第29話 階層支配者

 使った分のポーションを出して貰った後、【白い牙】と分かれてから話し合った通り、下階層を目指してダンジョンを駆け、階層支配者フロアマスターの広間前に居る

 白い牙彼女達が先に通ったからか、通路と広間には魔物は居なかった。


「あの人達もここから最短距離で出口に向かってたのかしら」


「もしかしたら2階層目で少し無理をして、帰りの余力がギリギリになったのかも知れないな」


 童謡にあるとおりゃんせの中に「いきはよいよい かえりはこわい」、って一節もある、自分達も無理や欲を出せば同じ事になるかもしれないし、その辺は程々にしないとな。

 さて、それよりも今は階層支配者フロアマスター戦だが。


「部屋に罠は無さそうだね、相手もあそこに居るFランクの魔物ホブゴブリンと、取り巻きのゴブリン10数匹だけ」


「皆のレベルって今どれくらいだっけ?」


「私は18に」


「16だよ」


「13です」


 これ全部をティナ1人にってのは、倒せるかも知れないけど危ないよな、ならユウカと共闘で補助魔法を掛けてもらったり、死角から攻撃しようとしてるのを片付けてもらうか。


「じゃあユウカとティナは共闘してあいつ等を倒してくれ、方法は2人の自由だけど、範囲魔法はオレじゃないから巻き込むと危ない、やめたほうがいいと思うぞ」


 多分ティナに範囲魔法が当たったら下手したら命を落としかねないし、念の為で釘を刺しておく。

 こっちは分かってると思っていても、実は分かって無かったなんてガチでよくある話だし。


「がんばって行こう!」


「う…うん……」


 やる気満々のティナに対して、引きつった顔をするユウカ、それだけで何を考えているのか援護待機の2人には筒抜けである。


(あれはさっさと終わらせて次に行こうなんて考えてるわね、この共闘の意味を本当に分かってるのかしら)


(あれはまだゴブリンが苦手って顔だなぁ、まあ、だから一緒させたってのもあるけど、それでも共闘がどういう事かちゃんと分かっているならいいけど、無ければ……なまじ力を持っちゃってるのが枷になるかもな)


「それじゃ私が前に出るね!」


 ティナが囲まれない様に右端に居るゴブリンから攻めて行く。


「てやぁぁあぁぁ!」


「ゲッ!」

「ゲガッ!!」


 素直に真正面から行ったら直ぐ囲まれて死角に入られるのを理解してるな、ソロの経験はパーティーを組んでも十分活きてる。

 端のゴブリンから胸を突き刺し、そのまま下に掻っ捌き、次のゴブリンの喉を斬り裂いている、ティナがここまでしっかり多数の動きを見て対処出来るのは嬉しい誤算だな。

 続いてユウカは。


「ホント……ゴブリンは嫌いなんだってばっ!!」(初級雷魔法ライトニングショット


 魔法で次々とゴブリン撃ち抜いていく、1…2…3、4………こりゃティナの事は見えてないな。


「アヤカ的にあれはどう判断してる?」


「ダメですね。私やカズシさんだけであれば100歩譲ってですけど、ティナさんのレベルを上げようって事なのにこれでは。補助的な魔法も一切掛けてませんし」


「やっぱりそうなっちゃうか、さっきオレも考えてたんだけど、なまじ力を持っちゃってるから気付けないのかもって。今はいいけど、それぞれ単体で動いて勝てない魔物が出た時がまずい」


