第12話 エレーヌとの出会い

 レイドたちはロイクに連れられ、アミアンの郊外まで来た。

 さっきの街の賑わいとは打って違って、閑静な雰囲気だ。


「そろそろ見えてくるさ、ほら、あそこにあるよ」

 ロイクは指をさす。


 示した先には、こじんまりとした館があった。公爵邸のような豪華な装飾は無かったが、威圧を感じるたたずまいだ。

 他のどんな館よりも、堅牢さを感じる。


 レイドは、玄関の前まで着いた。

「さ、僕は家族のみんなを呼んでくるよ。君たちはそこで待っていてね」

 そう言うと、ロイクは家の中に入ってしまった。


「なあ、レイド様。ついに来てしまったな・・・」

 カインがそう言う。

「ああ、ついにご対面だ。緊張するな・・・」


 レイドの頬には冷や汗が流れる。エレーヌはどのような人物なのか、果たして家族は受け入れてくれるのか・・・

 ここは正念場になりそうだ・・・


 ふと、玄関の方に意識を移すと、既に開き始めていた。

 さあ、ご対面だ。


 ロイクが扉から出てきた。

「レイド君~ 連れてきたよ~ 紹介するよ、この人こそが僕の可愛いk、ブヘェ!」


 ロイクが勢いよく吹き飛ばされる。

「ロイクめ! 人様の前でも同じことを言ってるんか! この妹好きが!」

 30代くらいの青髪の男性が出てきた。父親だろうか・・・


「まあまあ~ 人前で殴る方が印象悪く見えますよ~」

 同じく母親らしき人がやってきた。


「いたたたたた・・・ 急に殴らないでよ~」

 ロイクが抗議する。

「あ? こいつには教育が足らんみたいだな・・・ だからエレーヌに先を越されるんだ!」

 なんか喧嘩をし始めたぞ。威圧が恐ろしい・・・

 


「まったく・・・ 家族みんなで何をやっているんですか・・・」

 最後に出てきたのは、同じくらいの年齢の女性だ。

 紫色を帯びた長髪が特徴で・・・ 何より・・・ 可愛い・・・


「???・・・ ?、??」

 しばらく見とれていると、ロイクが満面の笑みで殺意を向けてきた。

 レイドは正気に戻り、慌てて自己紹介をする。


「お、お初にお目にかかります! レイド・フォン・ユーラルです!」

「・・・レイド君」

 父親が反応したようだ。


「ここの当主をしている、ラジ・バイセンだ。そして、そこのバカはロイク、私の妻はソニア。そして娘はエレーヌという」

「こんにちは~」

 ソニアが手を振る。結構ほんやかとした性格のようだ。


「・・・よろしくお願いします」

 そう言うとエレーヌは顔をそらしてしまった。 


「・・・私もいきなり君が来ると聞いて驚いた。もし、来ても追い返してやろうと思っていたが・・・ 君のことはロイクから聞いている。特別に家に入ることを認めてやろう」

 そうラジが言った。


「あ、ありがとうございます!」

 良かった。認めてくれたようだ・・・


「で、何ができる?」

 ラジがそう問う。

「はい?」


「バイセン家に来る以上、何かしらのことが出来ないと受け入れることを認めない! それが自然界の摂理だ!」

 ラジはさらなる圧をかけてくる。


(ここで、今まで学んだことは生かすことが出来るのか・・・?)

 レイドは疑問に思う。ユーラル家では散々無能と言われてきた身だ。

 ただ、生きるすべを手に入れるために勉強したこと。


「どうした? 何もできないのか・・・?」

「・・・政治学、経理、軍事学、算術理論・・・」


「何?」

 ラジが聞き直す。


「私には魔術が生まれつきないので・・・ それ以外のことを頑張って身に着けたんです。まあ魔法が使えないので、無能とさんざん言われてきましたが・・・」

 そう言ってレイドはうつむく。俺は戦うことが出来ないんだ・・・


「けしからん・・・」

 ほら、やっぱりこっちでも無能と言われるんだ・・・


「魔法の才能だけで良し悪しを決める家か・・・ 非常に愚かだな!」

「え?」


「別に戦うことに魔術はいらん! 訓練すれば誰にでも戦うことが出来るんだ!」

 ラジがそう言う。


「しかも、レイド君は経理なども出来るのだろう? うちの家はそういうことはからっきしでな。税収の集計とかはエレーヌに任せっきりなんだ」


「・・・」

 レイドは黙って話を聞く。


「レイド君、君はけして無能なのではない! その力、十分に役立てるが良い!」


「・・・!! ありがとうございます! 誠心誠意勤めさしていただきます!」

 そうして、レイドはラジにお辞儀をした。 

 リヨンで重宝されたことは、やはり嘘ではなかったんだ・・・! 内心、少し期待していたけどね・・・


「うむ、で、そこのお前、何ができる?」

 ラジはカインを指さした。


「え、俺ですか? ・・・まあ、料理ですかね」

 カインはそう答える。


 ラジがまた目を変え執事に命令する。

「よし、これはまた逸材だ! セバス! こいつを厨房に連れていけ!」

「は! ただいま!」


「おい! 何すんだよ!」

 カインは抵抗するが、歯が立たない。

「うわあああああああああ!」


 カインは、どこかしらへ連れていかれてしまった。


「ふむ、元気のいい若者だ・・・ これは鍛えがいがありそうだな・・・」

 ラジが一人つぶやいている。


(これは、とんでもないところに来てしまったようだ・・・ とりあえず、エレーヌと何かしら話をしてみたいなあ)

 レイドはそう考えていた。


「そうだ、レイド君。この後、税収の集計を手伝ってくれないか? エレーヌと2人きりでお互いを知るチャンスだろう。まあ、まだ君を家族として認めたわけではないがな!」

 ラジがそう言う。


「エ、エレーヌと二人きりだとっ!! そんなことは認められない! ここはお兄ちゃんが・・・」

 ロイクがまた騒ぎ始めた。


「うるさい! つべこべ言うな!」

「ええ・・・ レイド君、ふふふ、分かっているね?」

 ロイクがこちらを見てくる。怖え・・・


「さあ、エレーヌ。彼を執務室へ連れて行くんだ。まあ、詳しい話はそのあとだな」

「・・・はい」

 エレーヌは細々とした声でそう言う。まだ、こちらへ顔を向けない。


 果たして、レイドとエレーヌは打ち解けることが出来るのか!?

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