第3話 社長の野望を背負った僕

社長が食事をご一緒してくださった際に、ほろ酔い気分で夢を語ってくださいました。

彼はパーソナル・コンピュータという個人向けコンピュータの存在を知り、とてつもない衝撃をうけたそうです。


世の中は電卓と計算用紙が肩で風切るこの時代。パソコンがそんな当たり前を革命する!


そこでまず地元の広島で『専門店』を立ち上げました。パソコンを買い求める客がいることを実感した社長は東京へ展開。


けれど、売れない。


秋葉原へ入り込めなかったこともあるでしょうが、時代が早すぎた……そこへ自衛官時代に横須賀からアキバ通いを繰り返していた僕は自信満々に助言します。


「社長、大丈夫です!」

入社したばかりの若造が何を偉そうに、と見上げる社長にドヤ顔で語る僕。


「成人向けのゲームなら面白いくらい売れます」


秋葉原を席巻する大手パソコンショップの群れ。巨大なビルがまるまるパソコンとその関連商品だけで維持されている現実を僕は知っています。

その理由はずばり、店先の棚に堂々と並ぶ『エロゲー』です。

こぞってエロゲーを買い求める紳士たちの群衆。

パソコンを牽引するのは「まさにエロパワー」なのです。


社長の目が輝きました。

「わしは、ヲタクの殿堂なんて作る気はまったくない……でも、カネになるのかぁ」


秋葉原からそれほど離れていない中野駅近くに構える某有名雑居ビル。そこの3階へ出していたファミコンショップを地下のたこ焼きや前に移動させると、社長の野望を背負った新しいお店はオープンしたのです。


店先にはパソコンのハードを並べ、ビジネス系ソフトなんか飾ってお洒落を装います。

しかし店内の棚には……アリスソフトにエルフ、当時人気を誇ったソフトハウスのゲームソフト(つまりエロゲー)を並べました。

視察で来店した副社長はその過激なパッケージ・イラストに彩られた絶景に「ぼくは逮捕されないだろうね」と尻込みするほど。


「大丈夫、すべて合法です」

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