参上! 怪盗イタッチ

ピラフドリア

第1話 『怪盗イタッチ』

参上! 怪盗イタッチ




第1話

『怪盗イタッチ』




 サイレンの音が鳴る。月明かりがビルから差し、美術館の屋根を照らす。そんな屋根の上に赤いマントが靡いた。




「いたぞ! 怪盗イタッチだ!!」




 警官の声と共に照明が一斉に屋根を照らした。そこには赤いマントを羽織り、二足歩行するイタチの姿。

 イタチはニヤリと微笑み、美術館を囲う野次馬と警官に告げた。




「予告通り、ライトニングサファイアを頂きに来た」






 これは動物達の暮らす世界での物語。

 かつての記録では人類が文明を築いていた。しかし、歴史のある瞬間から、人類の歴史は動物の記録へとすり替わった。

 人類は数を減らし、それに比例するように動物人間が増加した。

 そうして今は動物達が世界の中心にいる。









「怪盗イタッチだ!! イタッチが現れたぞ!!」




「あれが世界一の怪盗、イタッチか、すげー!!」




 野次馬の動物達が美術館の屋根を見上げる。野次馬達がスマホで撮影をしているが、イタッチはお構い無しに屋根から飛び降りた。

 三階建ての美術館。屋根から地上に飛び降りるが、無事に着地してみせる。

 動物の脚力とバランス力、そして鍛えた身体でそんな高さから着地しても怪我はない。




 着地したイタッチが正面を見ると、警官のフクロウを先頭に警官達がぞろりと並ぶ。




「イタッチ。今日こそ逮捕してやるぞ」




「フクロウ警部か。毎回しつこいな」




「お前を捕まえれば、俺もお前を追いかけ続けなくて済むようになる」




 フクロウ警部は手錠を取り出して、ジリジリと距離を詰める。




「確かに捕まれば楽かもな。だが、俺には目標がある、そのためには捕まるわけにはいかないんだ」




 イタッチはマントの裏に仕込んでいた、折り紙ケースから赤い折り紙を取り出した。片面は赤く、片面は白。そしてその折り紙を堂々と掲げる。




「抵抗させてもらうぜ。折り紙マジック!!」




 イタッチは折り紙を折る。空中であるが、器用に折り紙を折り曲げて、形を作っていく。そして完成したのは、




「折り紙の剣。完成だ!!」




 折り紙の剣が完成した。剣は完成すると、折り紙であったはずなのに、サイズが大きくなる。そして80センチほどの長さに変化した。




 イタッチは剣を握りしめると、フクロウ警部の持つ手錠に剣を振る。鉄で出来ているはずの手錠は、剣によってあっさりと切られてしまった。




「なっ!?」




 イタッチの持つ折り紙。それは特殊な折り紙である。作ったものの特徴を折り紙に付与することができ、どんなものにも形を変えられる。

 剣を作れば剣となり、銃を作れば銃となる。




 手錠が切断され、フクロウ警部はオロオロと後ろへ後退する。




「さっきまでの威勢はどうした? 来ないなら侵入させてもらうぜ」




 イタッチは剣で警官達を牽制しながら、後ろに大きく飛び上がる。そして背後にある美術館の二階の窓を割りながら、内部へと侵入した。




「ほぉ、ここが月島美術館か。結構広いな」




 イタッチは照明が消えて、暗い美術館の中を歩いていく。部屋の形は覚えている、しかし、お宝のある部屋までたどり着くために、警官の動きを確認する必要があった。




 イタッチは耳につけている無線に話しかける。




「アン。内部の経路を頼めるか?」




 すると、無線から少女の声が聞こえてきた。




「はい! 任せてください!!」




 イタッチは無線の少女のナビに従って、室内を進んでいく。右へ曲がり、左に曲がり、上手いこと警官がいる通路を回避していく。

 そうして進んでいき、ついにお宝のある展示室へと辿り着いた。




「ここにお宝があるんだな」




 イタッチが扉を開けようとした時。




「待て!!」




 後ろから叫び声が聞こえる。振り返ると、そこには二足歩行で歩く、警官服のネコがいた。




「ネコ刑事か!!」




 ネコ刑事は拳銃をイタッチに向けながら、無線で仲間と連絡を取る。




「フクロウ警部! イタッチを発見しました、展示室の前です!!」




 拳銃を突きつけられている状態だが、このまま待っていたら、応援が駆けつけてしまう。




「悪いが先を急がせてもらうぜ!」




 イタッチはマントから折り紙を取り出す。そして折り紙で爆弾を作った。




「え!? 爆弾!?」




 驚くネコ刑事に爆弾を投げる。ネコ刑事は落下の衝撃で爆発しないように、拳銃を捨てて爆弾を受け止めた。




「あ、あぶねぇ〜」




 しかし、爆弾は衝撃で爆発するのはもちろん。時間でも爆発する。爆弾の正面にはタイムが刻まれており、残り3秒となっていた。




「爆発するぅぅぅぅっ!?」




 ネコ刑事が慌てているのを後ろに、イタッチは展示室の扉を開いた。

 後ろでは爆発音が鳴り、ネコ刑事が倒れている。しかし、爆発による被害はなく、爆発音がなっただけで、実際には爆発していない。

 音が鳴って相手を驚かせるだけの、偽物の爆弾だ。だが、ネコ刑事は音で驚いて、泡を吹いて気絶していた。




「さてと、あれがライトニングサファイアだな」




 展示室の中央にはビリビリと電流の流れる宝石が展示されていた。ガラスのケースを打ち割り、イタッチら宝石を手にした。




「ライトニングサファイア、ゲットだ」




