第22話 真影①

Sは臆病で警戒心が強いくせに一度心を許した相手にはどこまでも図々しく、相手にも寛容を求めた。


身内の人間に対する情が深く、側に置いた人間の世話を焼くのが好きな人だった。


歯に衣着せぬ指摘もするけれど、徹底的に味方してくれた。


相手のためを思って言いたくない言葉をかける時はいつもより慎重でなぜか本人が苦しそうな表情をしていた。

その顔を見ると、なぜだか弱く小さな生き物をいたぶるような罪悪感に駆られて最後にはこちらから折れるしかなかった。


必ずしもいつも正しいとは思わないけれど、竹のように真っ直ぐな人だった。


彼女を貫く正義は時に私をひどく傷つけた。

相容れない相手だとつくづく思い知りながら、己を偽ってでも側にいたかった。

内側に抱えている矛盾も葛藤も悟らせないよう注意を払って過ごした。

そのために自分を曲げるのは、サイズの合わないガラスの靴に足を押し込むように窮屈で甘い痛みを伴った。




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