第30話 怠惰で、ただれた日々

 そいつらは、ただゴロゴロとだらけ、むさぼり、絡み合う。


 だが、発せられる言葉は……

「あー幸せ。こんな生活ができるようになるなんて……」

 言ったのは小雪だが、他の二人も賛同をしている。


 思い悩み、地獄のようだった日々。


 そこから救い出され、今砂浜に寝転がり怠惰な生活を送っている。


 直樹は今、磯を這い回っている。

「他にも、パラグライダーとか色々できますからね」

 今朝、チェックと、物資の補給に来ていたスタッフが言っていた。


 この島には、朝と夜しか人が来ない。


 貸し切りリゾート。


 沖縄のように青い海というわけではないが、少し遠くに島影が見えるのが安心できる。


 直樹は暇つぶしを兼ねて、貝の採取や釣りをしていたが、いそいそとその直樹の手伝いをする、十六夜。


 読書を堪能している、瑠璃。


 そして、パイプベッドの耐荷重をチェックしているような小雪。

「このゼリーも美味しいし、タルトも絶品よ。食べないの?」

 そう聞かれて、瑠璃はちらっとだけ、小雪の方を見る。


「小雪ちゃん。またトドになっているわよ」

「ト…… ひどいわね。せめてアザラシとか。ほら、かわいい。それに、水に浮くし……」

 言い訳を、必死で考えているようだが、自分自身でもフォローが出来ない。

 せめて冬ならば、暖かいからとか言い訳が出来るのに。

 今はなぜか、冷房が効いていても、汗が滲む。


「直樹さんに、暑いって蹴り出される前に、何とかしないとまずいんじゃない」

「あとで、トレーニングルームを使うわよ」

「うーん? 一人で帰るの?」

 そう聞くと、小雪は思い出す。此処は家ではない……


「サ、サウナがあるわよ」

「あっそう、死なないようにね」

 そう、昨今無理をして長時間サウナに入り、死亡する事故も増えている。


 やり過ぎは良くない。


「わー。すごーい」

 岩場の方から、十六夜の声が聞こえる。

 最初のおどおど感が消え、随分慣れたようだ。

 否定され続けた人生。

 そこからの変化。


 潮だまりに、エビがいたようだ。イソスジエビだろう。

 小型の小さなエビだが。食べられないことはない。


「そうだ、そこの小さな巻き貝も、食べられるらしいよ」

 直樹が指さすところには、しったかとかニナと呼ばれる、クボガイ。巻き貝が張り付いていた。

 そばには、定番カメノテや少し丸いスガイなどもおり、人が少ない岩場らしく、大漁ではしゃぎ回る。


「異世界転生しても、食料には困らないな」

 などと、二人でふざけあう。


 二十八歳にて、青春を取り戻す直樹。

 高校時代に、こんな生活ができていれば……

 塩水が目にしみる……


 実際は海水温の上昇や潮の流れにより、貝毒を持つことがあるので気を付けようと言われている。

 流通し、市販している物なら、検査済みだそうだ。


 その時、十六夜は……

 こんな所に、食べ物がいっぱいあったなんて、知らなかった。

 子供の頃に知っていれば…… やっぱり勉強って重要ね。

 そんなことを考えていた。


 中学校の時に、用水路にいたアメリカザリガニを捕まえ、泥抜きしているときに母親に見つかり、捨てられたことがある。


 それでも、春にはゼンマイやイタドリ、ノビルを採っていた。


 ある種たくましい彼女。

 小雪より根っこは強い。


 夜、採取したサザエなどと一緒に、小さなスガイやクボガイを食べてみる。

 殻から取り出すのは面倒だが、味は良い。

 直樹はビールのつまみに良いと大満足。


 小雪は、サザエのワタを食べたらしく、変な顔をしている。

 緑っぽいから、メスだったのだろう。

 オスなら、ワタが白く苦みがない。


 そうそう、採った分では当然足りないので、サザエに伊勢エビ、鮭とぶりなどが追加されていた。

 鮭は、ホイル包みにしている。


 皆は、食べ物が魚介なので、最近お気に入りの、発泡タイプの日本酒を飲んでいるようだ。


 軽く日焼けした肌と、少し酔って赤い顔。

 皆がなぜか、色っぽく見える。


 一人、ふがっとか言いながら、食材の食べ比べをしているが、幸せそうだから良いだろう。



 そして夜。

「体が、日焼けして火照るから、プールに行こう」

 そう言って、瑠璃に誘われる。


 淡水のプールがある。


 いきなり、ガウンを脱ぐと何もつけていない。

 月明かりで輝く肢体。

「一人だと怖いから」

 そう言って脱がされ、結局二人でプールに入る。


 確かに、気持ちが良い。

 日焼けと酒せいで、のぼせた頭と火照った体が、覚まされていく。

 向きを変え水中を見ると、百七十センチくらいしかないプールなのに、底には闇が広がり。吸い込まれそうな感じがする。

 いかん。また、警告がやって来る。


 だが、来たのは警告ではなく、ステキな体。

 当然だが、絡み合う。


 そして、プール脇にあるエアベッドへと這い上がる。

 半屋外で月明かりの下。

 妙な背徳感がある。


 そこへ、ためらいもなく、十六夜が混ざってくる。



 彼女は、行為中必ず言う口癖がある。

「幸せ。もっと……」


 瑠璃は眉間に皺を寄せ、没頭をする。タイプ。


 小雪は…… あれ?

 最近、トレーニングの流れで、いきなりやって来て動いて、ぶっ倒れて、起き上がるとまたトレーニングと……

 情緒がないな……


 そんな事を思っていると、瑠璃に睨まれる。

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