第10話 バフォメット

「喋る魔物……か。魔王軍の幹部級の力が無いと人語を話せないと、私は認識しているのだが」

「その通り。人の言葉を操るには、相応の知力が必要だ。故に、魔王様の配下の中でも、側近に位置する事となる」

「ふむ。だが魔王と戦う前に、幹部級の魔物は全て倒しているはずだ」


 カレンさんと、山羊の顔をした魔物がとんでもない会話をしている。

 目の前の魔物は、魔王軍の上の方に位置する相手なんだよね?

 それを全滅させたはず……って、カレンさんは煽ってるの!?


「そう、その話だ。ひとまず今回は礼を言いに来たのだよ」

「礼? 魔王を倒した私にか?」

「そうだ。我が名はバフォメット。この大陸を支配していた第三魔王ではなく、隣の大陸を支配する第二魔王様に仕えている」


 え……別の大陸の魔王の部下!?

 どうして、そんな魔物が!?


「お前が第三魔王を倒したおかげで、第二魔王様がこの大陸を支配する可能性が極めて高くなった。本当に感謝する」

「何を……言っているんだ!?」

「そのままの意味だが? まぁいずれ他の魔王も向かって来るだろうが、この時間差は我らに大きなアドバンテージとなる」

「待て! 他の魔王が向かって来る……だと!?」

「正確には、他の魔王の側近たちだがな。今までは各魔王が一つの大陸を支配していたから、今後この地は五体の魔王と、新たな魔王として名乗りたい者による争奪戦となるだろう」


 魔王や魔王候補による争奪戦!?

 そんな……せっかくカレンさんが魔王を倒してくれたっていうのに。


「くだらないな。ならば、そいつらを全て倒すだけだ」

「ふっ……先ほどの剣。おそらく魔王を倒した時に呪いを受けたのだろう? 有象無象の魔物はともかく、あの程度の攻撃が我に通じると思うのか?」

「試してみるか?」

「我は構わぬが、今回は礼を言う為に、我が分身をこの大陸中のダンジョンに飛ばしただけだ。次は分身ではない、我自身で相手をしよう。さらばだ」


 そう言って、魔物の姿が掻き消える。

 ひとまず、今回は助かったみたいだ。

 けど、カレンさんの攻撃を軽々と受けたのが、魔物の分身だったなんて……当然、本体の方が強いと思うんだけど、カレンさんは大丈夫だろうか。


「あの……カレンさん」


 先ほどの魔物が消えた後も、カレンさんが動かない。

 ここからではカレンさんの表情が見えないので、おそるおそる前に回り込んでみると……えっと、カレンさんのそれは、どういう表情なの?

 何かを思い出しそうで、でも出てこない……そんな微妙な表情を浮かべるカレンさんが、突然僕の頭を撫でてきた。


「あ、あの、カレンさん?」


 頭、腕、背中……ときて、また頭に戻る。

 何をしているのかと思ったら、


「これっ! これだっ!」

「えっ!? 何がですかっ!?」

「あぁ、私が前に使っていた枕だよ。さっきの山羊を見て思い出したんだけど、カシミヤっていう生地を使った枕だったんだ」

「カシミヤ? ……聞いた事がないんですけど」

「うん。私もカシミヤっていう言葉しか知らなくて、何だろうって調べた事があるんだ。そしたら、山羊の毛だったんだ」


 えーっと、それで今も僕の頭を撫で続けて……って、僕は山羊じゃないんですけど。


「あの、カレンさん。それより、さっきの魔物なんですけど……」

「あぁ、別の大陸の魔王がどうとか言ってたねー」

「強そうでしたけど、大丈夫でしょうか?」

「んー、今のままだとマズいね。奴の言う通りで、一日十時間ぐっすり眠った本気モードじゃないと勝てないかも」


 一日十時間は寝過ぎじゃないかなー?

 いやでも、カレンさんは勇者だし、普通の人と比べる事自体が間違っているのかもしれないけど。


「……って、昨日は王女様のところで結構寝てましたよね?」

「うむ。だがソフィアの太ももは、あくまで及第点であって、元の枕に劣るから、熟睡は出来ていないんだ」

「あ……」


 そう言えば、カレンさんは王女様の太ももを六十点と言っていたんだ!

 つまり、王女様の太ももそっくりにしてもダメで、あれを超えないと、カレンさんがさっきの魔物に勝てないって事!?

 は、早く何とかしなきゃっ!

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