Episode33 Round 2 エルドラル・ミリエン




 ミリエンは一瞬言葉を失ったが、すぐに表情を取り繕い、不敵な笑みを浮かべる。


「どうやって突き止めたのかはわからないが、確かにその通りだ。だが、そんなことを突き止めたところで、お前が勝てるわけではないだろう?お前は魔力ナシなんだからさ。」


 そんなミリエンの言葉を受けたカナデは、


「さぁ?…」


 負けじと不敵な笑みで応えて見せて──、


「それはどうかなッ!」


 そうしてカナデは、突然顔貌を一変させ、刹那の間にミリエンのもとへと踏み込む。


「何ッ!」


 その動きはあまりにも素早く、ミリエンが気づいた時にはすでに、眼前へと短剣の矛先が迫っていた。

 しかし、ミリエンも大司教とあって、すんでの所でなんとか身を躱してみせ、カナデから素早く距離をとる。


(くそ、少し警戒させ過ぎたか…)


 カナデとしては、初撃で沈めておきたい所だったが、相手はやはりこの世界のトップクラス、幾らカナデほどのスピードはないといっても、戦闘スキルにおいてはカナデでは手も足も出ない。


(この力を使えば、間違いなくやれる、が…)


 セレノアの力の一部を借りれば、ミリエンをやりきれる自信があったが、その力の代償は重く、ハイヴォスというもう一人の難敵が居る以上は、カナデはそう簡単にその力に頼る気はなかった。


「魔法での強化もなしにその身体能力……世の中とんでもない奴がいたもんだな。」


 ミリエンはカナデを対等な敵と判断したのか、表情を硬いものへと変え、そうやって感心してみせると、徐に片手を前へと突き出す。

 すると、突然にその突き出した片手の中に、漆黒の長剣が現れ出た。


「今度はこっちから行かせてもらうぞ!」


 そんなミリエンの言葉が宙を舞うと同時に、ミリエンはカナデめがけて突進する。カナデはその攻撃を、ある程度余裕をもって躱しきり、間髪入れずに反撃を試みる。


 だが──、


 ミリエンの剣さばきは、カナデの想像を絶するものだった。


「くっ!」


 カナデが振り下ろした短剣は、ミリエンの長剣の腹でもって受けられ、鋭い金属音を立てながら刃先を斜めへと逃される。それに態勢を崩されたカナデは思わずよろめき、一瞬の隙を晒してしまう。


(まずいッ!)


 そんなカナデの隙を、大司教たるミリエンが逃すはずはなく、すかさずに鋭い刃がカナデめがけて振り下ろされる。


「ぐッ…」


 カナデは己の身体能力でもって、なんとか咄嗟に短剣を構え、ミリエンの攻撃を防ぎ切る、が、間髪入れずに第二撃が襲い掛かり、ミリエンの攻撃は苛烈さを増すばかり。

 そんな、まるで嵐のような勢いで繰り出される攻撃を受け続けるカナデの息遣いは次第に荒くなり、心臓の鼓動も加速していく。

 そうして遂に、短剣の腹でミリエンの攻撃を受けたカナデは、後方へと大きく弾き飛ばされた。


「どうした、もう降参か?」


 そんなカナデの様子を見て取ったミリエンは、余裕の笑みを浮かべる。


(クソっ)


  カナデは悪態をついて、強く歯を食いしばった。

 なんとしてでもこの場でミリエンを倒し、できるだけ早く次へと向かいたいカナデにとっては、状況は最悪といえた。


(まさか、ここまでミリエンの剣技が凄いなんて思っても見なかった……)


 想定外といえる現状の中で、以下にすればミリエンを倒すことが出来るのか、カナデは刹那の思案に耽る。


(こうなったら、一か八か勝機が少しでもあるなら──、)


 そうしてカナデは、事前に考えていたリスキーな作戦の一つを実行に移すことを決める。


「やるしかねぇよな」


 そうやって、カナデはポツリと呟いて、


「いっけぇ!」



 そうして、力強く叫んだカナデのその声と共に、途轍もないほどの速度で、カナデの放った何かがミリエンに向かって飛んでいった。









あとがき

投稿遅れてしまい、申し訳ありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る