第24話 魔王

「……魔王かな? 北町の見分場のおじさんが言ってたけど、魔王が復活したって噂は本当かな?」

「そいつが近くに居るってことか?」


 蒙波の顔も自然と強張る。


 


 魚人も森人も蟲人も竜人も鳥人も獣人も、かつては世界を席巻する文明であった。

 そんな彼らでさえ魔王には負けたのだ。


 海を干上がらせて魚人文明を破壊した旱王と魃王

 霊を憑依させて式神を無効化して森蟲文明を破壊した朦朧

 屍人を作って共食いさせて竜王文明を破壊した遠呂智

 神々と人々との縁を断ち切って恐鳥文明を破壊した唯我独尊

 あらゆる技術を暴走させて禽獣文明を破壊した狂荒暴


 どれも世界を相手にして文明自体を破壊するとんでもない魔王だ。

 また、文明を破壊しないまでも多大な犠牲を生み出す魔王はちょいちょい生まれており、国をいくつも滅ぼすぐらいのことはしている。

 それほどの大妖怪が現れると災厄の度合いも半端ない。

 ぶるぶると体を震わせて、怖そうにぼやく康隆。


「そんな化け物が現れたら、俺たちなんて逃げるしかないからな」

「おいおい。そんな弱気なこと言ってたらだめだろ?」

「当然ね。そんな危ないことをたっちゃんにやらせられないわ」

「それでいいのかよ」

「当然よ。婚約者が危ないことやるのに賛成の女は居ないわ」


 弱気な二人の言葉に驚く蒙波。

 月婆が静かに答える。


「勝てもしないのにただ戦うのは蛮勇であって英雄ではない。おぬしこそ忍びではないか。もっと現実的な見方をすると思ったがのぅ?」

「いや、俺たち忍者はそうだけど、あんたらは武士だろ?」


 そう言われると月婆があっけらかんと笑う。


「そこはわしの教育の賜物じゃのう。わしも傾奇者として長く生きとるからの。そうやって大言豪語する連中がいざ戦となると真っ先に逃げとるのをみとるからのぅ。そんな真似やるぐらいなら、最初から言うなとおしえておったからなぁ」

「なるほどなぁ」


 実体験込みの教育なので説得力のある月婆。

 康隆は頬杖をついてぼやく。


「とは言え、目の前に現れたらどうするかって言われたら、簡単には逃げさせてくれんだろうからなぁ……今回のこともそうだけど、危ない時の逃げ方も考えておかんと」

「二人が居なかったらヤバかったからなぁ……」

「慎之介さんも居なかったら間違いなく全滅だったし……」


 苦々しく今日の出来事を思い出す二人。

 ぱっと見は変な男だったので、危険を意識するのが遅れたが故の出来事だ。


「完全に油断していたからな……たかが屑妖駆除と侮っていた」

「南町奉行所の方でも危険度と報酬を上げるってさ。さすがにやべぇ鵺が現れても最低報酬ではやらんからな」


 二人ともぼやきが止まらないが真尼は尋ねた。


「そう言えば朝に言ってた『光延』ってのは何に当たるの?」

「妖人。妖神の囁き声に応えて、妖神を崇拝するようになった連中」

「なるほど」

「そういや、前から気になってたんだけど、妖神を崇拝すると何でああなるんだ? 妖怪化の意味が分からんのやけど?」

 

 不思議そうにする康隆。


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