下
一.会議
——数日後、勘解由小路侯爵家の会議室には勘解由小路侯爵と嫡男。片桐伯爵と嫡男である晶彦。不破子爵と嫡子。各当主が一席を空け、机を囲んでおりました。その厳かな雰囲気の中、遅れて軍服姿の速水伯爵が側近を伴い入室いたしました。
「勘解由小路侯爵。片桐伯爵。不破子爵。ならびに他の皆様。参上が遅れ、申し訳ありません。速水尚、ただいま参上いたしました」
勘解由小路侯爵が深々と頭を下げた速水伯爵に優しさを交えた厳格な口調で、
「速水伯爵、お忙しいところありがとうございます。お座りになってから、早速ですが、状況をお聞きしても?」
「はい。爆破事件の捕縛を実行し、それに反感した、取り逃がしていた首謀者が政界内に散らしていた者を使い軍務省に大きな損傷を与えました。現在、首謀者を始め、関わった者は皆捕えて、聴取を行っております。尚、軍務省は立ち直りつつあります。爆破事件から始め、政界に恨みがあると言われておりましたが……それは、どうやら違うようなのです。首謀者は国家統一党。それに関わった者は買われた華族や華族崩れ。そして、お金に困った国民や過激派の国民。そして兵士傭兵賊崩れの者たちです」
「……国家統一党の全てですか」
「えぇ、国家統一党。この国を牛耳る、与党四党です。その者らは、どうやら戦争を起こしたいようですよ。友好国などと……陰ではそういう話をしているとか。……改めて確認したいのですが、日ト
速水伯爵は勘解由小路侯爵と不破子爵を交互に見る。猛禽類の眼のような鋭さを含めて。
「日ト高党は国家統一党と戦うべきして組織された。そのような思想は一切無い。」
「志環党もそのように思ってはおりません。党首の言葉を借りれば、如何なる時も国民の小さき声を聞け、です」
「良かったです。その言葉に違うことがあれば、私直々に捕らえますので。ゆめゆめお忘れなきよう。……やる事は決まりですね。政界は任せます、皆様。命の安全はお約束しましょう。私と谷崎が守ります。野党が代わる瞬間を。戦争が起きなければ困って食べていけない人がいる。それを見抜くのは国民だけでないことを、政治家としての在り方を示してください。これは、私、私たち武官には出来ぬことですのでお願いします。……嵐のようで申し訳ありませんが、軍務省の混乱は未だ続いておりますし、この後は政界の論争でしょう。私はそちらの対応に赴きます。失礼いたします」
速水伯爵は瞬間移動でもするかのように部屋を出て行った。呆気に取られた不破子爵は伺う目をして、
「……テキパキとまとめられてしまいましたが、良かったんですか、勘解由小路侯爵?」
「会議の根幹を捉えて話されて且つまとめていらっしゃいましたから言うこと無しです。あまりにも一方的でしたが。……速水伯爵は、知にも優れているのですね」
「……速水伯爵は、頭脳明晰です。分かりやすい例えですと、學修院大学でエリートばかりの英文学科。そこで首席を取れるレベルです。肩書きが邪魔過ぎて、見えないと思いますが」
片桐伯爵家の嫡男である晶彦が、友人である尚について、ただ独り語りするように呟いた。速水伯爵と親しい者として、印象を残すために。
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