第28話 黄金の獅子

 「ほな、いくで~~」


 ギザギザの歯がトレードマークの女性が叫ぶ。

 グリフォンと呼ばれた戦闘艦が、黄金に輝きだした。

 左右のレーザー砲から、通常艦よりもはるかに高い特殊な音が鳴った気がした。


 「耳が痛い。なんだ、この高い音は?」

 「アル、振動もすげえぞ。ビームをためるのにこんな音が鳴るのか!?」


 隣にいたオリヴァーも驚いて思わず二人で小声で話す。


 高密度なエネルギーが砲台に集中していく。

 通常のビーム砲の色は白。

 それに対して、グリフォンのビーム砲台に集まっている色は黄色だった。

 黄色の輝きが増し続けて、それはまるで黄金のように見えた。


 「なんか、連邦の技術をはるかに上回ってるんじゃないか? こんな色、帝国のビーム砲でも見たことがない。オリヴァー、みたことある?」

 「いんや、俺も初めて見た」


 俺は、この小さな彼女の一挙手一投足に目を離せなくなった。

 

 「準備いいぞ、かしら


 乗組員が話す。


 「ほな発射や~~~~、いっけぇぇぇえええええええ」


 黄金のビームが放たれた。

 通常のビーム砲よりもはるかに速く。

 さらに射程距離も長いみたいだ。

 アーヴァデルチェよりも遠い位置から射撃している。


 「こ、これは!?」


 ビーム砲の一発で、敵戦闘艦が沈んだのだ。

 左右1発ずつのビーム砲で敵二艦を撃破したんだ。


 「な、馬鹿な。艦隊を貫いている!? ビームコーティングはどうなってんだ?」


 彼女は、オリヴァーの言葉に答える。


 「なぁに、うちの艦はちょっとだけ特別でね。あいつらレベルの戦闘艦じゃあ、うちの攻撃から身を守り切れんわ。ぬははははは」


 彼女は、自慢げに高笑いしていた。


 通常の艦隊の攻撃は一撃で壊れることがない。

 戦闘艦にはビームコーティングがされているからだ。

 同じところに2,3回攻撃を当てないと完全に破壊出来ないはずなのに。

 この旗艦グリフォンのビーム砲は一撃で敵を貫き破壊したぞ。

 こ、これはありえるのか。

 圧倒的じゃないのか!?

 連邦軍や帝国軍よりも強い兵器だ。

 なんでそんなものをこんな少女のような女性が!?



 ここで、スリクラに顔を向けて配置していた海賊艦隊が、こちらに船首を向けてきた。

 グリフォンの速い動きに対応が間に合っていなかったのだろう。

 やっとのことで隊列を直そうとするが、まだまだ隊列はバラバラである。

 ここで分かる。

 隊列を直せない時点であれは軍隊じゃない。

 こいつらが烏合の衆の海賊であるのは明確だ。


 そして、敵艦8隻がこれもまたバラバラに砲門を向けてきた。

 ビーム砲にエネルギーが集まるのが見える。

 

 「お、向こうもバリバリやる気みたいやで。そう来なくちゃな。……野郎ども。バリアいけるか」

 「まかせときかしら

 「おう、まかせるで~」


 ニヤニヤしながら、彼女は指令を出している。

 この設備を俺たちに見せつけてるようだった。


 「あれは・・・集中砲だ。このままじゃ」


 どうやら敵艦それぞれは、ビーム砲を一本に絞る構えになっている。

 これを艦隊攻撃の戦略では、『集中砲』と呼ぶ一撃を繰り出す気だ。

 それぞれの艦の左右のビーム砲台が中央を向き、二本のビーム砲を一本にまとめて放つつもりである。


 そうか、ここで集中砲を撃ってくるのか。

 まあ、こちらは一艦しかないからな。

 それが一番効率的か。

 どうするんだ!? 

 これはかなりピンチなんだけど。

 

 俺は心配になって、小さな彼女を見た。

 すると、彼女は心配すんなと胸を叩いた。


 「アルさん、大丈夫やで。うちらの底力を見せちゃるからさ。ほな。バリア展開の準備急ぎや」

 「へ~い」


 乗組員はやる気のない返事をした。

 がそれとは別に、仕事はテキパキと進められていた。

 行動に一切の無駄がない。

 自分の艦隊員と遜色のない仕事ぶりだった。


 そして、敵である海賊たちの艦のエネルギーがマックスになったその瞬間。

 八本のビーム砲が綺麗に揃って放たれた。

 

 「展開」


 彼女が叫ぶと、旗艦グリフォンの前方に三重の黄金の光が現れた。

 分厚い氷の板のように輝く光に、敵のビーム砲が突撃。

 バリア一枚目が、敵の2発のビームを相殺

 バリア二枚目が、敵の3発のビームを相殺

 そして三枚目が、敵の2発のビームを相殺

 

 そして、1本だけビームがすり抜けてきた。


 「ぶつかる」


 集中砲で攻撃をもらうのはまずいぞ!

