転生悪役伯爵のセーブ＆ロードで華麗なるリトライ生活

第0話 12年前の空

「喋るな！」

　俺はそう叫ぶと、抱きしめているシャテナの顔を見た。

　顔は蒼白で口や鼻からは血が出始めている。

「笑うな！」

　苦しいだろうに、口数の多いシャテナを黙らせると今度は笑みを浮かべて来たからだ。

　その状態でよくもまぁ……だ。

「すぐに、すぐに良くなる。俺が全部解決するから！　だから……！」

　抱きしめているシャテナの体温が低くなっていく、空からは雨が降り始め最悪の状況だ。

　馬車は壊れていて、俺が乗ってきた馬もすでに死んだ。

　周りは俺とシャテナ以外は既に息絶えている。

　何が最強の騎士だ。

　何が生涯貴方に尽くすだ。

　この折れた剣で…………俺の唇にシャテナの指が触った。

「シャテナ！」

「ふふ…………そういう所。お願い……があるの……私以外の人と結婚して…………」

　冗談。

　俺が否定も肯定もしないと、シャテナの目は空を向いたまま動かなくなった。