第26話 ダンジョンの座学会
「すみませんでした! 許してください!」
顔面蒼白で腰を90度曲げて謝罪をする冒険者、そしてそれを面倒そうな感じで見る男。
きっと頭を下げてる側は生きた心地がしないだろう、全身がブルブルと震えている。
「おい」
「はい!」
「何時までそうしてる気だ、邪魔だし時間も押してんだ、元の位置の戻れ」
「え…あの……ゆるし…」
「今はお前に構ってる時間はねーんだ、とっとと戻れ、そしてダンジョンに関する質問以外は黙ってろ!」
「はいッ!」
大急ぎで元の席に戻る冒険者。
言い方はぶっきらぼうだけど、ちゃんと聞いてる冒険者の事を考えてる人なんだな、そうじゃなけりゃ、圧倒的優位な第2ラウンドが始まってた。
「一応今の俺は臨時の職員扱いとなる、覚えておけ。続きだが、魔物は通路以外にも、当然部屋の中にも居る、場合によっては罠で突然現れたりもな。先に言っておく、逃げ様とするな」
「何故逃げたらダメなんですか?」
現役Bランク冒険者と分かって全員聞く気になった上、口調が丁寧だ。
「特に罠で出現する魔物は大抵の場合素早い、逃げれば逃げる程魔物を引き連れる事になるし、最悪なのはそれを別の冒険者にぶつける事だ、どうなると思う」
「ぶつけた冒険者に恨まれる?」
「それだけじゃねぇ、もしそれで死人が出たら徹底的に探される、手始めにダンジョンの出口を張られてな」
冒険者は全てが自己責任の職業だけど、さすがに仲間をそんな形で失ったら納得出来ないよな、自分達の不注意で死なせたんじゃなく、赤の他人の、それも尻拭いで失ったのなら、それは殺されたと一緒だ。
「でも、一瞬で相手の特徴を覚えるのは不可能だし、見つけるなんて出来ないのでは?」
「ギルドカードを貰った時に説明されたり、されなかったりとまちまちだが、魔物をギルドに
ギルドカードにそんな機能が付いてるなんて初耳だ、もしかしてシーラさん説明し忘れた?
あぁ~でも、冒険者登録した時って、ギルド側はめっちゃ色々説明しなきゃならない事あったよな、確かカードの説明から始まって、依頼関係、アイテムの等級、ランクアップ―――――まぁ沢山だ。
その中から、ギルドカードに討伐履歴が残る残らない云々は、正直誤差だ誤差、有っても無くても全く変わらんし。
「そしてどういう訳かダンジョン内でのみ、倒した存在の情報がカードに載る、たとえ直接手を下した訳じゃなくてもな。これで出口を張られる理由が分かるな?」
履歴の照会をすれば一発だからか。
「あの、もしそれで見つかったら、その冒険者はどうなるんですか?」
「さぁな、だが確実に良い事にはならねぇのくらいは予想出来んだろ。そうなりたくなきゃ、逃げんな」
自分で蒔いた種は自分で刈れってことですね、当たり前のことだけど、冒険者間にも最低限守るべきマナーがあるって事だな。
それでも自分の命が危険に晒されたら、その限りじゃない者も出るだろうし、油断は禁物と。
「そして徘徊している魔物に関してだが、これがかなり難しい」
聞けば魔物の討伐権は2種類存在し
① 魔物が狙いを定めた冒険者。
② 魔物が何物も狙っていない状態で、先に攻撃した者、もしくはパーティー。
特に②は、攻撃着弾までの間に魔物が誰かに狙いを付けて移動を開始すると、冒険者同士の衝突に発展する事もある為、基本的には①が優先されるが、それでも衝突があるそうだ。
冒険者同士の問題を避けるのであれば①一択以外に無いな、ってかコレに関してはオンゲのタゲ取りが正にそれだ。
生息数の少ない奴+ボスの素材や、レアドロップ狙いで喧嘩に発展してるところを見かけたなぁ、オレは関わり合いになりたくないから即離れるけど。
「次に広間を見つけた場合だが、絶対に直ぐには入るな」
「入るなって、入らないと先に進めないのでは?」
「入るなって言ってんじゃねぇ、直ぐには入るなって言ってんだ。広間には多くの場合、
「それじゃそいつらを倒せない奴は、先に進めないってことですか!?」
「そうなるな。俺は勧めないが、一応倒してから復活するまで多少間が有るから、その間に通るって事も出来るが、これは下手すると通ってる時に復活する事もある」
「なんだよ、倒された後なら通れるのか、なら安心だぜ」
いや、今の言葉のどこに安心要素があったんだ?
通ってる間に魔物が復活したら確実に死ぬって言われてるのに、どうして良い結果ばかり予想して、悪い結果や、過程を考えない冒険者が多いんだ。
「あと、
それは素直にありがたいな、疲れ切って戻る時に再度戦いたくは無いし。
だが今の話を聞くと
「言い忘れてたが、特殊な場合を除いて、2階層目以降の各階層には必ず休息所がある、メシを食う、休憩する、仮眠を取ると言った場合は必ずそこを使え」
特殊な場合?
なんだそれ、さっきも基本的にはって発言もあったし、何か例外な事があるのか?
