第35話 頼もしき仲間たち Ⅰ

 銀河連邦のとある一室。

 

 「何故!? 大将閣下なぜでしょうか。なぜ、艦隊をお貸しいただけないのですか?」


 俺は珍しくも大声をあげて、人に食って掛かっていた。

 大将閣下に対して詰め寄る俺の表情は必死。

 あらためて自分でも思う。 

 非常に珍しい光景だ。

 困った表情の大将は、右手を机に置いて、人差し指がトントンと速いリズムを刻んでいた。

 その様子は俺への苛立ちではなく、協力出来ない自分への苛立ちに見えた。


 「すまぬ。大佐、今は艦隊を揃えるのが無理なのだ。帝国に再びデルタアングル宙域で何かの動きがあってな。そのおかげで、大佐の艦隊5000隻の編成がまだ準備できておらんのだ。それに他の大将の奴らの抵抗が思ったよりも凄くてな。今はまだ、お主の艦隊を用意できそうにない」

 「そんな。大将閣下。閣下は私とお約束なさってくれたじゃないですか」


 俺は大将閣下にも尻込みせずに詰め寄っている。

 やはり怒の感情に支配されると何も怖くないみたいだ。

 気持ち的には大将閣下を壁の方に押しに押している。


 「す、すまぬ。じ、実は、本来ならばお主がこの首都星を出て行くことも許可できんことであったのだ。……だがな、そこだけは奴らを説得してねじ伏せた。だから、何とか出撃許可が下りたのだよ。そして何とか用意できたのが500隻だ。これ以上は無理であった・・・」

 「500!? たったの500ですか!? 相手は5000なのですよ。10倍ではさすがに無理です」

 「こちらも交渉の末の500だったのだ。むろん、ワシだって戦えるとは思っておらん・・・だが一つだけ戦力を整える手がある……他の惑星で待機している艦隊は動かしてもよいと許可をもらった。だから今回は現場に一番近い惑星リッペンにいる艦隊を使ってもよい。だが協力してくれるかは別だがな」

 「ではそこに援助をしてもらいます。大将閣下。時間が惜しいので失礼します」


 大将に対して少し失礼を働いたと思いながらも、すぐに切り替えて、俺は大将に背中を向けた。

 少しでも時間が惜しい。

 頭の中はその事で一杯で、決して慌てているわけではないけど。

 俺は早歩きでアーヴァデルチェに向かっていった。


 

 俺は艦隊に戻ると、すぐに仲間に緊急招集をかけた。

 新たに編成されたアルトゥール艦隊500隻には、惑星リッペンに向けて発進命令を出した。

 そして、いち早くリッペンの艦隊と交渉をする為に、俺がアーヴァデルチェが一番先に出発したのである。


 その道中。

 ウキウキでハンドルを握るリリーガの背中を見つめて俺はいつものスタイルになる。

 椅子の上で胡坐をかいて、その膝を利用しての頬杖の状態である。

 その形のまま、ボーと考えこんでいた。

 俺が座っている様子はいつもと同じだと思う。

 でもたぶん、考えている様子がまったく違うために、ブリッジにいた艦隊員たちは普段のお茶らけた雰囲気を一切出さずに、珍しくも俺に誰も声を掛けてこない。


 そこから数分後。

 

 俺の隣にカタリナさんが来た。 

 スッと手を伸ばして、サイドテーブルにお茶を出してくれた。

 それを俺はただただ黙って飲み、何も話さずにいる。

 これも、たぶんアーヴァデルチェの艦隊員の日常の風景ではない。

 いつもなら、カタリナにありがとうと言って、俺と彼女は談笑を始めるからだ。

 自分でもそうしたいけど、今の俺の頭の中は海賊で一杯だった。


 お茶を飲み干した後、移動を皆に任せて、自分の部屋へと戻っていった。




 ◇


 自室へ入って、二十分くらいが経った。

 手早いノックが聞こえてきた。

 

 「おいアル。開けろ早く、早く」


 声はオリヴァーだった。

 ロックを解除し、ドアを開ける。

 そこにいたのは声の主のオリヴァーだけではなく、フレンも共にいた。

 俺の部屋に彼らはなだれ込むようにして入ってきた。


 「フレン。早く入れ」「ったく、めんどくせー」


 どうやら、二人は艦内にいる人間に見つからないように、ここまで来たらしい。

 フレンが俺の部屋に入ったなんて、艦内の噂にでもなったりしたら、とんでもなくひどいことになるとオリヴァーが言った。

 俺たちは部屋に入り席に座ると。

 フレンとオリヴァーは俺の顔を見て早々にこう言った。 


 「フン、やっぱな」「だろ。俺の言ったとおりだろうが」


 フレンはせっかく座った椅子を離れて、立ち上がる。

 俺のそばに来てから、跪くことで座っている俺との目線を合わせた。


 「アル、それじゃあよ。死に急いじまうんだぜ。いいか。あたしたちがいつでも一緒だと前に約束しただろ。そんな目じゃ、駄目だ。な………それじゃあ、お前。死んじまうぜ……あたしとオリヴァーはそういうやつをごまんとして見てきたんだ……アル、頼むぜ。しっかりしてくれよ」

