第8話 俺は世界の中心で飛ぶ

 町を素通りし分かれ道に出た、左にいけば鉱山で右にいけば通称チカアの森だ。

 少なからず水源があり自然があふれている所、そのせいか魔物がでるが生活に必要な場所であり森を消す事は出来ない。


 定期的に討伐部隊を出し、町に被害がないようにするのが領主の仕事の一つでもある。


 その入り口で降りると護衛の人間が俺達の周りを無言で警備する。

 確かあっちのほうに崖があったはずだ。



「義娘……エリカと一緒に奥にむかう」



 いつもなら口に出して言う事でもないが、今回は邪魔はされたくない。なので仕方がない。 


「へえ! 護衛班は――」

「不要だ」



 キーファの提案をさえぎる、何か言いたそうであるのが読み取れた。一応は聞いておこう。



「何だ? 森の魔物討伐から日も立っていないだろ?」

「いえ、お気をつけて」




 ふん、思ってもい無いことを、いくぞ。と、声をかけ歩きだす。

 背後からくる義娘のエリカの足取りはかるそうだ。



「怖くないのか?」

「はい、森育ちだったので!」



 ほう、13年間で初めてきいたな。



「動物が好きなんです、それにお腹か減ると木の実とか食べれましたし」

「たしかに、教会でエリカほどの食べっぷりであれば、すぐに破産するだろうな」

「うう……で、ですから感謝しています!」

「食費の事ならきにするな、金はある」

「はぁ……」



 ずいぶん間の抜けた声で返事をされた。

 まったく近頃の娘は金の価値がわからんのか? まぁ俺もそこまで解るわけではないが。

 親から譲り受けた鉱山をそのまま使っているだけだしな。



「あの、お義父さまが嬉しそうでエリカも嬉しいです」

「俺は別に嬉しくもない」



 俺の息が上がってきた所でやっと目的の場所についた。

 崖であり反対側には鉱山が見える景色のいい場所だ。



「すごい…………」

「そうだろう、反対側にある鉱山は俺とお前の物だ。あそこから出た、金や鉄。魔せ……を王都が買い取る。その買い取った金額のうち6割が俺達の物だ」

「……よくわかりませんが、すごいんですね!」



 さて……やるか。



「エリカ。その崖の先、少し頭を出して見ろ花が見えるだろ?」



 エリカは俺の言う事を素直に信じ、崖から身を乗り出す。



「あの花で――」

「ウオオオオオオオオオオオオ、突然の立ち眩みガアアアアア」

「えっ!?」



 俺はエリカを軽く突き飛ばす。

 なんていう名演技だ。

 深呼吸をしてからゆっくりと崖を覗くと、エリカは途中のでっぱりに必死に捕まっている。まぁそうだろう……ここから落ちるとあそこに掴むしかない。



「エリカ! 大丈夫か!?」

「お、お……オージィお義父さま! つ、つきとば――――」

「そんなわけないだろう! 俺は大丈夫か!? と聞いているんだ」

「そう……ですよね? えっと、ギリギリです……」



 作戦は完璧だ。

 思わずに笑いださないか、俺は自分の顔を両手で叩く。

 すぐに手を伸ばすか、これも絶妙な位置で届かない。



「エリカ! そこはもう駄目だ。その……死んでも大丈夫とかだな。あーいや、絶対に生き返る! とかそういう自信はあるか!?」

「な、何を言っているんですか!? エリカは死んだら死にますけどおおお!」



 やはりセーブクリスタルの事は知らない? いや演技かもしれない。俺は13年間騙されて殺されるんだ、俺の義娘であればこれぐらいの演技はするだろう。



「ああ、俺もそう思う。しかし、もう手遅れだ……その死んだ場合ひょっこり生き返ってくれないか?」

「せ。せっかく……エリカの事を見てくれる良い人に……殺される……」

「馬鹿な事を言うな! 俺は理不尽に人を殺した事はない!」



 俺は叫ぶ。

 当たり前だ、失敗をした人間を処刑した事はあっても、何もしてない人間を殺すほど落ちぶれてはいない!



