第2話

 ピピリッタの案内で街が見えるところまで来た。 ここまでの道のりで分かったことが一つ。

 

 この案内人、マジで役に立たねえ。

 

 先ほどこの世界のことを質問しても「魔法は? 魔法のことはいいの?」と何度も聞き返してきやがったので、面倒だから魔法はどうやって使うのかを聞いてみた。 そしたらこう返ってきた。

 

 「まったく、哀れな人間ね? 最初から聞きたくてうずうずしてたんでしょ? 何よ、カッコつけて文化体系とか意味わかんないことを聞いてきちゃってさ。 最初から魔法のことを知りたいって素直に言っておけば、手取り足取り教えてあげたのにねぇ〜?」

 

 とか言いながら半にやけ顔のまま肘でツンツンしてきた、だからそれからは一言も言葉を発さないようにした。

 

 現在のピピリッタはこんな感じだ。

 

 「ちょっとー? もしもーし? このあたしをシカトするとはいい度胸じゃない! 三秒以内に返事しないと、髪の毛燃やしちゃうわよ! 三、二、一! ファイヤー! ……ねえ、ちょっと! シカトしないでよ! ちょっとぐらい怖がってもいいじゃない!」

 

 俺の顔の周りをこの調子でふよふよと浮いている。 いい加減これ以上シカトしたら面倒そうなので、イヤイヤ相手をしてやることにした。

 

 「この世界で炎の魔法を使うときは、やはりファイヤーとか唱えるんすか?」

 

 「んん〜? 知りたい? 魔法のこと知りたいのかしらぁ〜? しょうがないわね〜! このピピリッタ様がわかりやすく教えてあげるから、感涙かんるいむせびなさい?」

 

 「あーはい、じゃあ魔法より先に最重要な情報から教えてくれます?」

 

 「……魔法、使いたくないの?」

 

 なんで突然シュンとした顔してんだこいつは? どんだけ魔法教えたいんだよ!

 

 「いや、そりゃあ俺だって使えるなら使いたいんすけど。 常闇とこやみ禍神まがつかみとやらを効率よく倒すために、まずはあの街で情報収集したいんすよね。 自衛手段を考えたくても、情報がなければ何も対策立てられないでしょう? 魔法はその後、情報をもとにできることと、できないことを詳しく聞きたいんす。 こう言うのは順番が大事ですからね」

 

 「なるほど、だからさっきあんなことを質問してきたのね? あなたもしかして、結構切れ者?」

 

 感心したようにうなづくピピリッタ。 ようやく俺の質問に真面目に答える気になってくれたようだ。

 

 「確か、文化体系を聞きたいとか言ってたわね? 文化体系はあんたたちで言う中世ヨーロッパとかに近いかな? アジアとかアメリカの文化より、かなり昔のヨーロッパをイメージしてくれればわかりやすいと思うわ?」

 

 なるほど、こいつは意外と説明はうまいのかもしれない。 なんとなく状況が把握できてきた。

 

 「街に入る前に確認したいことがあと数点あるんすけど、少し休んでから街に入りません?」

 

 街は目の前に見えているわけだから日が暮れるまで話し込んでしまったとしても大丈夫だろう。 街に入ってトラブルを起こさないために、聞ける情報は詳しく聞いておかねばならない。

 

 本当だったらここまでの道中どうちゅうで聞き終わっていて、スムーズに街に入る予定だったが……

 

 まぁ、こいつの態度を毛嫌いしてまともに会話を試みようとしなかった俺にも非はあるだろう、少し大人気なかったと反省し、これからの行動方針を決めるための情報収集がようやく始まった。

 

 

 まず、重要な情報その一。 男女比と顔面偏差値。

 

 世界全体で見れば女性が六、男性が四と比率はほぼ一緒。 そして顔面偏差値だが、どうやら俺の顔は結構上位に分類されてもおかしくないらしい。 まあ、知ってたけど……じゃなくて。

 

 なぜこんなことが重要なのか、それはヒロインという属性を持った奴らの話になる。

 

 俺から言わせれば、ヒロイン=トラブルメーカーだ。

 

 これは決してめんどくさいオタクが三次元の女はうんたらかんたらと屁理屈へりくつを言いたいわけではない。

 

 考えてみてほしい、異世界転生モノのアニメや漫画を見たことがある人、大体の作品に出てくるヒロイン。 ほぼ訳ありなのだ。

 

 そしてここは現実世界、訳ありのヒロインと関わりたいと思うか? 悪徳貴族に狙われてるヒロイン属性の女を助け、その後も悪徳貴族の奴らに追い回される日々。

 

 はっきり言おう。 効率が悪い。

 

 俺はこの世界に青春しに来ているのではない、常闇の禍神を倒しに来ているのだ!

