第12話 再訪

~第11話までのあらすじ~

 響は河川敷で出会ったオトナである伊奈瀬いなせ永久野とわのとともに、飛行板フライングボードに乗って自然石のある場所を目指す。



 そうして響一行ひびきいっこうは今、自然石の場所へ向かって空を飛んでいる。響は飛行板フライングボードの操縦が上手な伊奈瀬の太ももにがっちりとつかまり、永久野さんはそれに続いてくる。太ももの件は伊奈瀬に「...ちゃんとつかまってなさい」と言われたのだから仕方がない。飛行板フライングボードはどうやら立った状態で体重移動をして操縦するらしく、振り落とされないように頑張らなければ。

 

 空を飛べば早いものだ。そこまでスピードを出さずとも、1時間ほどで着いた...

はずもなく、後ろから付いてくる永久野さんが何度墜落したことか。ただ、伊奈瀬が低空で飛行してくれているうえ、永久野の受け身の上手さもあり、怪我はなく飛行を再開できていた。時間が経つにつれ永久野さんの飛行スキルも向上し、やがて墜落することもなくなっていった。休憩もはさみながら進み、ゴールが見えてきたのは、スタートしてから3時間近くたったあとだった。下道したみちでバイクで行くと変わらないじゃないか。ただいずれにせよ、3時間幸せな気持ちでいられたことに変わりはない。伊奈瀬(の太もも)に感謝だ。


 しかし、目的地が見えてきたところで王那の言葉が頭によぎり、響は不安をいだいた。オーナーに関するすべてのことを、人に話してはいけない。これはつまり、教えてはいけないということなのか。とすると、自然石のある場所に案内してしまうこと自体が禁忌きんきの可能性もある。


 そこで響は考えた。クレーターまでは一緒に行って、しょんべんしてくる!などと言いながら二本杉まで1人でいく。そうすれば、ごく自然な流れであの石まで1人でたどり着ける。よし。そうしよう。

「伊奈瀬さん!木が生えていないあのあたりで下ろしてください!永久野さんも...」


遅かった。

横からビュン!と響たちを越していった永久野は、高くそびえる二本杉めがけて飛んでいった。


そして3人が地上に足を付けた場所は二本杉の下、つまり自然石の正面だった。響はミスった。


(ア、オワッタ...タノムカラ石ヲミナイデ...)


響の願いは届かなかった。それを最初に見つけたのは永久野だ。

「なに、これ...」

当然のことながら、伊奈瀬にも見つかった。

「Half of the World...Yanu Sugino...Hibiki Kunimi...響 国見!?」


特に何も起こらない。良かった。存在しているものを見せるだけなら、禁忌ではないようだ。


そして、響の予想は的中した。王那に自分が『オーナー』であることを告げられ、きっかけと言われてピンときた、「世界の半分」と記された自然石。そこにはこのように書かれていた。


                Half of the World


                —————————

                 Yanu Sugino

                —————————

                 Hibiki Kunimi


前回見たときは、前オーナーの名前と思われるYanu Suginoのみであった。しかし、今ではHibiki Kunimi、「国見響」が追加された。石に触れたあの瞬間、やはり響はオーナーになったのだ。


「ちょっ、なんであんたの名前がここに書いてあんのよ」

「世界の半分ってどういう意味なの!?ひーくん!」

響はまた、しらばっくれた。

「ワカリマセン...」

「そんなはずないでしょ!」

「そんなはずないよ!」

2人から浴びせられた言葉は重なっていた。


「ふ~ん、どうしても教える気がないなら、キミの立場を分からせてあげるけど~?」

響の足はまた宙に浮いた。茶緒ちゃおのときと同じ、俯瞰の手だ。河川敷で2人から聞いた話によると、オトナは全員、3次元の住人に対してなら俯瞰の手を使えるようなのだ。


「ちょっと伊奈瀬ちゃん!ひーくんをいじめないで!」

永久野が伊奈瀬を止めようとしてくれたが、力は強まる一方だった。

 響は苦しくなってきた。ところが、持ち上げられたことにより目線が高くなったおかげで、ふと視界のすみに入ってきたものがある。ぽつんと設置されたインターホンだ。

「あ、あれ!」

響が指さして叫ぶと、2人の目線はそちらに向いた。


「...インターホン?」

永久野さんがそうつぶやいたと同時に、伊奈瀬は俯瞰の手を解除した。響は空中から地面に落ち、「うわっ!」と尻もちをついた。

「なんで建物が1つもないこんな山にインターホンなんかあんのよ」

伊奈瀬の言葉に響もうなずいた。3日前にここに来たときは、そんなものはなかった。


「...押してみても、いいですかね?」

響の提案に反対する人はいなかった。

響はゆっくりとインターホンを押した。

ピンポーン。

呼び出し音が鳴り、残ったのは静寂と、かすかな鳥の鳴き声だけであった。応答はなし。

「誰も出ないね」

「そうね。だーれも。これは響も知らないの?」

沈黙を破った永久野さんに、伊奈瀬が続く。

「これは...ほんとにわかりません」

「そう。じゃあ、そろそろ行こっか」


響は胸をなでおろした。伊奈瀬はとりあえずは許してくれたようだ。

「そうですね」

と響が答えたとき、お菓子の袋を開けるときのような物音がインターホンから聞こえたような気がするが、返事もなかったし気のせいだろう。響は2人とともに河川敷への帰路についた。



小ネタ)

飛行板(フライングボード)や俯瞰の手は、糸葉以外のオトナが使うことができる。糸葉は4次元から来たわけではないので、その最適化の対象にはならなかった。


インターホンから聞こえたようなお菓子の袋を開けるときの音。

お菓子と言えば...あの人?

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