 イタッチがお宝をマントにしまうと同時に、展示室に応援が駆けつける。やってきた警官の中には、フクロウ警部の姿もある。




「警部!! ネコ刑事が倒れています!!」




「遅かったか。ネコ刑事を治療しろ」




 ネコ刑事を警官達に運ばせて、フクロウ警部はイタッチの前に立ち塞がる。




「さっきは剣にビビってしまったが、今度はそうはいかんぞ」




「流石に今度は脅しじゃ無理そうだな」




「ライトニングサファイアを返してもらうぞ」




 フクロウ警部は拳銃を取り出して、イタッチに銃口を向けた。




「本気……。みたいだな」




「俺はいつでも本気だ。さぁ、諦めて捕まれ」




「そうはいくかよ」




 イタッチは折り紙を取り出すと、拳銃を作った。




「なら、早撃ち勝負でもしようか」




 イタッチはそう言いニヤリと笑う。だが、




「ほぉ、この俺に早撃ちで勝負か……。俺の実力を知ってるのに、良い度胸だな」




 フクロウ警部は余裕の表情だ。それもそのはず、フクロウ警部は警視庁の中でもトップクラスに銃の腕に自信があった。




 イタッチは背を向ける。フクロウ警部は部下に手出しをさせないように命令し、自身も後ろを向いた。

 一歩、二歩、三歩ッ!!




 二人は振り向く。そしてフクロウ警部はイタッチの持っている拳銃を弾き飛ばした。




「俺の勝ちだな、イタッチ!! さぁ、逮捕だァァァ!!!!」




 フクロウ警部は勝負に勝ち、声を上げる。しかし、次の瞬間、事態が急変した。

 美術館の壁紙割れて大きな穴が開く。夜空の下に、ビルの立ち並ぶ景色が見える。

 そして壁から二足歩行のウサギが顔を覗かせる。コートを身に纏い、夜だというのにサングラスをしている。

 彼が壁に穴を開けた人物だ。彼は刀を鞘にしまい、イタッチにグッと親指を立てた。




「準備はできたぜ。相棒!」




「良いタイミングだ。ダッチ!!」




 イタッチがフクロウ警部に早撃ち対決を挑んだのは時間稼ぎ、このウサギの登場を待っていたのだ。

 イタッチはダッチと呼ばれたウサギの元へと駆ける。




「逃げるぜ、ダッチ!」




「おう!!」




 イタッチとダッチは壊れた壁から外へと脱出する。ジャンプで外に飛び出し、下に停めてあった車に飛び乗った。

 赤いオープンカーに乗り込み、イタッチは運転席でアクセルを踏む。




 車は猛スピードで発進して、バリケードを破壊して包囲を突破した。







 東京都にある、とある住宅街。そこに小さな喫茶店があった。手前から奥まである縦長のカウンター席と丸椅子のみで、カウンターの向かい側には厨房と暇な時に店員が読むのだろう、棚には本が並んでいる。

 厨房のさらに奥にある扉を開けると、二階につながる階段と倉庫に繋がる扉のある個室があり、二階は住居、倉庫には厳重な鍵がかけられている。

 店の大きさから10人以上の客は同時には入れず、駅から離れた場所にあるためか、常連客を中心に扱う喫茶店だ。




「よ、イタッチ!」




 コートにサングラスをかけたダッチウサギが喫茶店に入る。そして店員であるイタチに手を振った。イタチは深くため息を吐き、ウサギに奥の席に座れと目線を送る。




「ここではイタッチと呼ぶなよ……。それでダッチ、なににする?」




 ウサギのダッチは一番奥の席に座り、壁に寄りかかりながら、カウンターに置かれたメニューに目を通す。しかし、目を細めて口をムの字にすると、首を傾げた。




「……んぅ〜、なんでも良いや、適当で頼む」




「はいはい……」




 イタチは厨房でコーヒーを淹れる。イタチがコーヒーを淹れている間、暇なダッチは店内をキョロキョロと見渡した。




「なぁ、イタチ。アンはどうした?」




「ああ、今は上で休憩中だよ」




「そうか……」




「呼ぶか?」




「いや、用事はないよ。どうしてるのか気になっただけだ」




 イタチはコーヒーが完成して、ダッチの前に置く。




「ダッチに呼ばれたら、アンは喜びそうだけどな」




「……」




 ダッチは返事はせず、コーヒーの手にして一口飲む。




「うん、美味いな」




「自慢の豆を使ったからな。そう言ってもらえるのは嬉しいよ」




 ダッチがもう一口飲もうと、コーヒーを口に近づけると、厨房の奥から階段を駆け降りる音が聞こえてくる。

 扉が開き、厨房の奥にある扉が開くと、フード付きのパーカーを着た子猫が現れた。




「すみません、イタチさん。休憩時間取りすぎました?」




「いいや、大丈夫だよ、アン。一人しか客来てないから」




「あ、いらっしゃい……ってダッチさん」




 アンと呼ばれた子猫は、ダッチにぺこりとお辞儀をする。それに返すようにダッチは手を挙げて返事をする。




「よぉ、アン」




 ダッチの返事にアンはニコリと笑顔になる。そんな二人の様子に、イタチはニコニコと微笑む。

 ゆったりとした曲が店内を包む。ダッチがコーヒーを一口啜り、カウンターに置く。カタンと音を鳴らしてコップが置かれると同時に、イタチはダッチに目線を向ける。




「それでダッチ。ただコーヒーを飲みに来ただけじゃないんだろ。どんな仕事だ?」




「ああ、面白そうなお宝の情報が手に入ったんでな」





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