Episode10 虹彩異色の少女の過去 Ⅰ





「えいっ!」


「やったな!」


 近くをながれる小さな川で、私と同い年くらいの子達が、水を掛け合ったりして遊んでる。


「イル!そんなに窓に近づいて、外を見てちゃ駄目って言ったでしょ。」


 お家の窓からはみ出して、ジーと外の様子を見つめていた私に気が付いたお母さんが、私を叱ってくる。


 だけど叱っているのに、お母さんの声は全然怖くない、優しい声。


「お願い。あなたの為なの………あなたにもあんな風にのびのびと遊ばせてあげたかった。ごめんねイル。お母さん達が悪いの。ほんとにごめんね。」


 そう言って私に近寄って、私をそっと抱きしめてくれたお母さんの目には、ちょっとだけ涙が流れていた。


「ううん。いいの。………ごめんなさい。いつも言われてるのに。」


 私がそう言うと、お母さんは私を抱きしめる力を強くした。



_________




 深く教えてくれないけど、どうやらこの眼がだめみたい。

 右、左で色が違うこの“オッドアイ”の眼が。

 今は片方の目を眼帯で隠してる。

 村の人たちには、片方の目は小さい頃にはねた火の粉が眼に入って、見えなくなった事になっている。

 私がオッドアイなのを知っているのは、お母さんとお父さんだけだ。このお家からもどうしてもなご用事がなければ、外には出ない。

 だから、さっきは外を見ていたの。

 私の知らない何かがある、そんな外の世界を。




_________





 今日も私は窓から外を見つめていた。お母さんから言われても、やっぱりついつい見てしまう。今日はお家にお母さんはいない、お父さんもだ。二人共、畑仕事に行っている。


「よう!イル。体の方は大丈夫か?」


 そこに、3人の子達がやってきた。あの、水遊びをしていた子達だ。体は大丈夫か?と聞いてきたのは村で私は体が弱いことになってるからだ。なるべくオッドアイの事を知られないように、家にいつも居るのを変に思われない為の設定だ。


「うん。クレン君、今日はちょっと調子が良いぐらいだよ。」


「そっか、それは良かった。」


 この子は、私がこうやって窓から外を見つめていると、元気よく、いつも声をかけてくれる男の子だ。


「じゃあさ!調子がいいならたまには外に出てみないっ?」


 そう言ってきたのは、太陽のような笑顔をした、女の子のリィフィちゃんだ。


「いや、いいよ私は。お外に出るとお母さん達に怒られちゃうし。」


「…大丈夫だろ。少しくらい。調子がいいならむしろ体動かしたほうが、逆にいいかもよ。」


 ちょっとひかえめにそう言うのは、この村では神童だとさわがれていたりもするカイル君だ。



 私はその言葉に“そうかも”と思わされてしまった。

 出てはダメと言われても、やっぱり外に出てちょっとぐらい遊びたいと思ってしまう。


「そう、だね。………うん。じゃあちょっとだけ。」



 だから私はうなずいたのだ。





_________





「ねぇ、何して遊ぶのっ?」


 私は、嬉しさの混じった声でそうたずねた。

 自分の出した声を聞いて、自分が思ったよりもだいぶわくわくしているみたいだと思いながら。


「あぁ!今日はちょっと森を探検してみようかなって。」


 私のそんな質問に、クレン君がハキハキとそう答えた。


「えっ?森って大丈夫なの?」


 村には子供たちが入るのは危ないからと、森には入っては行けないというおきてがあるのだ。だから私は、そう質問した。


「平気じゃないか?少し入るだけだし。村の中じゃ、もう遊び飽きちゃったんだ。今日は森に行こうって3人で決めてたんだよ。」


 と、カイル君が森に行こうとしていた理由を教えてくれた。


「なにか、まずいなって思ったら、直ぐに村に逃げ込めば大丈夫だよ!」


 そう、リィフィちゃんもカイル君に続く。


「そうだよね。」



 私はリィフィちゃんの意見に、それもそうだなとうなずいた。





_________





「ふんふん」


 リィフィちゃんが森の中を鼻歌を歌いながら進む。

 今私がいる場所は、村から森の中に入って少し歩いたところだ。

 森は木が気持ちよさそうに生えていて、とても気持ちのいい場所だった。


「すぅー、はぁー」


 私は森の空気を思いっきり吸って、そして吐き出した。それだけで、とっても気持ちが良くなった。

 私は、森に来てよかった、と心から思った。

 それは、鼻歌を歌ってルンルン気分で歩いているリィフィちゃんも同じだと思う。クレン君とカイル君も気持ち良さそうに周りを見て歩いている。


「それにしても拍子抜けだなぁ。なんにも出てこないじゃん。魔物が出るから、子供は森に入っちゃ駄目って、俺達が迷子になったら探すのが面倒だから、怖がらせて森に入らせないようにしてるだけなんじゃないのか?」


 カイル君が、大人の人たちが森に行かせないようにしていた理由をそう予想して、呆れるようにそう言った。


「確かにそうかもな。それにしても、これならまた明日来てもいいかもな!」


 カイル君のそんな予想にうなずいて、クレン君は明るい口調で次の予定の話をする。


「ねぇねぇ、あの樹の下で休憩しない?パンとかお家から持ってきたよ!」


 リィフィちゃんが楽しそうにしながら、一本の木を指さしてそう言った。


「いいね!私みんなとゆっくりお話したかったんだっ!」

「リィフィ!パン持って来るとかでかした!」

「リィフィは気が利くなー。」


 私、カイル君、クレン君がそう返すと。リィフィちゃんは少しはにかみながら、



「じゃあ、行こっ!」



 と、言って私たちは指さした木の下へと向かった。





 




あとがき

イルが7歳の時のお話です。


お読みいただきありがとうございます。

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