第4話 借り物の危うさ
「シルフを呼べたな」
アーデルハイトがシルフの召喚を確認した後にガラス戸から一本の試験管を取り出す。
『うわ!くっさ!アンタ何持ってきてんのよ!それ水の精に殺されても文句言えないわよ!』
試験管の中には赤と緑が混ざった色をした腐った水が入っていた。
その水を見てシルフは眉を
「さっさとやろうか」
アーデルハイトがイグサの前の机にある試験管立てに腐った水の入った試験管を置く。
「これを綺麗にすればいいの?」
イグサがアーデルハイトの方に首を傾げる。
「そうだ、自然界において風は浄化の象徴でもある。そこのシルフを使ってこの水を真水に変えてみろ」
ぽんぽんとアーデルハイトがイグサの肩を叩く。
『私のことを道具扱いとは上等ね、忌子。まぁいいわ私の呼び主はこの人
なんだから』
シルフがイグサの髪を撫でてその肩の上に乗る。
『さっさとやりましょうイグサ様』
「う、うん。シルフ、この水を綺麗にしてくれる?」
『分かったわ、貴方の言うことなら何なりと』
イグサがシルフに命じるとシルフの小さな掌にわずかな微風の球ができるとシルフが球にそっと息を吹きかけ、球はゆっくりと試験管に近づいて試験管の中が渦巻き始め、渦が巻くごとに試験管の中の水の透明度が上がってゆき、水の異臭も消えてゆく。
「ほぉ、いい手際だ。もう止めていいぞ」
アーデルハイトが感心して試験管に近づき、試験管を取り出してその水を口に含んで作業の出来に満足がいった顔をしてアーデルハイトがイグサの方を見るとイグサの意識は無くなっており、後方に倒れかけていたところをアーデルハイトがすぐに抱きかかえる。
「おっと、なんのつもりだシルフ」
『あら、あらあら、私が裏切ったみたいな顔をしないでよ。私たちが約束を潔く守ると思った?忌子』
シルフの口元は先程とは打って変わって嘲笑と愉悦に歪められていた。
「イタズラも度がすぎるぞ」
アーデルハイトがイグサをソファに横に寝させた瞬間にその手に風の刃が握られておりその刃がシルフに向けて放たれる。
その刃をシルフは指先を少し動かすだけで消し飛ばす。
『物騒ね忌子。たかだかイタズラじゃない』
シルフは反省の色もなくアーデルハイトを睨みつける。
「それが度が過ぎていると言っている」
『かっ?!』
アーデルハイトの口から一段と低い声がするとシルフの背中側から鉄製のナイフが突き刺さった。
『ア ンタ、ふざけんじゃな いわ』
ナイフは床の木材から生えた枝が巻き付いてシルフの体を貫通させていた。
「その言葉はこちらのセリフだ」
アーデルハイトの言葉と同時にナイフが捻られてシルフは一瞬苦痛の声を漏らして消え去る。
「これだから若い精霊には手を焼く」
アーデルハイトが人差し指を机に向けると枝がナイフを机に置いて床に吸い込まれるようにして消える。
「大丈夫か?」
アーデルハイトがイグサに声をかけるとイグサは瞬きを何回かして目を覚す。
「アーデルおばさん?」
アーデルハイトはイグサの弱々しい言葉に安心したような顔をしてその頭をそっと撫でる。
「あの妖精は退治しといたから安心しろ」
「そっか、よかった」
イグサも安心したように笑顔を浮かべる。
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