第8話 自死して良い人間は居やしない

天水が俺の部屋を掃除する事になった。

俺は改めて道具などを用意している天水を見る。

それから天水は「ふむ」と言いながら俺に顔を向けてくる。

「一先ずはゴミの分別などから始めましょうか」と言いながら、だ。


「...ああ。リサイクルとかだな」

「それぐらいは分かるんですね」

「馬鹿にしているな?お前。...分別はしているぞ。とにかく」

「すいません。ゴミをガサツに捨てる方だと誤解していました。偏見ですね」

「まあ偏見だな。...だけどまあそうだよな。俺の様子を見るなり」

「はい。...すいませんでした。近所のリサイクルボックスにでも持って行っているんですか?」

「そうだな」


俺はリサイクルする品を持って来る。

その事に天水は笑みを浮かべる。

それから「偉いです」と向いてくる。

俺はその姿を見てから頭を掻いた。


「...でも...偉いと思います。本当に」

「...ああ。有難うな」


そして天水は柔和になりながらそのまま作業をする。

俺はリサイクル品をエレベーターで降りて回収ボックスに入れてから戻って来る。

それから天水を手伝った。

途中から邪魔になりそうだったので俺は別の事をした。


「なあ。天水」

「はい」

「...お前の名前って綺麗だよな」

「愛花がですか?...これはお姉ちゃんが付けてくれました」

「?...お前に姉が居るのか?」

「私の家族は姉だけです」


そう言いながらかなり深刻な顔をする天水。

殺気を纏っており...俺に静かな感じで笑みを浮かべる。

まるで喜んでない笑みだった。

俺はその事に(地雷を踏みぬいたか?)という感じで困惑する。


「すまない。そういうつもりじゃなかった」

「あ...私こそすいません。そういうつもりじゃ...無かったです」

「...ただお前の名前がな。天水愛花っていうのは...良い名前だなって思ってな」

「...私の名前の事を褒めてくれたのはお姉ちゃん以来です」

「お前はクラスメイトと関りは持たないのか」

「私がそういう関係を持ったところで。...絶望しか生みません」

「...そうか」


天水はそう言いながら冷徹な笑みを浮かべる。

こういう所が困ったもんだよな。

そう考えながら天水を見る。

天水は作業に戻った。

そして天水は雑巾を絞ってからバケツに添える。


「...一応、作業は終わりましたのでお夕食を作りますね」

「立て続けだが大丈夫なのか」

「...はい。少なくとも美海よりかは遥かに」

「渋谷...とはいつから知り合いなんだ」

「渋谷美海は...幼い頃から知り合いです」

「そうなんだな」

「病気が分かった時も一緒でした」


俺はその言葉に渋谷を思い出す。

そうしていると天水が「好きな人が居るみたいです。彼女には。それだけで私、幸せです」と答える。

そんな母親の様な表情に何とも言えなくなる。


「渋谷美海を大切にしているんだな」

「それはそうでしょう。...私の最後に残された家族ですから」

「最後に残された家族?」

「...お姉ちゃんは行方が分かりません」

「...」


これはいけない。

また地雷を踏みぬいたか?

そう思いながら俺は慌てていると天水は「お姉ちゃんは...お父さんに連れて行かれたんです。...自分の会社の経営者とか社長?にする為に」と苦笑する。

俺は「...」となりながら天水を見る。


「天水も大変だな」

「大変じゃないです。...大変なのは美海。そしてお姉ちゃんです」

「...お前も大変だよ。...天水」

「そう言ってくれるのは有難いですが...私はいつ死んでも良い存在です」

「...そんな訳あるか」


俺はそう言いながら天水を見る。

天水は「?」を浮かべて真剣な顔をでこっちを見ていた。

その顔に頬を掻きながら「何つーか。この世の中、自死。死ぬ為に生まれた人間は居ないと思う」と答える。

すると天水は「!」となった。


「...お姉ちゃん以来です。そういう事を言ってくれたのは」

「だからまあお前も死んで良い人間じゃない。お前とは夕食だけの関係かもしれないけど。だけど死んでほしくはない」

「...何故ですか?」

「何故かは分からない。何故お前に生きてほしいのかは分からないけど。こうした夕食だけの関係になったんだ。そう願いたくなる」

「...本当に不思議な人ですね。貴方は」

「そうかな」


そして天水は「そうです」と答えながら少しだけ厳しい顔を解いた。

それから俺に柔和になる。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべた。

すると天水は柔和になった顔を解してからそのままゆっくりと立ち上がる。


「...じゃあお夕食の準備をしますね」

「...天水」

「はい?」

「...キモかったらゴメンな。何か知らないけど」

「そんな事ちっとも思ってません。...お優しい人だなって思っただけです」


それから天水は柔和な顔をまたしてから台所に行く。

俺はその姿を見ながら目線を窓の外に向ける。

そしてソファに腰掛けた。

クソッタレ。

天水が何だか可愛い...。

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