「お義父さん…………た、たすけ……」

「ああ! もちろんだ! …………その絶対に俺でしか助からないんだな?」

「あっあたりま――」

「そ、そうだ! ロープを持っていた。待っていろ」



 身を起して近くの木にロープを撒いた。

 そのロープをひっぱりエリカの側に持っていくも微妙に長さが足りない。突き飛ばし過ぎたか……面倒だ。

 本来であれば俺を殺した義娘なんだ殺しても問題は無いはず、無いはずではあるが……今はまだ何もしてない。


 崖下からエリカの声がよわよわしく聞こえてくる。



「エリカ、短い間でしたけど夕ご飯美味しかったです……」

「ええい!」



 俺はロープの先端を掴み自らも崖に落ちる。エリカの頭の部分に俺の足がある状態になった。



「っ!?」

「驚くのはいいから、さっさと登れ! 何も知ら無いらしいからな」

「ば、ばい!」



 エリカは俺の足を掴み、衣服を掴む。頭に足をのせると崖上に登ったようだ。



「エリカ無事です! お、義父様! 手を引っ張り上げます」



 エリカが手を伸ばしてくるが、女の腕力で男を引き上げるのは無理だ、それを掴んだら二人とも落ちるだろう。少しは頭を使え……と言いたい所だが、それ所ではない。


 俺はロープをしっかりと掴むと崖に足をかける。

 その瞬間体がふわっと軽くなった。



「なっ!?」

「えっ!?」



 俺とエリカが同時に驚き、エリカは必死に手を伸ばしてきた。

 が、先端がちぎれたロープが俺の視界に入り一気に落下した。



 ――

 ――――



 俺は深呼吸をしてから大きく息を吸う。



「落下死はおかしいだろ!!」



 俺は自分の書庫室で机を叩く。

 外を眺めると、今回は夜ではなく日がでている。

 机をトントントントントンと軽くたたくとやっと気分が落ち着いてきた。



「まぁいい。セーブクリスタル……の記憶する部分はわかった。石に少量の血だな」



 しかし、エリカは本当に何も知らないらしいな。

 となると、一番いいのは毎日セーブをする事であるが、万が一取り返しのつかない事になったらどうするべきか。



「ええい! この俺にこんなに悩ませるだなんて、いっその事こんな魔道具なんて知らなければよかったわ!」



 思わず叩き壊したくなるが我慢する。壊した後にどんな反動がくるかわらない。まだまだ調べる事は沢山ある。


 部屋にノックの音が聞こえてきた。



「入れ」



 俺がいうとマーケティが入り、「チカアの森に行く準備が整いました」と聞いた事のある言葉を伝えてくる。

 用件は既に済んだ。



「………………キャンセルする」

「えっ……」



 黙ってマーケティを見ると慌てて頭を下げだす。



「いえ! も、申し訳ありません。直ぐに準備を――」



 俺は窓から外を見ると、エリカがメイドのメイファの手を引っ張っているのが見えた。



「いや。まて……そのまま行く」

「は……はっ」



 別に気まぐれではない、確かにエリカは俺を殺したが。先ほどは崖から飛びおりようとしてまで俺を助けようとした。

 その背後から護衛の人間が必死にエリカにしがみ付いていたのを見えたからだ。その礼ぐらいはしないとな。


 まったく、俺が必死に助けなくてももう少しで護衛が助けにくるなら余計な事をしたな。


 玄関を出て、先ほどのメンバーと合流する。

 俺が馬車にのりエリカが乗り込んだ。

 馬車が数歩動いた所で俺は馬車を止めた。



「止まれ!」



 すぐに周りの馬車も止まりマーケティが走ってくる。



「どうなされましたか! やはりお帰りに……」

「違う。えりかが………………馬車に酔うと危ないからな、袋を用意させる。マーケティ袋を用意させろ、窓は開けとけ新鮮な空気のほうがいいからな、後はエリカ! 遠くをみろ下を向くと訓練された兵でも酔いが出る」

「はっ!」



 どしっと座りなおすとエリカが俺を見ている。



「なんだ。自分は吐かないという自信や文句があるのか?」



 さっきは我慢して乗ったが結構臭かったんだぞ。



「いえ。あのーや、優しいと思いまして…………実は少し緊張しちゃって」

「俺は義娘といえどなれ合うつもりはない」

「…………はい……」



 信じられるのは自分で確認した事だけだ。

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