第22挑☆酸の泉で再会! 藤花の涙 後

「関根、赤鬼、何見てんだ?」




「あそこだ」




 関根が指さした壁面に、緑色の巨大なイモムシ。オオムラサキの幼虫か。2体いたはずだが、1体はどこかに行ってしまったようだ。もう1体だけが、壁面をのそのそと移動している。




 あれ、なんか、こっちに向かってきているぞ?




「あいつ、なんかヤバくね?」




「主が死んだのだ。バタフライ単体で攻撃してくることはない」




 赤鬼は冷静にオオムラサキの幼虫を見ている。




「捕まえるのか?」




「そうしようかと思っているが、いかんせん、虫かごがいっぱいでな」




「虫かご?」




「説明するわ!」




 突然、ポワロンが目の前に出て来た。




「巨大なバタフライを何匹も連れて歩いていたら大変よね。プレイヤーは、虫かごを手に入れることで、虫かごにバタフライを入れておくことができるの。虫かごの性能によって、入れておくことができるバタフライ数が違うんだけど……」




 赤鬼は道着の懐から赤色の巾着袋を取り出した。




「今はこれしか持っておらん。10匹でいっぱいだ」




「それ、虫かごって言うのか?」




 関根はズボンのポケットから、ガチャガチャのカプセルみたいなものを取り出した。




「俺のバタフライボールは3匹しか入らないからな」




「いやー、それ、もろパクリっていうか、もうあのゲームしか思い浮かばねえんだが」




 俺がドン引きしていると、カイソンが前に出て来た。




「あのー」




「ん?」




「あのオオムラサキ、俺がもらってもいいっすかね?」




「え⁉」




 俺は驚いてカイソンの顔を見た。




「俺、まだペットいないんで。あいつ可愛いし、連れて行きたいっす」




「そうか。そういや、お前バタフライいなかったな!」




 俺たちが話している間に、オオムラサキの幼虫が俺たちの前まで到着した。なぜか、俺や赤鬼・関根には目もくれず、まっすぐカイソンに近づいた。




 そういや、こいつの前の主人、黒髪に黒い着物着た、美形な奴だったよな。カイソンも、黒髪だし、黒い短パン履いてるし、顔はさっきの敵よりいいかもしれない。




 ……て、そんな理由で近づくのか?




「おお、お前も俺がいいのか。よしよし」




 カイソンに頭をなでられて、オオムラサキの幼虫が嬉しそうに触覚を動かしている。心なしか、黒い目がハートになってねえか? 幼虫にもイケメンの概念があるのか?




「お前、名前はなんていうんだ?」




 カイソンに訊ねられるも、幼虫が言葉を話せるわけがねえ。




「新しく名前をつけてあげたら?」




 ポワロンに言われて、カイソンは少し考えて、言った。




「んー、じゃあ、アンで」




「アン?」




「ヘーアンの国で出会ったから、アン」




「なるほど」




 俺がうなずいていると、カイソンは赤鬼と関根に声をかけた。




「てことで、アンを連れて行っていいっすか?」




「仕方ないな」




「そのオオムラサキ自身が選んだのだ。連れていくがいい」




 ついに、カイソンにもペットのバタフライがついた! アン、か。目があって可愛いな。……と思ってたら、なんかモコのほうから不穏な空気が漂ってきたぞ。なんだこいつ、ヤキモチ焼いてんのか?




「まあまあ、俺のペットはお前だけだからよ」




 俺がモコの頭をポンポンと叩くと、モコが触手を伸ばしてきて俺を抱きしめた!




「ぎゃああああああ!」




 やめろ! まだ俺はお前のハグには慣れてねえ! やっぱり気持ち悪いんだよ、まだ!




 俺がモコにもみくちゃにされている間に、藤花は赤鬼と関根に声をかけていた。




「あの、お二人ともありがとうございました」




「いや。結局のところ、何もしていない」




「あなた自身が、大統領の心を動かしたのだ」




 関根と赤鬼の言葉に、藤花は微笑んだ。




「では、我々は行く」




「チョー、カイソン、次に会うときは敵同士だ」




 関根と赤鬼が立ち去っていく。




 ――敵、か。




 二人の背中を見送りながら、カイソンが、




「俺としてはもう戦いたくないっすね」




と、つぶやいた。




「……ああ」




 短い時間とはいえ、いっしょに戦った仲だ。それに、あいつら、悪い奴じゃねえってわかっちまった。




「私たちも帰ろっか」




 蕾が言うと、藤花が引き留めた。




「待って。蕾ちゃん、脚の怪我の手当てをしなくちゃ。うちの医者にみせましょう。そのまま、うちに泊まっていって。チョーさんとカイソンさんも、よかったらうちに泊まっていってください」




「いいのか?」




「はい。うち……というか、うちの隣のホテルの部屋を使っていただこうかと」




「マジ⁉ あのぼったくりホテルに泊まれるのか!」




「チョーさん、言い方……あ」




 カイソンが何かを思い出したように、俺の肩を叩いた。




「チョーさん、ホテルっすよ!」




「あん?」




「そもそも、俺たち、あのホテルに用があったっていうか。シロと稲妻のことを訊かないと」




「あー! そうだった!」




 俺たちは藤花と蕾を見た。




 ……でも、今すぐ聞くのもなあ。蕾は怪我しているし、藤花も疲れているだろうし。俺は、藤花に向かって言った。




「ちょっと聞きてえことあんだけど、藤花、明日話せるか?」




「もちろんよ。こんなに力になってもらったんだもの、私にできることはなんでも言ってください」




 藤花の笑顔が女神に見える。こんなに可愛くて優しい美少女が、あの大統領の娘か……遺伝ってなんなんだろうな。




 とにかく、今日のところは、豪華ホテルでゆっくり休むとするか。


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