Episode24 変わった男





 ──そこは活気溢れる、賑やかなみやこ、城郭都市レガスディア。


 クゥエイフ辺境伯の治世により、 隣国のナサリアとを円滑に繋ぐ交易の盛んな都市。

 そんな多数の様々な人が訪れる、商業の一等地とも呼べる場所で、高級店が建ち並ぶ通りの一画に店を構える、高級武具店“ブレイドエッセンス”。

 そこは高級店の名に恥じず、優れた武具のみが取り揃えられており、冒険者ならば誰もが“ブレイドエッセンス”の名の付いた物を所持する事に、憧憬を抱く、そんなブランド力を持つ店の店内で──、



 商品を見るでもなく、椅子に座って顎に手を置き、ひたすらに頭をフル回転させる青年がいた。


「今すぐにでもこの街から出ていくのが最善か?…いや、でも既に見張られている可能性すらあるな。」


 ブツブツと呟きながら、望む未来をつかむ為に様々な方法や可能性を思考するカナデは、30分もの間そんな事を続けていた。


(くそ、二人の命が掛かっていると思うと、行動を起こせない。)


 カナデの頭の中は、状況を打開する為の案が出ては、暫くしてそれに対する懸念点が出て、を何度も繰り返していた。



 そんな事をしているカナデは、店内において明らかに目立っており、イルやエフィが時折、カナデに心配そうに視線を向けるのみではなく、客や店員からもカナデは好奇の視線を向けられていた。


 そんなカナデのところへ──、



「大丈夫か、兄ちゃん。」


 そう言って声を掛けてくる男がいた。


「あなたは…」


 カナデはそんな男に見覚えがあった。

 なぜなら、その男は前回、カナデが虚構世界を創り出すに至ったきっかけの人物、


 あの怪しげな黒の外套を身に纏った男だったからだ。


(…修道服じゃないが、この人も黒ずくめ。奴らと関係があるのか?)


 直近で黒ずくめといえば、喫緊の課題たるあの黒の修道服に身を包む集団、アレクサンドラス・ハイヴォスが率いる神聖使団の存在があった為、カナデは前回より一層にその男への警戒を強める。

 しかし、カナデは表向きその警戒をその男に向けて出すつもりはなかった。

 だが、瞬時の感情のコントロールは難易度が高いもの、カナデは思わず疑惑の目を男に向けてしまう。

 それに対してその男は、


「おっと、すまねぇな。怪しいもんじゃあ、ねぇんだ…って顔も見えねぇやつには、言われたくないだろうけどな。まぁ、実際のところ、ずーっとそこで気分悪そうにしてやがったから、声掛けさせてもらっただけなんだ。」


 男は疑惑の目を向けられた理由を、いきなり声がけを行った為だと認識して、そう弁明をした。


「心配をお掛けしたみたいで、すみません。でも大丈夫です。だいぶ良くなってきたので…」


 カナデは少し安堵しながらも、図らず向けてしまった疑惑の目を引っ込める。



 すると男は──、



「なぁあんた、本当は…体調が悪くて、そこで気分悪そうにしてたんじゃあなく、」



 その男はそこで一拍置いて、





「何か困りごとがあって、そうやって気分悪そうにしてたんじゃねぇか?」



 カナデの確信をついた問いを投げた。




 (──ッ!)



 カナデは心臓が飛び出るのではないか、と思うほどの激しい動揺に襲われる。

 そんなカナデの心拍は“どくどく”と、まるで周囲にまで聞こえてしまうのではないかというほどに、強く早鐘を打っており、そんな状態にあるカナデは、男に対して二の句を継ぐことが出来ない。



「すまねぇな。驚かせようと思って言ったわけじゃねぇんだ…言えねぇことなら聞いてすまなかった。」


 だが男はそれ以上の追求をカナデに行わず、

 それだけの言葉を残すと、“またな”と言って去っていった。



「大丈夫?カナデ。何か言われたりしたの?」


 そこへ、一部始終を目撃していたイルがやってきて、心配そうにカナデに問いかける。



「……いや、何でもない。」





 強く脈打つ心拍を静めようと、胸を手で押さえるカナデは、イルの問いに、ただそれだけの言葉しか発せなかった。







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