第5話 これでもチート加護じゃないってマジですか。

「ガンマン衣装の時点で薄々勘付いちゃいたが、まさか銃までついてくるとはなあ……」




 手に持ったリボルバーを空にかざす。


うーん、この重み、最高!


今まで散々トイガンを収集して、分解して、触ったオレならわかる。


こいつはよくできたオモチャじゃない。


本物の、銃だ。




「しかしピースメーカーはピースメーカーなんだが、微妙に細部が違うな……」




 『コルト・シングルアクション・アーミー』別名を『ピースメーカー』


今から100年以上前に生産が開始され、今なお人気な銃。


人呼んで『西部を征服した銃』だ。


映画なんかでよく見るリボルバーよりも、さらに最初期の拳銃。


弾倉を横に外さず、撃鉄を半分起こして横のローディングゲートから弾丸を装填する方式だ。




「弾丸は……よっと、外れたな。うーむ……どう見ても通常の45コルト弾じゃねえな」




 ローディングゲートを開け、銃身の下にあるエジェクターロッドを押して弾丸を排出する。


手のひらに落ちてきたそれは、よく知っている通常の弾丸とは全く違うものだった。




「まるで宝石だな……何の物質でできてんだ?」




 手のひらの銃弾は、透けている。


形状は普通の銃弾だが、弾頭も薬莢も全てが半透明なのだ。


透明度はあまり高くはないが、それでも手相くらいは見える。




「予備弾もついてねえし、試し撃ちするリスクの方がでけえな」




 アフターサービスまで充実、なんて言ってたモンコのことだ。


これが限りなく実銃に近いモデルガンだとは考えにくい。


だが、この拳銃に装填されている以外に弾丸はどこにもない。




「とりあえず、お守りとしとこうかね……アレにコイツが通用するとも思えねえし、過信は禁物だ」




 さっきから遠くの空を飛んでいるトカゲもどきを見る。


全長は遠すぎてわからんが、拳銃でどうこうなる存在とはとても思えない。


戦車砲でもいけるかどうかってとこだろうな。




 魔法の『ま』の字もわからないオレにとっちゃ、貴重な遠距離攻撃の手段だが……さすがにこれのみに命を預けるのは無理がある。


この世界の右も左もわからんのだ、用心に越したことはない。




「って言ってるそばから弾が消えてるんだが!?嘘だろオイ!?」




 トカゲもどきから目線を手に戻すと、半透明銃弾は影も形もない。


落としちまったのか!?オレの間抜け!!




「……あるじゃん」




 半泣きになりつつ銃を確認すると、なぜか弾倉には6発の銃弾が装填されていた。


落としたんじゃなくて、『戻った』のか?


はー……さすが異世界、魔法万歳だ。




「とりあえず、川で顔でも洗って身の振り方を考えるか……お?」




 拳銃をホルスターに戻した所で、足元に転がる背嚢に気付いた。


これもまた西部劇でよく見た、肩に背負うタイプだ。


ひょっとしてこれもモンコのサービス品か?


