第17話 岡場所千住


 岡場所千住


 吉原が公娼とするなら岡場所は私娼。

 いわゆる「平民がこっそりやっている売春」である。

 実は現代においてもソープやヘルスなどの『風俗』は『警察』が管理しており、警察に届けないとやってはいけない。


 そう言ったところは実は江戸時代から引き継いでいたりする。


 もっとも、この世界は異世界なので江戸時代という区分は無いのだが、そんな感じである。

 では岡場所とはどういうところなのかと言われると、いわゆる『東横少女』や『援交少女』、『割り切り出会い系』で小規模にやっている売春になる。

 今ならスマホで連絡をするのが当たり前なので、互いに待ち合わせることは可能だが、この時代にそんなものは無い。

 ではどうしていたかと言われると、『違う店の振りをしていた』。

 一見すると茶屋……昔の喫茶店のような場所で、実際にお茶を飲んだりするのだが、二階に上がってしっぽり行うというやり方をしていた。

 そして、昔はそういったお店がそこら中にあったのだが、そう言った場所の一つが『千住』だった。


「いらっしゃい! いらっしゃい! 可愛い女の子がいっぱいだよ!」


 そう言って客引きする女の子たち。

 そんな女の子が軒で袖を引っ張りまくるのだが、中にはこんな客も居た。


「うちにおいでよ! 安くしとくよ」

「あそこは上がってからブスあてがうことで有名だよ! うちの方が優良だよ!」

「引っ張るな! 袖がちぎれる!」


 びりりりりりりりり!


 引っ張られてた客の両袖が思いっきり破れてしまう。


「何すんだよお前ら!」


 おもいっきり怒る客だが、今度は着物を引っ張り始める。


「あらら! ごめんなさい! おわびに袖縫うからうちに入ってよ!」

「本当大変だわ! 私が縫うから」


 がしぃ!


 そう言って今度は着物の方を掴んでくる客引きの女の子。

 そんな光景がそこかしこで起きている中を歩く康隆。


「相変わらずの町だなぁ……」


 数あるお店の中で康隆が向かったのは『海老屋』。

 ほどなくして海老屋の客引きの女の子が康隆を見つけた。


「やすさん来てくれたのねー♪ ありがとー♪」

「加奈ちゃーん♪ 会いたかったよー♪」

「ぎゅー♪」

「ぎゅー♪ あはははは♪」


 

 そう言って加奈と呼ばれた女の子をぎゅっ♪ とハグする康隆。

 緑色の長い髪の毛を前にだけウェーブをかけた女の子で、茄子のかんざしでまとめている。

 耳が鳥の羽根耳になっているのだが、羽の形からして鴫(しぎ)の鳥人だろう。

 2mぐらいの長身の女の子だが、康隆は実は224㎝もあるので、ちょっと低い程度である。

 

「今日は遊んでいくでしょ?」

「勿論♪」


 そう言って財布をじゃらじゃら鳴らす康隆。

 加奈が嬉しそうに笑う。


「すごーい♪ どうしたのー?」

「前に加奈ちゃんが言ってた奻蜥蜴を倒してきたんだよ!」

「すごーい♪ 流石やすちゃんねぇ♪ 知らなかった~♪」


 そう言ってきゃっきゃっと笑う加奈。

 康隆は気分を良くして身振り手振りで武勇伝を話し始める。

 

「あのやろうが襲い掛かってきやがってよぉ……おれはそいつの首をバシュッと切ってやったのよ! いやあ強かったねぇ!」

「そうなんだー♪ 流石康隆ちゃん♪ センスあるねぇ♪」


 そう言ってにこにこと手を叩く加奈。


 一方……


 びりりり……


「何すんだよお前ら!」


 先ほど袖を破られた男は着物が完全に破かれてフンドシ姿になってしまった。


「「こいつが悪いんだよ!」」

「両方悪いんだよ!」


 互いに相手が悪いと言い合う客引きと激怒する男。

 それはともかくとして、康隆は加奈の肩をぐっと抱き寄せて一言。


「前にも言ったよね……奻蜥蜴を倒せるようになったら抱かれてあげるって」

「う~ん……どうしようかなぁ?」


 悪戯っぽく笑う加奈。

 鴫人も三大多淫の一人で性に奔放な人たちだ。

 全体的に長身で美男美女が多く、口がうまくてあの手この手で誑し込む。

 と言うよりかは三大モテと言ったほうが良く、男女ともに人気なのだ。

 なので、そんな鴫人の一人である加奈もモテにモテまくっているので、ちょっとした男程度には靡かない。

 となるとやることは一つである。


「でもそれだと、まだ足りないかなぁ? ……」


 と言って色っぽい笑みを浮かべる加奈だった。


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