余命一年なので社畜になることにしました。

噓つきの画家

第1話 息継せのび、働きます!


さてさて皆様こんにちは、わたくし、姓をいきつぎ、名をせのびと名付けられた女子で御座います。あ、ごめんなさいおなごって歳ではないですね22歳です。


先日、なんか息苦しいな~と思い34日振りに外に出て病院にて診察していただいたところ、なんと余命一年の宣告を受けました。わぁお、せのびびっくり。OMG。いえ、この息継せのびれっきとした日本人でございます。動画配信サイトで最近人気を博している外国人配信者の影響を受けたまでのこと。ご心配召されるな。拙者和の心は忘れてはおりません。


お医者様には怒られました。どうしてもっと早く病院に来なかったんだ、なんで、とすごい剣幕で。そう言われましても返す言葉が見つかりません。声を出すなんて何ヶ月振りやらで、上手く喉がわななくことがなかったのです。ごめんなさい。


したいことはないか、とお医者様は親切に言ってくれました。できる限りの協力はする、と。なんと幸運なことでしょう。きっとこの人は私を救うためにお医者様になられたのですね。素晴らしいことです。その素晴らしさに甘えるかたちで、私は働きたいです、と震える声で切望してみました。できうる限り、過酷な職場で、と。


お医者様にぐーで殴られました。ひどい。余命一年なのに。

なにするんですかー!と頑張って怒ってみたのですが、それ以上の怒声を浴びせられました。ひどい。いや聞いてくださいよわたくし働いたことがなかったのです。高校を卒業してニートまっしぐらでしたから。だから、常日頃から常人が悲鳴をあげている「労働」というものに着目したのです。ほら、労働は国民の義務って言うし。言いますよね?


そこまで力説すると、お医者様は背もたれにぎしりと倒れ込み、そばにいた看護師さんも徐に、はー、と溜め息を吐かれました。厭きられています。わたくしはそこまで非常識なことを言ったのでしょうか?


普通の職場では駄目なのか?とお医者様。

できるだけブラック臭が漂う職場がいいです、とわたくし。

あんたあほなんですか?と看護師さん。

あほなんでしょうか、とわたくし。

あほだな、とお医者様。


しばしの沈黙がわたくし達3人の間に流れます。


わかった、と。

膝を叩くお医者様。いい音でした。知り合いの職場が超絶ブラックらしく、人が入ってはすぐに辞めると。人件費がやばいことになっているらしく給料も安い、そんな劣悪なところでよければ紹介してやると、そう、仰ってくださいました。

わぁいやったぁ。


じゃあ決まったらこちらに連絡ください、とLINEを交換して(看護師さんのもついでに登録していただけました。知り合いが増えた!)わたくしはさて、と立ち上がります。そろそろ家に帰らないと。


ああ、そうそう、と診察室の扉の取っ手に手をかけながら、言うべきことを伝え忘れていたことに気付き、わたくしはお医者様を振り返りました。


お医者様と看護師さんが、此方を見てきます。


わたくしは、


「そう言えば、奥様大変でしたね。もう治りましたので早く連絡してあげてください」


そう言い残し、診察室を後にしました。







───後ろで、なにかの金切り声が響いたと思いますが、気のせいですよね?

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