 しかし、俺の考えは浅はかだったらしい。

 グリフォンに直撃したビーム砲は跡形もなく消えた。

 右舷にまともに直撃したはずなのに、無傷でびくともしていない。


 間違いない、この艦は世界最強クラス。

 あの集中砲を受けて、傷一つ負ってないなんて。

 連邦にも帝国にもこんな戦闘艦はない。

 これは確実なことだ!

 こんな物。

 なんで普通の女の子が持っているんだよ。

 

 「ぬははははは。どうだ貴様らの攻撃は、このグリフォン様には効かんのだぁ」


 彼女は声高らかに笑っていた。

 

 「ではもう一撃いくで~。あ、あれ、なんで逃げ出してんの?」


 彼女は突如として焦った。


 「だめだめ、まだまだこれからやのに。あれ、ちょい待ち~や」

 「なんだ、追いかけちゃダメなのか」


 オリヴァーが素朴な質問をした。


 「まだ、あの強力なビームを動きながらはだせへんのや。だから、あっちから攻撃してほしかったのにぃ」

 「なら右奥の艦と左の手前から2番目の艦を狙ってくれ」


 俺はすぐに彼女に指示を出した。


 「なんで?」

 「あれ2つが一番動きがいい……艦隊運動は速い艦に引っ張られて、動きが良くなるから、速いあの二つを先に潰せば動きに乱れが生じる。そしたら、もう一度足の遅い艦を破壊できるはずだよ……あれを壊してみて」

 「な!? よく分かるな、あんさん。ほないくで~発射や」


 再びグリフォンからの強烈なビーム攻撃が敵を捉えた。

 一撃で沈む二隻。

 そして再度、ビームを装填中、彼女が俺に聞く。

 

 「あんさん、次はどこ狙いましょ?」

 「この次のビーム砲は届かないだろうから、今撃つのは好きな艦でいいと思うよ」

 「ほなあのド派手な色した艦を狙うで~。発射用意や」


 元気よく彼女が指示を出し、統率された乗組員が動き出す。


 「発射や~」


 また2機の戦闘艦を壊し、彼女の艦は計6隻を宇宙の藻屑にした。

 攻撃力防御力共に最強クラスの戦闘艦グリフォン。

 これが軍じゃなく謎の女の子が持っているのなぜだ!? 


 「君はどうしてこんなに強い艦隊を持っているんだ?」

 「うちらはあんな残虐なやつらを許せんのよ。・・・あれに負けないために最強の戦力が必要なんや・・・・」


 何かを憂いていた。

 そこからさらに話が聞きたいと、俺が口を開いた瞬間。

 ブリッジの入り口が開く。

 

 「おい。あの子は、助かったぞ。オリヴァー……でも残念だけど腕は落としちまった。間に合わなかった、かわいそうだがな」

 「そうか・・・・でも仕方ないよな、命は助かったんだ。それだけでも良かったとしようぜ」

 「おい、そこの嬢ちゃんも助かったぜ。ここの設備は一流だったよ」

 「こういう時は、お互い様で。人は、助けられる時に助けなあかんのやで。うちは、当たり前のことをしたまでなんや」


 彼女は椅子から飛び降りて、フレンに向かって笑った。

 彼女は体が小さいので、椅子に足がついてないから飛び降りるしかなかったようだ。

 そのまま彼女は乗組員にスリクラへの降下命令を出した。

 グリフォンの下降速度もまた速く、あっという間にスリクラに到着して、孤児院へと向かう。




 孤児院前にて。

 襲撃していた海賊はすでにいなくなっていた。

 おそらく宇宙にいる艦隊があっさり負けたために逃げたのだろう。

 孤児院は何もない殺風景な場所になっていた。

 死骸さえも残らないほどの砲弾であった。

 この場には誰もいない。

 虚しさと悲しさから俺は泣いた。

 地面に拳を強く何度も何度も叩きつける。

 

 「クソがあああぁぁぁあ。クソ、クソ。こ、こんな・・・こんな残酷なことをやるのか。海賊という奴らはぁ!……俺は許さない、許さないぞ……絶対に海賊を許さない。たとえ、神があいつらを許しても、俺だけは神に抗ってでも許してやるもんか。必ず俺が・・・・全滅させる」


 腹の底から来る憎悪。俺に生まれて初めて湧いてきた悪の感情。

 日本にいる時だってこんなに誰かを憎んだことはない。

 

 孤児院に暮らしていたほとんどの人が生きていない。

 立派だった建物も粉々だ。礼拝堂だけがかろうじてだけ形がある。

 多くの人がここで亡くなり、その大半が子供たちだ。

 それに生き残ってくれた子供は、数十人しかいないんだ。

 俺たちが救った子だ。

 でも救えたとしても、腕まで無くした子もいるんだぞ。

 海賊共め、ふざけるなよ。

 俺が必ず根絶やしにする。

 この俺が!


