チサの推測

「コウキを見つけたミサは小躍りして喜んだのじゃないのかな。自分を不幸から救い出して幸せにしてくれるし、そんなコウキを幸せに出来るのは自分しかいないから」


 あのぉ、ミサしかボクを幸せに出来ない能力はチートも度が過ぎて害しかないぞ。


「だからミサはコウキのためにも渾身の愛を傾けたのよ」


 なんだそれ。表情を見せたってやつか。


「あの手の能力の決まりごとに無暗に他人に表情を見せないはありそうじゃない」


 いかにもありそうだけど、


「だからコウキに見せたのは特別の意味があったのよ。だって見せられたコウキは一撃でメロメロになってるじゃない」


 結果としてはそうなった。だったらフリチンをあれだけさせたのは、


「そんなもの決まってるじゃない。あれはミサが見たかったからよ。考えてもみなさいよ。ミサならあんな術を使わなくても救えたはずよ。術の効果も大きかったのはあるとは思うけど、あれはミサからの愛の告白だったのよ」


 難解すぎるだろうが。そんなもの東大入試レベルどころか、ポアンカレ予想とかフェルマーの最終定理の証明クラスだぞ。


「だって見てたのはミサだけでしょ。あれはね、見たからには必ず受け入れるの意思表示以外に取りようがないじゃないの」


 そう受け取る方が難しすぎるだろうが。だってだぞ、自分が愛する男のモノの成長ぶりを何年も何年も観察し続け、それがミサに反応するのまで確認してるのだぞ。


「ミサは嬉しかったんじゃないのかな。自分にあれだけ反応するだけでなく、雄々しく逞しく成長してるのだもの」


 雄々しく逞しくって?


「あら、言わなかったっけ。コウキのは雄々しくて逞しいし、チサをあれだけ夢中にさせてるじゃない」


 男を知り過ぎているチサが言うと恐ろしいほどの説得力があるな。それでもだぞ、見た目で大きさとかはわかっても、それがどれだけの威力と言うか、効果があるかはいくらチサでもわからないだろうが。


「まあね。女が男に喜ぶのは大きさだけじゃないのはコウキの言う通りよ。究極的には、二人のモロモロすべてを合わせた相性になるよ」


 だろ、だろ。チサはボクに満足したけど、元嫁はそうでなかったもの。だからミサだって実際に結ばれないとわかるはずが、


「普通はね。でもそれさえミサは見えたはず」


 あのなぁ。ミサはボクと頑張った結果まで見てたと言うのかよ。そんなもの誰が見たいと・・・


「女なら見たいはずよ。ヴァージンだってああなるのが夢よ。童貞だって女をヒイヒイ言わせるのを夢見るでしょ」


 そこまでモロに言うか。本音と言えば本音ではあるけど、ミサはボクの竿振りを見ながらそんな事を考えるどころか、その結果まで見てたなんて。それでもだ。何度も言うけど、まだ高校生だし処女だぞ。


 いくら結婚相手にする気でも、自分を見て反応してる男を見て喜ぶってあり得るか。それもだぞ、それが自分に入ってくるのを想像して満足する女なんて・・・ウルトラ変人のミサならあり得るか。


「やっぱり高校の時は無理だったで良いと思う。チサだってコウキを彼氏にする気は起りようがなかったし、コウキに至ってはミサしか見てなかったじゃない」


 そ、そうだったよな。


「ミサがチサに施した術は、高校の時にチサに希望の救いがあることを示し、それがコウキだと教える事だったはず」


 じゃあ、あの時にチサがボクを選んでたら、


「それがあり得ないのはミサも良く知っていたはずよ。あれはチサがコウキを選ばなかった後悔をいつの日か引き起こすための布石みたいな術だったのよ」


 ならば、


「チサのあの運命も避けられないものだってこと」


 あれはいくらなんでも酷過ぎるだろうが。


「酷過ぎただけじゃなく、あのままで終わる運命でもあったのよ。そこまでミサは見えてた。だけどね、そこまで堕ちてやっとコウキに救われる女になれるのもミサには見えたはず」


 あのな。そこまで遠大な術をミサがチサを救い出すために施したって言うつもりか。そりゃ、ミサの術の底が知れないのはわかるとしても、いくら何でもだろうが。


「ミサでもそこまでしないと救われないのがチサだった」


 それにしてもチサが救われるまでが余りに辛くて長すぎる。どれだけの日々をチサが過ごす羽目になってしまったことか。


「それぐらいチサに背負わされた運命は重かったのよ。だからこそミサはそこに最後のチャンスを見たはずなんだ」


 そう言うけど、


「あそこまでになれば救えるのはコウキしかいなくなる。そのコウキがチサを救うには不幸な女だと心の底から思うのが能力発動のトリガーじゃない。コウキはそうなってくれたし、チサも最後の条件であるコウキを愛するようになってるじゃない」


 結果としてそうも見れなくもないけど、


「そうしか見れないじゃないの。こんなものはミサしか出来ないよ」


 チサの推測は起こった事実を説明するには合理的だし、論理的なのは認める。チサがそう考え、そう納得するなら、それはそれで良いとは思う。でもな、それはあくまでもチサが知ってる範囲に過ぎないよ。あの頃に本当は何が起こっていたかなんて誰も知らないもの。

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