。
大勢は決したように思われた。Aクラスの生徒を蹴散らしながら高速で接近するBクラスの生徒達。彼女たちを迎撃する力は、Aクラスの生徒には残っていない。サーシャをはじめAクラスの生徒の脳裏に、敗北の文字がよぎる。
『サーシャさん、〝ビンの魔人〟を使ってください!』
「あ、はい」
サーシャはポケットからビンを取り出すと、魔人をその場に召喚する。ビンから煙が噴き出すとともに、その場に出現する魔人。
「きゃああ!?」「ま、魔人!?」「すごい!」
小山の様な大男の突然の出現に、AクラスBクラス共にパニックになる。
「す、ストップ!」「むり~!」「ぶつかる〜!」
特に悲惨だったのが、Aクラスのフラッグに向けて高速で突っ込んでいたBクラスの生徒たちだった。
減速は間に合わず、次々と魔人の背中や尻にぶつかって、地面に落とされ失格となる。
「あんなのあり!?」
「魔人の召喚なんて、どんな魔法具よ!」
Bクラスの生徒は魔人に登場に、不正だと物言いをつけるが、魔法具の使用はルールの規定内だ。もっともあの魔人は命令を聞いても、実行してはくれない木偶の坊にすぎないのだが、それはサーシャ以外の両チームともあずかり知らぬことだった。
予想外の事態にBクラスの生徒もまた自陣に後退、両陣営ともに相手の魔法具を警戒し、睨みあう状況になる。
「試合時間はあと5分。サーシャ、どうしよう、このままじゃ引き分けでドローだよ」
Aクラスの陣地に後退していたシャルが、悲鳴のような声をあげる。
このままだと引き分けになり、ブルマはこのままだ。それはAクラスの敗北と同義だった。
「イエローちゃん、私、みんなのために勝ちたいよ。力を貸して!」
『オフコース、その言葉を待っていました』
サーシャの呼びかけに快く応じるイエローストーン。
『まず魔人に、旗の守りをいいつけてください』
「ま、魔人に命じます。旗を守りなさい!」
『承知いたしました。ご主人様』
サーシャに恭しく敬礼する魔人。こいつは何もしてくれないが、相手にはそのことがわからない。こけおどしにはなるだろう。守りは魔人に任せるしかない。
『では、〝セクシー・ジャンプ〟と叫んでジャンプしてください。わたくしが地磁気の反発力でアシストします』
「せ、せくしー……言わないとダメ?」
『ダメです。サーシャさんの魔力だけでは、わたくしの力を発動するには足りませんから。思春期の少女の羞恥心が必要なのです』
確かにそういう魔法具だった。しかたない、とサーシャは覚悟を決める。
「セクシー・ジャンプ!」
恥じらいながらそう叫び、ジャンプするサーシャ。
体はふわふわと浮き上がる。
「飛んだ!?」「ホウキもなしで!?」「すごい!」
両陣営から歓声があがる。
だが浮かぶだけでは意味がない。相手の旗を倒さないと、勝利にはならないのだ。
『では右手を突き出して〝セクシー・エレクトロマグネティック・ウェイブス〟と叫んでください』
どうしても頭に〝セクシー〟の文字がつく。それは羞恥心を魔力源にするため、不可避らしい。
「セクシー・エレクトロマグネティック・ウェイブス!」
そう叫ぶや否や、すさまじい電磁波の嵐が吹き荒れる。
狙うはBクラスの旗。
磁力に引っ張られたBクラスの旗は、サーシャの方に一気に傾く。
「みんな、旗を守って!」「あんな恥ずかしい体操着は嫌~!」
Bクラスの生徒たちは悲鳴をあげながら、必死で倒れそうな旗を支える。向こうもブルマが嫌で必死らしい。
「サーシャ、がんばれ!」「ファイト」
後ろから響くAクラスの声援。
クラスメイトの声に答えたい。だがサーシャはすでに限界だった。空を飛ぶために力を使うため、旗を引き寄せる方に力を集中できないのだ。そうこうしているうちに、時間だけが経過していく。
「これって、私が飛ぶ意味あったの?」
『もちろん意味はありますよ。みんなサーシャさんに注目しています。もちろんノートンさんも』
イエローストーンの言葉に、サーシャは観客席を振り向く。
いつの間にか観客席には多くの学校関係者が集まっており、その視線はサーシャに注がれていた。もちろんノートンの視線もだ。
「こんな格好で、はずかしい、いやー!」
サーシャの羞恥心は頂点に達し、頬が火の様に熱くなる。
それこそイエローストーンの狙いだったようだ。
『羞恥心マックス、ではいただきまぁす!!』
充足された乙女の羞恥心を糧に、イエローストーンからまばゆいばかりの光が放たれる。発揮された圧倒的な電磁力に、周囲の鉄粒が集結し、空中で巨大な黒い帯となる。
磁力を帯びた黒い帯は、まるで悪魔の手の様に伸び、Bクラスが死守していた旗を力づくで強奪してしまった。
「か、勝った……」
サーシャはそのまま力を失い、ゆっくりと場外に落ちる。
「勝ったあああ」
「やったあ」
Aクラスの生徒たちが場外に飛び出し、落ちてくるサーシャを受け取る。そのままサーシャを胴上げし、喜びを分かち合う。
「負けちゃった……」
「ブルマは嫌……」
逆にショックを受け、意気消沈するBクラスの生徒達。こっちはまるでお通夜状態だ。
「──皆さん静粛に、私からお話があります」
サーシャの胴上げを続けるAクラスの生徒達に、ポロン先生が歩み寄ってきた。
「Aクラスの体操着は担任である私の責任で変更します。その代わり、今回の試合の
勝利報酬からは取り下げてください」
ポロン先生が言うには、Aクラスのブルマは変更するけど、Bクラスに押し付けるのはやめてほしいとの事だった。
「いいよ」
「了解です」
「わかりました」
快く返事するAクラスの生徒達。
これにはBクラスの生徒も嬉しそうに、目を輝かしている。
「皆さんがそんなブルマが嫌だったことに気づかずに、ごめんなさい」
ポロン先生はAクラスの生徒達に頭を下げる。
「でも信じてください。先生の子供のころは、ブルマは女子が憧れる、かっこいい体
操着だったんです。決して、皆さんに意地悪していたわけではないんです」
よほど思い詰めていたのだろう。ポロン先生は心底申し訳なさそうな顔をしている。
「了解で~す」
「先生大好き!」
その心情を察したのか、Aクラスの生徒たちは明るくポロン先生の謝罪を受け入れる。その反応に、ポロン先生の表情に光が差したように、明るいものとなる。
「じゃあどんな体操着がいいか、学級会で決めましょう」
「さんせー」
「アタシ、スパッツがいい」
「え~、普通ショートパンツでしょ」
「じゃ、ジャージ……」
シャル体操着を学級会で決めようというシャルの提案を、生徒たちは喝采で受け入れる。誰一人先生を責める生徒はおらず、早くも新しい体操着の話題でもちきりだ。
いいクラスだと、サーシャは思った。
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