「何を言いたいのかは分かります。きちんとした連携が出来れば、そんな相手でも勝ち筋が見える、もしくは逃げきれる可能性がある、という事ですね」


「正解」


 今オレ達が出来るのは、個人の動きが結果として連携に見えてるだけで、基から連携を意識した動きじゃない。

 このままじゃ遅かれ早かれどこかで躓く、その躓きの結果の中から、最悪を考えれば何とかするべき事だ。


「……残りは階層支配者フロアマスターだけ、せめてティナさんに」


 どうやら考えてる間に残りは階層支配者フロアマスターだけみたいだな。


「そこ!」(初級雷魔法ライトニングショット


 あっちゃぁ、言った傍から階層支配者フロアマスターの頭をぶち抜いちゃってる、アヤカは………厳しい目を向けてらっしゃる。

 ダンジョン内で喧嘩はマズいし、やんわり指摘するか。


「やっぱりユウカの魔法は凄いね、ホブゴブリンを一撃で倒すなんて」


「でしょでしょ!」


「ドヤ顔してる所すまないんだけど、出来ればユウカはもっと援護に徹して欲しかったかなぁ、補助魔法とか死角から攻めてくるヤツを攻撃とか」


「でも、ユウカもしっかり魔物を倒してましたし」


「ちゃんと共闘して戦ってたよ」


 この一言にアヤカが「はぁ」と溜息を付く。


「あれはあなたが1人で倒してただけよ、とても共闘とは呼べないわ、一度今の自分の行動を別の第三者視点で考えて見なさい」


 その言葉に目を瞑って、自分の取った行動を客観的に考えたのか、ユウカがハッとする。


「気付いたみたいね。今回の共闘は協力して戦うって言う事を、理解して欲しかったのよ、私達が次の段階に進むために」


「次の段階?」


「2人が戦ってる間に話してたのよ、個々の戦い方で通用しない相手が出た時、連携する事で勝ち筋を、もしくは全員で逃げ切ることも視野に入れてね」


(そっか、私は魔法で攻撃するから、後ろからガンガン魔法を撃つことだけを考えてた。でもこのパーティーの中で最高戦力はお兄。今言ってたような魔物が出た時は、お兄が最大の一撃を叩き込める様に、私と姉さんで援護しないとダメなんだ。今回の相手ならその模擬戦が出来たのに私が一方的に蹴散らしちゃった)


「まぁ、今までが力でゴリ押しだったんだし仕方ない仕方ない、次から出来なきゃダメって訳じゃ無いんだし、ゆっくり慣れていこう」


「………ゴメンねお兄、この前考察力を鍛える為に、意地悪な言い方するって言われたばっかなのに、私また言葉の表面だけ掬って分かった気になってた」


「気にしなさんな、切り替えて行こう」


 そういってオレはユウカの頭を優しく撫でる。

 少し身じろぎしたが嫌がる様子も無く受け入れてくれる。


「あの! 私もがんばりましたから! その……」


 ティナもおずおずと頭を出してくる。


 自分でやっといて何だが、女の子って頭、と言うより、髪に触れられるのってあんまり好きじゃないって聞いたんだが、違うんか?


 そんな事を考えつつ、じっと待つティナをこのまま待たせるのも可哀想なので、同じ様に優しく撫でてあげる。


「ンン~」


 小さく声が聞こえる、ティナは狐耳がある分反応が分かり易いなぁ、耳が垂れて、足の両サイドから振れてる尻尾が見え隠れしてる。

 頭を撫でて喜んでくれるのなら、幾らでも撫でましょう。


「はい、頭を撫でるのはおしまい、討伐部位を取って進みましょう」


 アヤカに〆られてしまったら終了だな、名残惜しいけど部位回収をしますか。


 4人で手分けして右耳を回収してる最中、階層支配者フロアマスターでもあったホブゴブリンの耳を回収しようとした時に違和感があった。

 違和感というよりも、何か気になるってのがしっくりくる、念の為に死体を退かしてみると、さっきまでは無かった剣が落ちてる。

 こいつ等の武器は棍棒か石斧だったから直ぐにピンときた、これが倒した後に出る宝だ。


「ユウカ、ちょっと来てくれるか」


「どうしたの? って、その剣何?」


「稀に出るって言ってた宝だと思う、視てくれるか」


「おけ」


 ゴブリンソード:ゴブリンの中ではこの剣を持つ事が上位の存在としてのアピールとなるが、剣としての価値は余り無い。

 攻撃力+30


「ゴブリンソード、攻撃力が30で上位者のアピール用だって」


「なるほど、武器が壊れた時でもないと使う事は無いな」


 どっかのゲーム見たいに強力な技が使える訳じゃないのかい!ちょっと期待したじゃねぇか!

 しかし宝と言っても全部が当たりって訳じゃなく、こういうハズレみたいな物も出て来るのか、稀って言うくらいなんだからそこは良いアイテムだけ出てくれよ。


 右耳とゴブリンソードを回収し終わって、いよいよ2階層目へと続く螺旋階段を降りていく。

 時計を見ると、ダンジョンに入ってから凡そ1時間が経過していた。

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