 

 とまあ、ピピリッタに何でそんな質問するの? と聞かれたのでこんな感じのことを答えたら、どん引いた顔で「あ、うん。 確かにそーよねー」と理解を示してくれた。 理解が早くて助かる。

 

 そういうわけで、この世界の顔面偏差値は普通。 顔面偏差値が高すぎて、あり得ない事だがもしかしたら俺が街に入った瞬間「なんて目つきの悪いオーガなんだ!」なんて騒がれることになるかもしれない。 しかし、俺の顔面は偏差値を普通に超えているらしい。 これで安心だ。 ま、だろうと思ってたけど!

 

 さて、最低でも聞きたいことは聞いたため、これから街に入る。

 

 街に入った後の注意点。 まずはピピリッタを一般人に見られないようにすること。

 

 ピピリッタは精霊だ。 この世界で精霊を連れている人はいることはいるようだが、かなり希少だし、精霊使い=強いという認識があるらしい。 面倒ごとに巻き込まれないように隠れてもらったほうがいい。

 

 俺が今着ているのは、仕事帰りだったからカジュアルなシャツに普通のスラックス。 スーツ通勤でなく私服通勤だったが、最低限のマナーを守るためにシャツは必ず着ていた。

 

 ので、ピピリッタは街に入ったら胸ポケットなり何なり好きなところに入ってもらう。 案内人のスキルで脳内会話も可能なようだから、もし必要なら脳内で会話を試みることにする。 まずはテスト。

 

 『さて案内人、この街で宿を探したいんですけど、どこにあるかわかります?』

 

 『宿は確か、そこの角を左に行って、二本目を右よ。 でも、宿に泊まるなら身分証が必要なんじゃない?』

 

 『俺、運転免許証しかないですよ?』

 

 『あんたバカ? そもそも財布持ってないから運転免許証持ってないでしょ? っていうか、運転免許証なんか見せても鼻で笑われるか珍しがられるわよ?』

 

 脳内会話は良好のようだったが、面倒な問題が増えてしまった。

 

 そう、俺は目が覚めてすぐに気がついたのだが、雷に打たれる前に持っていたバックも、ポケットに入れていたタバコもスマホも無くなっていた。 つまり、ピピリッタにさっき渡された軍資金しか持っていない。

 

 身分証か、盲点だったなぁ。 そんなことを思いながらまず最初の問題に取り掛かる。

 

 『案内人、身分証の作り方ってどうするんです?』

 

 『その案内人って呼び方、やめてくれる? ピピリッタ様と呼びなさい!』

 

 『ピピリッタ氏、身分証の作り方を早く教えろ下さい』

 

 『氏って何よ、氏って! それに何そのムカつく敬語! ……まあいいわ。 身分証なら冒険者協会に行くのが早いんじゃない?』

 

 『星と深淵を目指すんですか?』

 

 『……ちょっと言ってる意味がわからないわ』

 

 この案内人、ノリが悪い。 そんなことはともかく、早速出ました冒険者協会。 またの名をギルドとでもいうだろうか?

 

 ここに登録すると厄介な依頼を押し付けられたり、面倒な登場人物に絡まれたりと、考えるだけで億劫おっくうになりそうなイベントが至れり尽くせりだ。

 

 『ちょっと、ものすごく負の感情が伝わってくるんですけど?』

 

 『負の感情? もしかしてピピリッタ氏。 俺の考えてる事わかるんです?』

 

 『考えてる事までは分からないわよ。 ただ、案内人として魔術契約で結ばれてるからあんたの感情が何となくわかるわけ』

 

 『ほほう。 ではイライラしたりするとピピリッタ氏にも伝わってしまうと?』

 

 『そうね、さっき超イライラしてたのは知ってたんだからね?』

 

 『なんかその、ごめんなさい』

 

 素直にペコリと頭を下げてしまったが、今は脳内会話で話しているのをすっかり忘れていた。 すれ違った女性に変な目で見られてしまった。

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