「それは他の冒険者もいるから安全ってことッスか?」
「違う。そこは魔物は絶対出現しないし、入っても来ないからだ。逆に悪意の有る冒険者は居たりするから、レアアイテムなんて見せたら、後つけられて襲われるぞ」
狙われるのはアイテムだけじゃ無いだろうし、オレ達も気を付けないと変なのに絡まれかねないな。
「襲われたらどうすりゃいいんスか」
「んなもん返り討ちにしろ、出来ねぇなら全力で他の冒険者に助けを求めろ」
「あんたさっき、人を殺したらカードに載るって言ったじゃねーか! 出来ねぇよ!」
「返り討ちの場合は返り討ちにしたって載んのさ、どういう理由で載るのか分からんがな、そして最後に、稀にダンジョン内に外の環境が出来ることもある」
「外の環境って?」
「言葉通りだ、森、沼地、荒地、砂漠、火山、雪山、とまあ色んな環境が形成されることがある、この場合、部屋も休息所も無くなり難易度は跳ね上がる」
跳ね上がる所か、攻略不可能も出るレベルじゃないかそれ。
「火山や雪山なんてどうやって攻略すれば、下手したら環境だけで死んじまうよ」
「進むも引くもそれはお前達次第だ、さて、これでダンジョンについての説明は終わるが、何か聞きてぇ事はあるか?」
ざっくりとダンジョンの基本的な事は分かったけど……今の自分が、ダンジョンの何が分からないのかが判らないから聞きようが無い。
多分こういう時って、入った後に色々疑問やら何やらが出るんだよなぁ。
「無ければこれで座学会を終わる、終了証を渡すから並べ、受け取った者から受付に渡して地図と交換して貰え」
その言葉に座ってた冒険者達が続々立ち上がり、終了証を受け取って行く。
あの襟首を掴み上げたのは………隅に居るな、まぁ面倒な事にはならんだろうし、オレ達も受け取って早く宿を探さないと。
「お前達は4人パーティーか、ほら」
(こいつはさっきの止めに入った。受付から集まってるのはF~Dランクって聞いてるが。実力どころか装備も見せてないのに何故冒険者と気付けたんだ? ………分からんな、分からんが、こいつには気付けるだけの何かがあった、それだけは事実だ)
その後はやけに対応が良い受付で地図と交換して貰い、聞き込みと相談をする為に、ギルドの端にあるテーブルに腰を下ろす。
「それで、どうして突然ギルドに行く事にしたんですか?」
さっきよりマシだけど、声のトーンからしてまだ機嫌悪そうだなぁ。
普段怒っても声を荒げる訳じゃなく、声の迫力で圧すタイプだから凄くおっかないんだよな。
「私もそれ気になってた、繁華街に向かおうとして直ぐだよね、お兄が冒険者ギルドに向かおうって言ったの」
「あの時言ってたアレって言うのが関係してるんですか?」
「ティナの指摘した通りなんだけど、3人共、この街に入って冒険者ギルドまでの間にどう感じた?」
「どう感じたって言われても、ダンジョン都市だけあって宿が多いなと」
「私は飲食店が多いと思った」
「耳が良いせいか私は凄く賑やかだと」
3人共「そうだよねー」と話し合ってる、いやぁ若いって羨ましいよなー、オレもまだ辛うじて10代だけど、女性陣の会話に入って行けない。
話し合ってる内に他の冒険者に聞き込みしてみるか。
「すみません、この辺の飲食店は、夜遅くても営業してるんですか?」
「お前達コルセアは初めてだったのか? この街だと、飲食店の殆どは一昼夜交代で営業してるから、遅くも早くも関係無いぞ」
「常に開いてるんですね。ありがとうございます」
やっぱり24時間営業だったか、しかも殆どの飲食店って言ってたもんな、これは繁華街や飲食店が近いと夜が大変そうだぞ。
大声だけじゃなく、酔っ払って部屋にまで押し入ってきたりとかも考えると、出来るだけ離れたとこのが安全だな。
考え込んでると視線を感じて顔を上げてみる、3人に凝視されてた。
「今の会話って聞こえてた?」
「多分ですけど、話の流れから飲食店近くの宿屋は騒音問題がありそう、って言いたいんですよね?」
素早く理解して貰えたようで何よりです。
「夜はってより、寝る時は静かな方がいいでしょ?」
「そうですね、私は静かな方がいいです」
「それと、カズシさんの考えでは、どれくらいここに滞在する予定なんですか?」
滞在期間か、レベルをあげる、金策をするって事なら、どっしりと腰を据えて行うべきだし、ダンジョンの各階層の詳細もまだ不明だらけだしな、最初の1週間くらいは様子見って感じになるだろう。
「とりあえず1週間はダンジョン内の情報収集かな、内部の魔物がどれくらいの強さがあって、ティナのレベル上げに何階層が適してるか調べたいし」
その前に、まずは自分達の休める場所を確保しておかないと、体が付いて来ないだろう。
ダンジョンには他の冒険者も大勢いるだろうから今までと違い、精神的な疲労が多くなる事が予想出来るし、出来るだけ静かな宿を探さないとだ。
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