 

 彼女は物悲しい眼をして、俺の胸をコンっと小突いた。

 声にも悲しみが混じっていた。

 そしてまた、オリヴァーの声にも寂しさがあった。

 

 「フレンの言う通り。お前は焦りすぎ、怒りすぎ、周りが見えなさすぎの三点セットだ。いいか、俺たちに今考えていることを言いなさいな。お前は怒れば何でもできると前に言ってたけどな。怒りすぎては全てを見失うんだぞ。少し頭を冷やせ、アル」


 二人とも俺の表情を見ただけで、いつもの様子ではないことを分かってくれていた。

 ……でも俺、態度にだって、怒りを出していたわけではなかったのに。

 カタリナさんだっていつもと変わらなかったぞ。

 ・・・いや、もしかしたらカタリナさんも敢えていつもと変わらないように接してくれていたのか。

 皆に気を使われていたんだ。

 俺、艦長失格だな。

 ・・・・ふぅ~・・・ふぅ。


 俺は落ち着きを取り戻すために、深呼吸を繰り返した。

 

 「アル? どうした。具合が悪いか。大丈夫か」


 フレンが俺を心配して顔を覗き込んできた。

 その覗き込んできた顔を俺は、真っすぐ見つめ返した

 そして、しっかりとした口調で答えてみせる。

 いつもなら君の目なんて見ることが出来ない俺なのにさ。


 「ああ、大丈夫。大丈夫だよ。二人ともごめんね。本当に心配をかけた……大丈夫。ありがとう」


 俺はフレンの肩にそっと両手を置く。

 すると、彼女は少しだけ頬を赤く染めた。

 優しく見守ってくれる二人に感謝した俺は、その状態のままで思考を回転させることにした。

 正しい感情による思考は滑らかで清らかだ。


 「よし。惑星リッペンの艦隊ってのはどんな艦隊か分かるかい? 二人とも知ってる? なんか大将の話しぶりだとあんまりいい感じじゃなさそうだったんだよね」

 「あ・・・あ、ああ。知ってるぜ。あそこはなぁ、荒くれ物の艦隊でよ。宙空戦と肉弾戦の最強部隊だと思うぜ」


 顔が真っ赤なフレンは気を取り直して話してくれた。

 

 「そう、だいたいフレンの言ったとおりだな。…でもよ。奴らがやばいのはそれだけじゃない。奴らは元帝国兵。というより、帝国に支配された国ヴァルトラン王国の騎士団の末裔という話だ。だから奴らは騎士の誇りを持っている。恐らくは、ちょっとやそっとじゃ味方にはならんと思うんだ」

 「騎士団か・・・・」


 騎士団とか言われてもな。

 どういう感じなんだろ。

 地球のチュートン騎士団とかテンプル騎士団。

 聖ヨハネ騎士団みたい感じかな。

 俺は地球の歴史と照らし合わせていた。

 

 「でも何とかしなきゃね。会ってみて説得できるか試すしかないよね。オリヴァー。フレン」


 そうだ。やってみないとわからないんだ。

 誠心誠意やってみよう。

 同じ連邦なんだしさ、何とかなるっしょ。

 俺は海賊を倒したいんだ。

 これだけは何としてでもやり遂げる。

 だから、説得して見せる

 

 俺は彼女から手を離して、今度は両手を合わせて握りこむ。

 力強い指で自分の手の甲を押した。

 考え事をしている俺の素振りがまた、彼女の心配を呼んだらしい。

 フレンの方から、俺の手を優しく包み込んできた。


 「アル、もう落ち着いたのか。本当に大丈夫だろうな……いいな、今の雰囲気を忘れんなよ。あたしたちはいつものお前が好きなんだからな。あんなに怒ってるお前じゃなくて、普段のお前がいいんだ。あんまり、艦の皆に心配かけんなよ」


 少しだけ目に涙が溜まってるフレン。

 初めて見る姿に俺は申し訳ないと思った。

 そんなに俺のことを心配してくれたのかと思い、もう二度とこんなに取り乱したりはしないと俺は彼女に誓った。

 俺の目の前のフレン。俺のそばにいるオリヴァー。

 二人は俺の為にここまで来てくれたんだ。

 ありがたい。

 本当にありがたい存在の二人だ。

 俺は一人じゃない。

 この人たちと共に明日を生きなければならない。

 でも俺は、海賊は倒したいんだ。

 だから、俺は冷静になって、二人と共に倒すんだ。


 「うん。元に戻る・・・でも必ず海賊は倒すよ。力を貸して欲しい。フレン、オリヴァー」

 「ああ。任せろ」

 「当り前だ。俺たちはいつでも協力するんだぜ」


 俺にとって、二人はかけがえのない仲間だった。

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