第12話 再訪
~第11話までのあらすじ~
響は河川敷で出会ったオトナである
そうして
空を飛べば早いものだ。そこまでスピードを出さずとも、1時間ほどで着いた...
はずもなく、後ろから付いてくる永久野さんが何度墜落したことか。ただ、伊奈瀬が低空で飛行してくれているうえ、永久野の受け身の上手さもあり、怪我はなく飛行を再開できていた。時間が経つにつれ永久野さんの飛行スキルも向上し、やがて墜落することもなくなっていった。休憩もはさみながら進み、ゴールが見えてきたのは、スタートしてから3時間近くたったあとだった。
しかし、目的地が見えてきたところで王那の言葉が頭によぎり、響は不安をいだいた。オーナーに関するすべてのことを、人に話してはいけない。これはつまり、教えてはいけないということなのか。とすると、自然石のある場所に案内してしまうこと自体が
そこで響は考えた。クレーターまでは一緒に行って、しょんべんしてくる!などと言いながら二本杉まで1人でいく。そうすれば、ごく自然な流れであの石まで1人でたどり着ける。よし。そうしよう。
「伊奈瀬さん!木が生えていないあのあたりで下ろしてください!永久野さんも...」
遅かった。
横からビュン!と響たちを越していった永久野は、高くそびえる二本杉めがけて飛んでいった。
そして3人が地上に足を付けた場所は二本杉の下、つまり自然石の正面だった。響はミスった。
(ア、オワッタ...タノムカラ石ヲミナイデ...)
響の願いは届かなかった。それを最初に見つけたのは永久野だ。
「なに、これ...」
当然のことながら、伊奈瀬にも見つかった。
「Half of the World...Yanu Sugino...Hibiki Kunimi...響 国見!?」
特に何も起こらない。良かった。存在しているものを見せるだけなら、禁忌ではないようだ。
そして、響の予想は的中した。王那に自分が『オーナー』であることを告げられ、きっかけと言われてピンときた、「世界の半分」と記された自然石。そこにはこのように書かれていた。
Half of the World
—————————
Yanu Sugino
—————————
Hibiki Kunimi
前回見たときは、前オーナーの名前と思われるYanu Suginoのみであった。しかし、今ではHibiki Kunimi、「国見響」が追加された。石に触れたあの瞬間、やはり響はオーナーになったのだ。
「ちょっ、なんであんたの名前がここに書いてあんのよ」
「世界の半分ってどういう意味なの!?ひーくん!」
響はまた、しらばっくれた。
「ワカリマセン...」
「そんなはずないでしょ!」
「そんなはずないよ!」
2人から浴びせられた言葉は重なっていた。
「ふ~ん、どうしても教える気がないなら、キミの立場を分からせてあげるけど~?」
響の足はまた宙に浮いた。
「ちょっと伊奈瀬ちゃん!ひーくんをいじめないで!」
永久野が伊奈瀬を止めようとしてくれたが、力は強まる一方だった。
響は苦しくなってきた。ところが、持ち上げられたことにより目線が高くなったおかげで、ふと視界のすみに入ってきたものがある。ぽつんと設置されたインターホンだ。
「あ、あれ!」
響が指さして叫ぶと、2人の目線はそちらに向いた。
「...インターホン?」
永久野さんがそうつぶやいたと同時に、伊奈瀬は俯瞰の手を解除した。響は空中から地面に落ち、「うわっ!」と尻もちをついた。
「なんで建物が1つもないこんな山にインターホンなんかあんのよ」
伊奈瀬の言葉に響もうなずいた。3日前にここに来たときは、そんなものはなかった。
「...押してみても、いいですかね?」
響の提案に反対する人はいなかった。
響はゆっくりとインターホンを押した。
ピンポーン。
呼び出し音が鳴り、残ったのは静寂と、かすかな鳥の鳴き声だけであった。応答はなし。
「誰も出ないね」
「そうね。だーれも。これは響も知らないの?」
沈黙を破った永久野さんに、伊奈瀬が続く。
「これは...ほんとにわかりません」
「そう。じゃあ、そろそろ行こっか」
響は胸をなでおろした。伊奈瀬はとりあえずは許してくれたようだ。
「そうですね」
と響が答えたとき、お菓子の袋を開けるときのような物音がインターホンから聞こえたような気がするが、返事もなかったし気のせいだろう。響は2人とともに河川敷への帰路についた。
小ネタ)
飛行板(フライングボード)や俯瞰の手は、糸葉以外のオトナが使うことができる。糸葉は4次元から来たわけではないので、その最適化の対象にはならなかった。
インターホンから聞こえたようなお菓子の袋を開けるときの音。
お菓子と言えば...あの人?
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