中に何かが入っているように膨らんでいる。




 とりあえず、それを担いで見えている川まで移動することにした。


草むらで確認すると変な異世界虫とか混入しそうだし。






・・☆・・






「なーるほどね、コイツもアフターサービスの一環ってやつかい」




 幅5メートルほどの川に到着し、水面を覗き込んだところで異変に気付いた。




「はー……髪染めたなんて大学以来だぜ。それにカラコンは初体験だ」




 水面に写ったオレの姿は、25年間見慣れたソレではなかった。


髪と眉はくすんだ金髪に。


そして目は、澱んだ青色になっている。


少なくとも綺麗な色ではない。


そこら辺にいそうな一般外人っぽい色だ。




 といっても顔の造り自体は元のままだ。


元々彫が深いと言われることもあった顔だけに、意外と違和感はない。


先祖代々日本人のはずだが、案外遊び人のご先祖様でもいて外人の妾でも囲ってたのかねえ。




「まあいいか、ありがてえ。理由は知らんが黒目黒髪で『ニホンジン』認定されちゃたまらんからな」




 モンコ曰く、先輩連中が色々やらかしたー……だっけか。


この世界、結構異世界人来てるんだな。


その上で嫌われてるって……一体何したんだよ日本人。




 顔を洗って一息つき、河原の石に腰かける。


周囲の見晴らしはいいし、変な臭いもしない。


野生動物はいなさそうだ。


よって、ここで荷物を確認しておこう。


モンコからのプレゼントは、いったいなんだろうか。




「……おお」




 背嚢の口を開くと、まず握り手があった。


いや、これはナイフの柄だろうな。


とりあえず引っ張り出すと、鞘のついた長いナイフ……もはや短刀がぬっと出てきた。




「マチェット、いやマチェーテと呼ぼうか!」




 コレも西部劇にはお馴染み、マチェーテだ。


日本で言う所の鉈のような使われ方をする。


木を切るもよし、料理に使うもよし、人間をぶった切るもよし。


大体そんな感じだ。




「これはありがてえ。銃弾6発は温存できそうだ……と」




 鞘はベルトに装着できるギミックがあったので、後で取り付けておこう。


魔物といっても何が出てくるかは知らないが、血が出るなら殺せるはずだ。


 


 再び背嚢を覗き込む。


そこには鉄製のフライパンがあった。


……地味に便利!




 フライパンを取り出し、また覗き込む。


後は大きなものは入っていない。


タオルがいくつか、それにスキットルが2つ。


残りは缶詰が何個かと、火打ち石的な用途で使う金属製の棒なんかが見える。


ふうむ、サバイバルキットっぽいなあ。


……んんん!?




「なんかこれ……おかしくないかこの背嚢」




 明らかに取り出したものよりも見た目の容量が小さいぞ。


普通に考えたら、この大きさの背嚢にフライパンとマチェットは同時に入らないだろ!?




「一体どうなって……いっで!?」




 全ての内容物を地面に出し、背嚢を逆さにして見上げていると顔面に衝撃。


明らかに底面の虚空から出てきたぞ、今の!?


 


 鼻をさすりながら地面を確認すると、そこには糸で閉じられた古めかしい日記帳のような本が落ちていた。


いかにも古文書、といった雰囲気のそれ。


題字だけは似つかわしいものじゃなかったけど。




『異世界もろもろ 虎ノ巻』




 ……わーい、やったぜ。


やっぱり説明書って大事だよな、大事。


行き届いたサービスに感謝しつつ、オレは本を開いた。








『授与装備一覧』




・神聖6連装拳銃【ジェーン・ドゥ】




・神のマチェーテ【ジャンゴ】




・空間圧縮背嚢【入れるくん】


 内容物『フライパン、タオル(×6)、ファイアスターター、緊急用缶詰(×12)、スキットル(×2)』




「オイ!なんで背嚢の名前だけ超適当なんだよ!?」




 思わず突っ込んでしまった。


しかし、こうして見るとかなり便利な物ばっかりだな。


とにかくそれぞれの説明文を確認しとこう。


まずはなんといっても銃だ。


目次から銃のページまで飛ぶ。






・・☆・・






・神聖6連装拳銃【ジェーン・ドゥ】


 


 所有者、『東森逸人』にしか使用できない、魔力を弾丸とした拳銃。


 装填されている6発の銃弾は所有者の魔力を『均等に』6分割した魔力が込められている。


 弾丸の発射以外での魔力消費については、その都度6分割される。


 弾丸の再装填は1日に1回。


 必ず、魔力が回復する『その日の0時時点』に行われる。(魔力がいくら増えても弾数は増えねえぜ!)




※注意事項


 ①6発の弾丸を使い切ると魔力枯渇によって昏倒する。(外でこうなると最悪死ぬぜ!気を付けろよ!)


