13話【祭り祀るはレストライアの死と豊穣】
「死者の埋葬、滞りなく終えました」
戦いとなれば死者も出る。体に紋章なき者は蘇生医術で蘇るが、紋章を持つ者は蘇らない。
彼らの遺体は魔物と共に戦地に埋葬されることとなる。
装備していた個人財産は清められ、教会内部にある墓所でその名と共に墓標となる。
個人資産は死後もまたその者であるがゆえにその名と共に祀られる。
栄誉は称えられ、レストライアが続く限りそれもまた続くのだ。
そして没後百年経つとその装備は選定を経て、新たな持ち主の財産となり、墓標から墓碑へと名を移すこととなる。
戦後処理はまず、死者の確認をし、魔物の解体を行う。
魔物から得られるのは素材と財貨、食用のものは肉も剥ぎ取りをする。
この時の盗みはレストライアでは禁忌とされ、忌み嫌われる。
罪科は重く、死罪であり埋葬されることも祀られることもない。魔物同様の討伐をされる。戦場での盗みは、その瞬間に人ではなくなるとされるのだ。
大変な不名誉であるため、ここしばらくはそういった愚を冒すものはいない。
戦いを穢す盗みをするような人間はレストライアの民ではない。それどころか人間ですらないとみなされるという共通認識があるので当然だろう。
財貨の分配は獲った魔物の首の数で決まり、王が選定した采配師によって間違いなく、配布される。
その間に土魔術による大穴が作られ、まずは死者を、そして解体の終わった魔物を穴へと丁寧に納めていく。
全て納め終れば、祭祀神官が清めの火を投げ入れ、祈祷をする。
最後に土で蓋をする。
祭祀神官が地鎮、鎮魂の祈りを捧げれば、城下町への凱旋である。
レストライアの民は死を循環としているため、恐れない。
生まれれば死ぬ。死ねば生まれる。死は新たな人生への旅路である。
旅に出たものがいつ帰るかはわからないが、必ずこの地へと生まれ帰ってくると信じている。
栄誉の旅、凱旋である。人生を戦い、生き抜いた証であるとして、その旅立ちを祝う。
城下町での祭りは森の恵みと死者の旅立ちをこそ祭り祀るもの。
そして2日間戦い続けた戦士への誉れ称えるものでもある。
今回の死者は2名。他国の戦場で名を上げた者たちだった。栄誉とは言え、旅立ちは寂しいものだ。特に二度と会えぬ者とのそれは。
城下町では屋台が立ち、広場にリングも設置されている。
人々でにぎわう大通りを今回の戦績順に練り歩く。ここ数十年、私が生まれからこれまで、その先頭を王が譲るのを見たことがない。
お爺様ほど強い者はレストライアにはおらず、森の恵みで更に力をつける。
父と兄と私が続き、民たちの歓迎を受けながら教会へとパレードは続き、教会墓所にて死者の清められた装備が祀られる。
朗々と飲み上げられる祝詞。葬儀は涙と喝采を持って終わる。伴侶と愛人は7日の間喪に服し、祭祀の後は教会に篭る。
遺族は黒の喪服を身につけ、祭祀の間は皆がどれ程素晴らしい戦士であったかを称えてまわる。まずは王から、そして王侯貴族最後の1人まで。たったひとりの死を悼み、栄誉を称える。
「今期は歯ごたえがありましたわね」
葬儀が終われば祭りである。
城下町の喝采と喧騒で満ちる。それも祭祀の一部。
人でごった返すが、そこは教育の施されたレストライアの民。通行を整理する者がいなくとも、王侯貴族が歩き回るのに支障はでない。
夫婦、親子、恋人たち。あらゆる人が森の恵みに喜びを捧げる。
この日ばかりは淑女であれど屋台の食べ物を食べ歩くことができるのも嬉しい。
レストライアで採れた果実や野菜、森の恵みにより獲た肉。それらを使った料理があちらこちらでいい匂いをたてて食欲をそそる。
祭りは夕刻になれば広場の中央リングで王への挑戦が行われる。それを特等席で眺められるのも王侯貴族の特権である。
屋台で食欲を満たし、民衆たちとの会話を楽しむ。
「私が姫様と初めてお話したのも森の恵みの祭祀でしたね」
「そうだったわね。懐かしいわ」
シュレーゼもクレイデュオも、森の恵みの祭祀で出会い、私に仕えることを決めたと言う。
まだ成人前であったけれど、王侯貴族の子は森の恵みに参戦することができる。若干6歳。小さな淑女と呼ばれ、小さい体を活かして戦った。
幾度かの死と蘇生も経験した。全て今はもう懐かしい思い出だ。
夕刻が迫り、リングへと歩を向ける。
特等席に座り、リングに上がる祖父に喝采を送る。
祖父が此度の死者への弔辞を述べ、戦果を述べ、そして若者がリングへと上がる。
王への挑戦は5分の間、王へ一撃でも当てられることができれば褒美が得られる。祖父がこの挑戦に本気を出すことはない。
見所のある若者には一撃を与えられずとも、褒章を与えもするし、登用を行うこともある。スキルの活かし方、戦術をどうとらえるか、王は必ず一言、挑戦者へ金言を贈る。
今回も成人前、成人後の少年少女たちが王の胸を借り、1人1人と挑戦を贈られた金言を胸に、終えていく。
レストライアにとって子は宝である。それらを育むのも王侯貴族の役目であり、民の父たる王であればこそ慈愛と共に行うのだ。
全ての子らの挑戦が終わり、王が祭祀の終わりを告げようとした瞬間、伝令が叫んだ。
「エメルディオ第一王子が、陛下へのお目通りを要求しております! 宣戦布告に参ったと!」
伝令の背後には、封印術のかけられた腕輪をした王子がいた。
私に婚約破棄を突きつけた男。
そして戦場を贈ると告げた男。
まさか自らその書状を持ち現れるとは。
王子が私を見て、微笑む。
その表情は、愚鈍さを捨てた、美しくも凄まじい愛を称えた笑みだった。
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