取材する彼女

坂中祐介

第1話

あけぼの新聞の女性記者丸の内ミサキは、もう30代になっていた。

 そして、ここのあけぼの新聞の記者になって、もう10年は経過していた。

 彼女は、学生時代、武蔵大学文学部国文学科で、夏目漱石の研究をして、そのまま、出版社へ行こうと考えていたのだが、武蔵大学の教授から「丸の内は、ここのあけぼの新聞の記者が、向いている」と何故か言われて、そのまま就職をした。

 もう、時代は、2024年4月になっている。

 ミサキは、2024年で、30歳になった。

 大学を卒業したのは、2017年だった。

 そして、今日も、京急横浜駅から、降りて、あけぼの新聞のビルへ行こうとすると、スーツ姿の若い新入社員が、いて、眩かった。

 ああ、自分も、あんな初々しい時期があったと気持ちが凹んだ。

 私は、もう若くない。

 そう感じていた。

 あけぼの新聞に入社して、もう7年が経過した。

 最近では、あけぼの新聞も、ペーパーレスが、進んで、むしろ、Web媒体になっている。紙の新聞なんて、年配層が読むものになってきているのだが、ミサキは、少し、寂しかった。スマホを手放せないのは、ミサキも、同じだが、みんなが、みんな、スマホの電子書籍だと仕事をしたやりがいがないようにどこか感じていた。

 ミサキは、それでも、女優の有村架純さんに似ているね、とか言われたこともあるが、年々、若い女子が、来たら、さすがに、自分の弱くなっているところを見るのも、怖くなってきた。そして、30歳になると、あれだけ、学校の成績が悪かった男性社員が、上司になっている。

 本当は、武蔵大学の方が、相模ひだまり大学とか武蔵都市大学よりも優秀なのに、相模ひだまり大学や武蔵都市大学の卒業生が、給料もよく、横浜市役所の市長の記者会見や東京都知事の記者クラブへ行くのは、ミサキは、許せなかった。

 今日の取材は、小説家の高村イッサクという40代後半の小説家だった。

 念のため、ミサキは、高村イッサクのWikipediaを調べた。

 …

 高村イッサクーWikipedia

 生年月日 1975年10月1日

 出身地 東京都東区青戸

 学歴 相模ひだまり大学文学部

 職歴 東相模市役所文化課勤務

 入選歴 東相模市文学賞「二階堂法師を目指せ文学賞」

 現在は、東相模市の地方新聞で、小説を連載。

 趣味 水泳 スキー 読書 ガーデニング

 好きな女優は、有村架純。

 好きな音楽 いきものがかり

 …

 今日は、高村イッサクが、あけぼの新聞にやってくる日だった。

 そして、ミサキは、懸命に、メークをして、スタイルもばっちりにした。

「丸の内さん」

「はい」

「高村イッサクさんが、来たよ」

「はい」

 そして、ミサキは、取材の部屋に向かった。

 そのまま、ミサキは、イッサクに会った。

 そして、動画の撮影許可と、写真を撮った。

 音声も録画した。

 …

「初めまして、高村イッサクさん。私、あけぼの新聞の丸の内ミサキです」

「ええ、丸の内ミサキさん、私が、高村イッサクです」

 と言った。

 高村イッサクは、思ったより男前の顔をしていた。そして、少しだけ、白髪があった。

 眼鏡もかけていた。

「丸の内ミサキさんは、私の本を読んだことはありますか?」

「はい、あります。<中山道膝栗毛>と<吾輩は鳥である>を読みました」

「面白かったですか?」

「はい、どちらも、楽しかったと思います」

「で、早速ですが」

「はい」

「どうして、高村イッサクさんは、小説家になろうと思ったのですか?」

「僕はね」

「はい」

「自己顕示欲が、強かったんです」

「へぇ」

「分かりますか?」

「いえ、分からないです」

「どんな子供だったか、想像つく?」

「すみません、勉強不足で、分からなくて」

「僕はね、子供の頃、東京都東区の青戸に住んでいたのね」

「はい」

「それで、子供だから、想像だけは、すごくて」

「どんな想像ですか?」

「例えば、僕の住んでいる東京都東区の青戸から東京湾の海底トンネルを作って、千葉の南房総市まで電車が通らないか、とか、新しい食べ物を作りたいとか、思って、ポテトチップスに胡椒を振ったりして」

「へぇ」

「でも、僕のお母さんは、心配もしていたと思う。だって、近所の子供は、みんな、ジャイアンツの帽子をかぶって、野球をしているのに、イッサクは、何を考えているのかと不安になったようです」

「友達が、いなかったのですか?」

「そうね、いなかった」

「他にどんなことをしていましたか?」

近所に青戸山公園があって、そこの小さな丘を掘って、段々畑にして、<これから、ここにミサイル基地を作る>なんて言ったら、みんなに、馬鹿にされましたね」

「そうだったんですね」

「だから、僕は、変わった子供だったと思う」

「でも、ユーモアあふれる子供だったんですね」

「最初は、僕のお母さんは、心配をして、東京の東区青戸保健所へ行って、保健師さんが、<イッサク君は、きっと面白い子供になる>と言って、それで、良くなった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る