 ②魔力回復薬等を用いれば自然回復以外でも瞬時に再装填が行われるが、短いスパンでの魔力枯渇からの回復は心身に多大な悪影響を及ぼす。


 ③他人への譲渡は不可。所有者から10m以上離れた場合は自動的にホルスターへ戻る。


 ④所有者の許可なしに接触した場合、その対象者に神罰が下される、注意されたし。






・・☆・・ 






「神サマの道具、すげえ……マジでモンコにゃ足向けて寝れねえな。残弾の問題が一気に片付きやがった」




 1日6発限定だが、銃が撃てる。


魔力回復薬とやらを使えば、さらに撃てるときたもんだ。


だが注意事項を見ると良し悪しだな……6発で昏倒は戦闘中では論外だし、回復の繰り返しもなんか反動がでかそうだ。


ってことは、安全マージンは5発……いや4発までだな。




 明らかに手書きの付け足しはモンコだろうか。


ほんと、面倒見のいい神サマだな。




「回復するんだし、とりあえず1発撃ってみるか」




 川の中央にある、ちょっとした大岩に狙いを定める。


周囲にはなにもいそうにない。


音がちょいと気になるが、見渡す範囲にも人間の姿はない。


少し勿体ないが、威力の確認は必要だ。




 アメリカ旅行の時に、実際のピースメーカーは射撃済み。


反動も体が覚えている。


このピース……じゃない、【ジェーン・ドゥ】もそこまで違いはないだろう。


……しかし、なんでこの名前なんだ?


身元不明の女性死体に付ける名前だぜ、これ。


女性要素が欠片もないし、ちょいと縁起が悪くねえか?




 まあいい。


グリップを両手で保持し、狙いを定める。


撃鉄をしっかり起こし、一瞬息を吸って引き金を引き―――




「うおっ!?おおおおおおおお!?!?!?」




 背中から地面に叩きつけられた。


うぐぐぐ……背中いってえ、頭、打たなくてよかった。




じゃねえ!?なんだこの威力!?


保持した両腕が反動で上に跳ね上がったぞ!?


とんでもねえ……射撃場で撃たせてもらったゾウ撃ちリボルバーよりも反動がでっかいぞ!?




「ま、じかよ……」




 痛む背中に鞭打ちながら起き上がると、狙った大岩が綺麗に消滅していた。


あ、ちょっと欠片だけ残ってる。


まるで、砲弾が直撃したみたいな感じだ。


衝撃の余波が、水面に波として残っている。




「威力がデカすぎる……咄嗟に撃つと肩が外れてもおかしくねえな。適当にクイックドロウなんかしたら手首が折れるぞ、こりゃあ」




 だがオレは……歓喜した。


最高の威力じゃねえか!


まさに必殺技……最後の手段ってやつだ!!


普通の拳銃でも大いに助かったが、これは別格だ。


モンコ、マジ最高だぜ。


この世界でアイツの神殿とか見つけたら、五体投地して感謝しねえとな。




「さて、お次はマチェーテっと」


 


 痺れる両手に苦心しつつ拳銃をホルスターに戻し、再び虎ノ巻を開く。






・・☆・・






・神のマチェーテ【ジャンゴ】




 固くて強靭、刃も欠けない。


 なんにでも使えて便利。


 理論上、万物を切れる。




※注意事項


 万物を切るには、万物を切る腕前が必要。(タツジンじゃなきゃ無理ってこった。まあ何しても壊れねえ便利ナイフだと思っときな)






・・☆・・






「すっげえ……雑ゥ!!」




 モンコよ、拳銃の説明文にあった情熱はどこへ行ったんだ。


必要最低限しか書かれてねえじゃねえか!?


……だがまあ、有用ではある。


銃に弾数制限がある今、何しても壊れる心配のないマチェーテは重要だ。


あいにく剣術もマーシャルアーツも修めてねえが、日々の物資搬入と筋トレで多少腕っぷしはある、多少だがな。


壊れる心配もない武器なら、俺でも扱えるだろう。




「後は背嚢なんだけど……嫌な予感がするなあ」






・・☆・・






・空間圧縮背嚢【入れるくん】




 一般的なコンテナ1個分くらいのものが入る背嚢。


 とても便利。(しかも内容物は腐らない!)


 この説明文を読んだ時点で、背嚢の口に手を入れて念じれば内容物が分かる。




※追記


 〇次元ポケットって超便利だよな?






・・☆・・






「それな!!」




 どこかで見ているであろうモンコに、オレは突っ込んだ。

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