音無き一撃

ゼラは潜みながら様子を伺う

(夢が溜め始めた、ルナルールスのあの動きからして時間稼ぎ……成程、ならそろそろチャンスかな)

刀を握る

その時を虎視眈々と静寂の中で待つ


魔物は気付く

止めなければ危険だと、異能の力で理解する

だが目の前の防御をどう突破するか悩む

張り巡らされたあれに触れるのは危険だと異能が警告している

その上、先程までとは違い今では拳を通す隙間もない

時間を掛ければ不味いと警告して急かしてくる

ふと足元にある小さな瓦礫を見る

瓦礫、氷の壁に仕込まれ迎撃の武器として扱われていた

その際も危険だと異能が警告していた

軽く握り潰せるような脆弱な物

そこで魔物は考えつく

瓦礫を拾う


ルナルールスはその姿を確認する


「なんか瓦礫を拾ってる」

「瓦礫を? 魔物の世界には投擲って概念ある?」

「投擲?」

「石を投げたりする」

「偶に距離取って攻撃してくる魔物に対して身体強化の異能者が岩をぶん投げる事はあるけど」

「成程」


目の前に厚い氷の壁を展開する


「うん?」

「端的にそれの小さい奴が超高速で飛んでくる」

「……岩なら切れるけど……」

「拳よりも小さい奴」

「その威力は?」

「さぁ? まぁあの力の持ち主なら人体くらいなら貫くと思うけど」

「あんな小さいのに?」


瓦礫が飛んでくる

超高速で、糸の隙間を通り氷の壁に当たり突き刺さる

氷の壁を厚くしなければ貫かれていた程の威力


「ひゅ……」


ルナルールスは夢の後ろに避難する


「私を盾にするな」

「あれは無理、私じゃ防げない!」

「魔物を盾にすれば……いや貫かれるか」


投擲を覚えた魔物は何回も投げて攻撃してくる

糸の隙間を通る為糸の防御は意味をなさない

操っている魔物を盾のように前に出して防御の構えを取らせるが超高速で放たれた瓦礫に貫かれる

氷の壁がどんどん削られていく

(ギリギリか。その後間に合うか)

夢は氷のゴーレムの生成と氷の壁が砕けるのがほぼ同時だと予測する

糸を放って攻撃する

飛んできた瓦礫を切り裂くが魔物には当たらない

何度も放つが全て躱される


「瓦礫を砕く」


しかし、回避行動を取り瓦礫の一部が切り裂かれた事で攻撃の回数が減った

その為氷の壁が破壊されるよりも先にゴーレムが作られる


「よし出来た!」


大きな氷のゴーレムが現れる

高密度の氷で生み出されたゴーレム、氷塊よりも質量があり氷の壁よりも硬い

魔物は氷のゴーレムに瓦礫を投げつける

ゴーレムの手で止める、ダメージは無い


「おぉ、大きい」

「防御用の糸外して」

「はーい」


張り巡らせた糸を回収する

高密度の氷の塊と言え空間に干渉する糸に触れれば切れてしまう

ゴーレムを操作して頭上から拳を叩き込む


「これで行ける?」

「さぁ、それはどうだろう。ただ相当嫌がってたから悪くないとは思う」

「これ無理だったら勝てなくない? 本気なら行ける?」

「これは質量を押し付けるけどあっちは少し違うから……やってみないと分からない」

「本当に異能が分からない……危機察知?」


魔物は拳を構える

異能が危機を伝えている

力を込める、真正面から迎え撃つ

範囲の広い攻撃、決して早くないが避け切り続けるのは難しい

故に迎え撃つ

迫り来る氷の拳のタイミングを伺う

下手に糸を使えば氷を切ってしまう為糸の心配は無い

集中する

最適なタイミングを伺う、更に力を込める


(今)

絶好の機会、魔物は氷の手に集中している

他に意識を割いていない、異能に任せている

だがその異能もまた氷の手の危険性の警告をし続けている

故に気付かない

音を立てず気配も無く魔物の背後へ素早く移動した己を殺しうる存在に

魔物の首へ刀を振るう

その攻撃は異能が危機とは思えない程何もこもっていない

殺意も害意も無い

殺す気が無いように思える程に、斬る気がないように思える程に

覚悟も意思も何も無い

冷たさすら感じる程に

静かに刃は振るわれた


氷の手が止まる

魔物に当たる前に夢が停止させる

ルナルールスは不思議がる


「なんで止めたの?」

「もう終わったから」

「終わった?」

「あれ」


夢が指を差す

ルナルールスはその方向、魔物が居た場所を見る

そして首を切り落とされた魔物を見つける


「うそ〜」


その後ろで刀をしまっているゼラも確認する


「倒せたの?」

「首は硬くなかったって事かな」

「うーん……それだけで?」


先程まで罠も看破していた魔物、その魔物が為す術なくやられた


「意識が完全に氷のゴーレムに向いているタイミングだったからだと思う」

「…………」


ルナルールスは違和感を感じる

真髄に至ってもいない人物がたった一撃で自分達が苦戦した魔物を切り伏せた

あの刀も異能で作られた物、つまり飛ばしている剣と同じ物

剣の攻撃では魔物はビクともしなかった


「まぁ近接の方が強いからね。それよりあの魔物は主クラスとして考えればいいよね?」

「間違いないと思うよ〜」


(結局なんの異能だったんだろうか)

ゼラは2人と合流する


「ナイスです」

「ゴーレムで引き付けてくれたから行けた」

「よく切れたね〜」

「首は硬くなかったから良かった」

「想定外ではありましたが奪還作戦で間違いなく邪魔になる魔物を減らせましたし最後の写真を取って終わらせましょう」

「そうだね」

「疲れた〜」

「見えなかったけど上手く糸を使って防御してたね」

「防御は隙間が大きいのが厄介かなぁ。糸はそんな多く出せないんだよね」

「隙間を減らせば最強の盾になる」


空間に干渉する糸、空間切断出来るレイの異能をも防ぐ事が出来る

それだけではなく少し振動させれば攻撃した物を切り裂ける

攻防一体

(絶対戦いたくない。デタラメ過ぎる)


「だねぇ。まぁ君とは戦いたくないけど」

「何故?」


どう考えてもルナルールスの方が強い


「あの一撃私も反応出来ないし何処にいるか分からなかったし〜」


魔物を倒した後、潜むのを辞めるまで姿を確認出来ていなかった

戦闘中に潜まれるもしくは最初から暗殺目的でかかられたらどんなに強い異能でも仕留められる

ルナルールスはその可能性を考えて戦いたくないと言う


「隠れるのは得意だから」

「得意とかそのレベルじゃない気がする」

「まぁ慣れかな」

「ふーん、君魔物じゃないよね?」

「残念ながら人間だよ」


夢が周囲の写真を撮り終える


「偵察作戦終了」

「それじゃ帰ろう」

「ならダンジョン戻る〜」

「ルナ」

「何〜?」

「手伝ってくれてありがとう」

「凄く助かった」


ルナルールスはお礼を言われ驚く

笑う


「協力者だからねぇ〜また他にもあったら私を頼るといいよ」


そう言ってダンジョンへ帰っていく


「私達も帰りましょう」

「そうだね」

「疲れましたぁ」

「僕も集中したから疲れた」


カメラを回収して城壁へ向かう

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