第6話

 夢を見た。

 とうとう私はレスリングにも手を出し、大きな大会に出場することになった。

 気が付けば決勝戦まで進んでいて、かの有名な女性レスリング選手と試合をすることになった。

 開始のホイッスルが鳴った瞬間に…。私は目を覚ました。 

 

「お前、生きてるのか?」

 私はレイ様に肩を叩かれて飛び起きた。

「今、いいところだったのに…!」 

夢の続きが見たかった。このところ体を動かしていなかったので、運動したい気分になる。

「あと30分で出発だからな。」

 レイ様はそう言って部屋を出ていったのだが。声はいつもより1トーン低いし、凄まじいほど鋭い目つきで睨まれた。

 

 そういえば…!今日はレイ様が出かける予定だと言っていたではないか…! 

 さっさと部屋を出ていったあの態度から察するにレイ様は絶対に怒っている。   


 私はブラインが作ってくれた豪華な朝食をほんの少しだけ口に詰め込んで、急いで身支度を済ませ出発に間に合わせた。  

 といっても美澄玲奈の時はいつも20分で身支度を済ませて登校していた。そのため30分もあれば余裕だし、だいたい寝坊したつもりなんてない。   

 

 余裕で身支度を終わらせた私はふんっと誇らしい気持ちになりながら屋敷の玄関へ向かった。  

 玄関では車を用意したブラインがレイ様を待っていた。

 「今朝、レイ様はお嬢様のことを心配しておられましたよ。」 

私を見るなりブラインはそう言ってにっこりと笑った。 

「そうなのですか?私が寝坊したことにご立腹かと…。」 

「あなたが目覚めないので、体調が悪いのではないかと心配されていました。」 

じゃあ、機嫌が悪そうだったのも私を心配してくれていたから…?意外とかわいいとこもあるじゃんと思い私は思わず笑顔を浮かべる。  


「なに笑ってるんだよ。寝坊女。」

まずい。レイ様に見られていた。これでは、まったく反省していないと勘違いされてまた怒りを買ってしまう。 

「失礼いたしました。」

私はとりあえず頭を下げた。(本当は寝坊じゃないのに…!)

 

 「ほら。行くぞ。」 

レイ様はそう言って車の扉を開き、先に私を中に入れてくれた。 

 これはもしや、レディーファーストというやつか…! 

 生涯女の子扱いをされたことがなかった美澄玲奈は、それだけで舞い上がってしまった。

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