―――――――――――――――――――――――――――

 地面に両膝をつけて、嘆いているアルトゥールを二人は黙って見守っていた。

 心配そうな顔をしているフレンが、手を伸ばし声を掛けようとするが、オリヴァーに止められた。

 アルトゥールの拳には、血が付いている。

 だがそれでも一向にかまわない。

 ただひたすらに地面を殴り続けていた。

 深い悲しみと怒り。

 これを静かに見守ってやろうとオリヴァーは何も言わずに、ずっとそばに立っていた。

 フレンもまたアルトゥールのことを心配になりながら見守る。

 そして・・・・。

 彼の思いは新たな道を生み出す。

―――――――――――――――――――――――――――



 そして次の日。ロゼの病院に行って、お見舞いに行った後。

 

 「お兄さん、また今度お会いしましょな。バイバ~イ」


 グリフォンの艦長。

 俺は謎の少女に軽い挨拶をされた。

 艦に乗り込もうとする彼女を引き留めた。


 「そ、そういえば、君の名前は?」

 「うちかい!? うちは・・・、いや、また今度にしましょう。あなたとは必ず会えますからね」 


 彼女は、今までのエセ関西弁を捨てて、最後標準語になった。

 軽やかな足取りで、グリフォンに乗る。

 彼女が乗り込んで数分後。

 すぐに外部の音声スピーカーから音が出た。


 「皆さん、まったね~~~~。さいならぁ~~~~~」


 陽気な声と共に、グリフォンは出発。

 それを見送った俺たちは、くすくすと笑った。

 高性能な艦と彼女の陽気さのギャップが可笑しかった。

 姿が見えもしないのに手を振っていそうだと思った。



 しばらくして、俺たちは何もない孤児院の前で、悲しみを押し殺していた。

 俺は直立。

 フレンは壊れた壁に腰かけて座り。

 オリヴァーは俺の向かいに立ち、最初に話しかけてきた。


 「アル。これからどうするつもりだ?」

 「俺、決めました。いや、覚悟と決心をしました。俺は海賊を絶対に殲滅する。これはきっとアルトゥールさんのやり残したことだ。なら俺は戦う………そいつらと戦う時に偉くなれれば、もっと多くの艦隊の指揮権限がもらえるはず。帝国との戦争に勝って偉くなって、それであいつらを倒す。滅ぼします……俺は孤児院にいた子たちの為にも、絶対に負けません」

 「フン、お前そんなに意気込むと死んじまうぜ。危なっかしい奴だな」

 「大丈夫です。俺は怒ると何にも怖くなくなるみたいなんで、このままの怒りを海賊にぶつけます」


 オリヴァーが俺の胸を叩いて話しかけてきた。


 「それじゃ、俺も君に協力するぜ、俺はお前を気に入った。俺はアルじゃなくお前自身を気に入ったんだ。おい、フレンはどうする?」

 「フン、いいぜ。アタシも協力してやんよ。ちっとは見込みありそうだしな」

 「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」

 「フン。それはなしでいこうぜ」


 フレンの言ってる意味が分からなかった。


 「そりゃ、そうだな」


 オリヴァーの同意も意味が分からなかった。

 困った俺の顔を見て二人は笑った。


 「アル。そうじゃねぇんだ。これからよろしく! ……でいいんだよ。敬語なんてアタシらの間柄には似合わねぇ」

 「そうだ、俺たちはこれから新たな形の友になるんだ。当然、敬語なんて必要ないよな」


 この二人は俺を認めてくれたんだ。

 アルトゥールさんじゃなくて俺を!


 「じゃ、これからよろしく二人とも」

 「ああ」「まかせとけアル」


 フレンとオリヴァーは簡単に答えた。

 こうして、俺はこの世界で、唯一無二の親友二人を手に入れたのである。





 一方、ところ変わって旗艦グリフォンにて。


 「いんや~おもろい人だったなアルさんは。どやった皆?」

 「まったく感情がジェットコースターのような方やったわな、面白いですな。ハハハ」

 「まったくやで~。今度会うときは、うちと戦うかもしれへんけどな」


 乗組員全員が「そうですな」と頷いた。

 艦長の席にいる小さな女性は怪しく笑う。

 腕を目一杯伸ばして、空を握る。


 「アルトゥール殿。いずれはこのうちと。……いや。・・・・この銀河の大商人であり、大海賊のマリー・クラヴェル様と再びあいまみえることになるだろう。その時を楽しみにしてもらおうか。ぬはははははは」


 最後にマリーと名乗った女性。

 それが、のちの銀河の三英傑、最後の一人。

 

 黄金の獅子 マリー・クラヴェル。

 その人なのである。

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